3 悪役令嬢、需要を謳う
早速、地位と資金を惜しみなく注ぎ込み、私は複製の技術を模索している。
馬車の車輪が石畳を刻む音が、私の決意を鼓舞するように響いていた。
王都の一角、重厚な石造りの建築が並ぶ芸術の聖域。
私はエルデンベルク公爵令嬢としての矜持を纏い、画家ギルドの門を潜った。
「公爵令嬢……! このような場に、一体いかなる御用で?」
迎えた受付の男は、私の美貌と、背後に控える家紋入りのお仕着せを身に纏った従者を見て、狼狽えたように頭を垂れた。
アトリエの奥からは、絵具の香りと共に、好奇の視線が幾重にも突き刺さる。
私は扇を閉じ、なるべく凛とした声を響かせた。
「肖像画の――極小化、そして複製の技術について、貴方たちの叡智を拝借したいのです」
「複製……でございますか?」
静寂が場を支配する。
画家たちが次々と筆を置き、集まってきた。
彼らの瞳には困惑が色濃い。
この世界において、肖像画とは貴族の権威を象徴する一点物の芸術であり、量産などという概念は、美への冒涜に近いのである。
案の定、年嵩の画家が、震える声で異を唱えた。
「美しき魂を閉じ込めた肖像を、あえて複数作るなど……。そのような、卑俗な需要が果たしてあるのでしょうか」
老画家の言葉に、私は心の中で笑った。
「いいえ、これは卑俗な量産品ではありません。美の遍在化です。たった一つの原画を一部の富裕層が独占するのと、万人がその美に救われるのと、芸術としてどちらが善か……議論の余地もありませんわね?」
彼らの保守的な観念を射抜くように断言する。
甘いわ。
オタクの――いいえ、信仰者の購買意欲を舐めないで。
「では、問いましょう。例えば、愛する人の笑顔を、戦場へ行く夫が、あるいは病床の母が、肌身離さず持っていたいと願う……それを卑俗と切り捨てますの? これは芸術の切り売りではありません。美による魂の救済のパッケージ化ですわ」
私はさらに畳みかける。
「私はこれを『聖影札』と名付けました。肖像画の概念を破壊し、再構築する。私と共に、歴史に名を刻む勇気がある方はいらっいませんこと?」
――さあ、チョロい……もとい、純粋な芸術家さん。
私の前世知識に、ひれ伏しなさい。
その刹那、一人の若い女画家が瞑目し、それから焦がれるように両腕を組んだ。
彼女は、自らの内に秘めた憧憬という名の情熱を、私の言葉に見出したのかもしれない。
画家ギルドを後にした私は、その足で魔術師協会へと向かう。
そこは、真理を追究する者たちが集う、冷徹な理性の城。
私は彼らを前に、魔法印刷による転写を提案した。
「魔法で画像を複製する技術を、民間に開放していただきたいのです。愛する者の姿を、色褪せぬものとして刻むために」
一人の若き魔術師は、眼鏡の奥の瞳を好奇に細めた。
「興味深い。ですが、経費に見合うだけの需要が、果たしてあるとお考えで?」
「それを創り出すのは、私、いえ、私たちですわ」
私の脳は、未来の光景を既に幻視していた。
想い、焦がれ、救われる人々の姿を。




