マス◯ーキートン復刊記念 酒場にて(改)
色々あったようですが、復刊はおめでたいです。また読みたいですね。
200☓年。英国、シティ。
ビジネスマンが行き交うシティのパブに昼間っから飲みに来る人間は少ない。
今一人のチェコ人が入ってくる。三十代後半の険しい目をした、男だった。
男は店内を見まわし、店の奥のカウンターでビアーを飲んでいる東洋人を見つけた。
身なりは英国紳士。顔は日本人。少し頼りない風にも見えるが、落ち着いた物腰に人となりが垣間見えた。
「ミスター大賀か?」
「ええ。あなたが、コズロフさん?」
「そうだ。おれがこの件の窓口となる。組織の意志はおれから伝えられる」
「そうですか。了解しました。私が今回の取引の交渉を保険会社から委託されました。そちらの要求を会社と依頼人に伝えます」
「分かった」
「どうですか、ビアー」
「一杯もらおう」
コズロフはカウンターの向こう側にいる店主にビアーを注文した。
コズロフがグラスのビアーを半分ほど飲んだ時、大賀が口火を切った。
「そちらの要求を聞きましょうか?」
「うむ。まず金だ。500万ユーロだ」
「え?たったの500万って。ニコラエ・チャウシェスクに秘蔵されていた未発見だったフェルメールの真作ですよ。サザビーズのオークションで5000万ユーロで今のオーナー、依頼人が落札したフェルメールの絵がたったの500万だなんて考えられない。贋作を掴ませるつもりですか?」
「そうさ。あれは元々贋作だ。真作だなんてとんでもない。おれが描いたんだ」
「あなたが、贋作者…」
「そうだ。あれはルーマニアの地下組織に資金調達するためにその元凶に贋作を買わせていたのさ」
「あなたはチェコ人なのに、なぜルーマニアの地下組織に手を貸していたんですか?」
コズロフはビアーを最後の一滴まで飲み干した。
「所詮チャウシェスクもソビエトの傀儡に過ぎなかった。東欧がソビエトにとってNATO軍侵攻時の防壁に過ぎなかったように。
おれ達はあの頃から既に反ソビエト同盟を築いていた。今も尚チェチェンに手を貸し、ロシアにテロ活動を行っている。そういうことだ」
「今回のフェルメール強奪、交換取引の裏側をなぜ私に?私は交渉人なんですよ」
「…疲れた、のかもしれない。おれはあの絵の真相を知って欲しいのかもしれない。おれ達のような小国の民が大国とどう戦ってきたのかを知って欲しかった。だがもう人殺しは終わりだ。疲れた、という弱音はおれが吐いてはいけないのかもしれないが。完結したいのだ」
「…死ぬ気ですか。仲間を裏切って」
「裏切ってはいない。英国紳士は金を払う。そういう仕組みなのさ」
「ランバート卿が…なるほど。彼も貴方達の仲間だと。これは形式的な茶番なのですね」
「察しがいいな。彼は反ソビエト組織の資金提供者なのさ」
この交渉劇はそれを正当化する為に行われた、ということなのだ。
「絵は港の倉庫にある。場所は既に彼に教えてある」
「それで、あなたはどうするんです。私はこの事を保険会社に報告します。絵が贋作だったことは明らかにしなければなりませんから」
「いいさ。承知の上だ」
コズロフはカウンターを離れ扉に向かった。
「大賀、もう会うこともないだろう。話を聞いてくれて感謝する」
「さよなら、コズロフさん」
男は背筋を伸ばし誇らしげに店を出て行った。
なおこの作品はフィクションであり、登場する人物組織はすべて架空の設定です。
思いつきで考えたものなのでツッコミは禁止です。あくまでそれっぽい風と言うことで。




