第3話 ファニードール【後編】
(*´∀`*)おぱようございみゃふ!
「ガオオオオン!」
咆哮を上げながら火球を吐き出す旦那様。
その火球を避けながら突き進むナギ様。
火球は御屋敷を破壊し燃え上がらせ、流れ弾が町の方にまで飛んで行きます。
あんな物が木造家屋が密集する住宅街に落ちれば、何十人、何百人も死傷者が出るでしょう。
私も流石に完全な無関係な人々が犠牲になる事に心を痛めます。
しかし―――
「くそっ!」
ナギ様が手を翳すと、流れ弾となっていた火球が消し飛びます。
罪の無い人々を助けるナギ様⋯素敵です。
「お前の相手はこっちだっ!」
ナギ様が空高く飛び上がります。
旦那様は肥大化して鈍重となった体を蠢かせ天を見上げると、真上へ向けて火球を放ち始めました。
「おおおおおおおおおおおおおおっ!」
ナギ様は火球を躱しながら特攻を掛けます。
「うらああああっ!」
「グボォォォォォォォォォォォォォッ!?」
ナギ様の拳が旦那様の毛むくじゃらの顔面に突き刺さり、転倒させます。
「きゃぁっ!?」
地震でも起きた様な地響きを鳴らして旦那様が横倒しになりました。
宙に浮いていた筈の私でも倒れそうになります。
「おおおおおおおおおおおおっ!」
ナギ様が拳を握り、旦那様の大きなお腹を殴ります。
空気を震わす程の衝撃がこちらまで伝わって来ます。
あの美しく細い腕の一撃に、いったいどれ程の力が込められているのでしょう。
(―――あの力強い腕で抱き締められたい―――)
「ゴボォォォォォォォッ!?」
ナギ様の猛攻により、旦那様が苦鳴を上げます。
肥大化した筋肉と鋼の様な剛毛で覆われた旦那様の強靭な肉体が血に染まっていきます。
血反吐だけでなく、恐らく内臓すら口から吐き出し旦那様が悶え苦しみます。
「うおおおおおっ!」
ナギ様は雄叫びを上げながら、自分よりも何倍も大きい真っ黒な巨体を殴り蹴り投げ飛ばします。
天使様とは思えない泥臭い戦い方でした。
ですが⋯
「素敵」
⋯それが良いのです。
「ギュオオオオオオオオオッ!」
瀕死の旦那様が咆哮すると、雲が黒く染まり、稲光が集まります。
断末魔⋯ではなさそうです。
まだ何かして来る様です。
「ひっ」
ナギ様に殴られながら私を睨む瞳に恐怖を覚えます。
私に取り憑く筈だった悪魔の執着なのか、宿主と成った旦那様の私への妄執なのか。
風が轟き、嵐と成ります。
雨粒が荒れ狂いながら迫りますが、光の膜が私を守って下さいます。
強風で加速された雨粒は、弾丸の様に建物を削り飛ばします。
旦那様が築き上げたであろう富の象徴、立派な御屋敷が旦那様の手に依り完膚無きまでに破壊し尽くされていきます。
「いかんっ!?離れてろっ!ファニード―――」
「ナギ様っ!?」
ゴロゴロと雷鳴が轟き、ズシンッ!と云う轟音と共に雷が大地に突き刺さりました。
眩い光に目を閉ざします。
「きゃぁああああっ!?」
雷撃は地面を伝わり広範囲を破壊して行きます。
御屋敷は完全に崩壊し、私もその雷の津波に飲み込まれてしまいました。
(ナギ様っ!?)
宙に浮いている筈の私の体も痺れていきます。
(痛いっ!?ナギ様っ!?)
ナギ様の作って下さった光の膜でも防ぎ切れないのでしょう。
私も死を覚悟します。
私の事はもう良い。
ナギ様がご無事ならそれで―――
(ナギ様、どうかご無事で⋯)
雷撃の爆心地に居たナギ様へ私が心を砕きます。
⋯しかし―――
「―――はぁっ!はぁっ!がはっ!」
目を開けると目の前にナギ様の大きな背中がありました。
ナギ様の黒い鎧はシュゥシュゥと煙を上げています。
衣服だけでなく皮膚も焼き裂かれているのか、足元に血溜まりが出来ていきます。
血を吐きながら立ち尽くすナギ様を見て私の血の気が引きます。
「ナギ様っ!?私の事等は―――」
守って下さった歓びよりも、ナギ様が傷付いてしまった事実に私の胸が締め付けられます。
(わ、私の所為で―――)
「俺は、ファニードールを―――」
唇の端から血を滴らせながら、ナギ様が足を踏み締めます。
「グオオオオオオオオオオオオオンッ!」
旦那様が太く肥大化した手足をバタバタと動かしながらこちらへ突っ込んで来ます。
大口を開けて地面を削りながら迫り来る旦那様。
ナギ様ごと私を食べるつもりなのでしょう。
黒い巨体も焼け焦げています。
先程の攻撃は自分ごと雷撃を落とす捨て身技だったのでしょう。
連発されないだけ良いのでしょうが、今の満身創痍のナギ様には、あの質量が突進して来るだけで脅威です。
「ナギ様っ!私の事は良いのですっ!逃げ―――」
「愛する女をっ!救うっ!為にっ!来たんだっ!」
「―――ナギ様ぁ!?」
危機的状況にも関わらず、私は何度目になるか解らない胸の高鳴りとトキメキを止められません。
ズルいです。
こんなタイミングの愛の告白。
此れで堕ちぬ女の子が居るでしょうか?
私を犯して喰い殺そうとして来る悪魔、それから命懸けで守って下さる天使様。
何故ナギ様が私を助けて下さるのかは解りませんが、一番大事な事は解りました。
ナギ様が私を愛して下さっていると云う事です。
(私⋯こんなにナギ様に愛されている―――)
私は心の底から歓びを感じます。
もう不安は有りません。
「ナギ様⋯私、信じております」
「―――ん⋯ああ、お前も、守る」
そう云ってナギ様の姿が掻き消えます。
加速された体は今の私の目では追い切れません。
「ゴポォッ!?」
旦那様が大口を開けたまま停止します。
目は飛び出そうになり、お腹がボコボコと動きます。
ナギ様の姿が見当たりません。
「まさか―――」
旦那様の体の内側から、光の筋が漏れ出て来ます。
そこで漸く気付きました。
ナギ様は旦那様の口に自ら飛び込み、お腹の中で暴れているのだと。
「―――光よ」
聴こえる筈の無いナギ様の声が耳に届きます。
瞬間、光が生まれました。
地上から、天空へ向けて光の柱が伸びて行きます。
「グボギャアァァァァガァァァァァァアッ!?」
旦那様の肉体がブチブチと引き千切れながら天へと昇って逝きます。
肉片は光に晒され塵と成ります。
ナギ様が放った光の柱は黒雲に突き刺さります。
厚い雲を貫き、光が雷雲を吹き散らします。
雲は晴れ、陽光が燦々と降り注ぎます。
「ナギ様⋯」
光の円柱の中心にはナギ様が居り、天に向かって拳を振り上げておりました。
終わった。
そう確信しました。
私はヨロヨロと歩み寄ります。
光の膜は無くなっていました。
ナギ様の力が尽きたのか、もう安全だと云う事なのか。
「か、勝ちました⋯の?」
おずおずと私が話し掛けます。
「はぁ、はぁ⋯ああ⋯終わった」
ナギ様が振り返ります。
その美しい面は血と泥と肉片で汚れています。
でもそれは、私が見た中で一番美しく気高いものに見えました。
「大丈夫か?ファニードール」
自身の傷等気にせず、私を案じて下さる優しい天使様。
もう私は限界でした。
愛しい想いで心が決壊します。
涙で視界がボヤケます。
「はいっ!ナギ様ぁっ!」
私は愛しい愛しい、私だけの天使様に抱き着きました。
(*´∀`*)お読み頂き有り難う御座いみゃす!




