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第8話 寄合


――アバタメ――



「今日は寄合がある。こないだの鬼の話だ。日が落ちたら出かけるぞ。」


アバタメはタケにぶっきらぼうな口調で告げた。


「シラネブにこれ持ってってやれ。」


タケが葉に包んだ味噌を渡してきた。


「あいつはほとんど一人で食べちまうぞ。」


周りに食べろ食べろと勧めながら、自分でほとんど食べてしまうシラネブが、頭に浮かんでくる。


「まぁ、あれでも村の肝煎きもいりだからな。」


タケに礼を言って家を出る。

シラネブの家に着くまでに幼い日のことを思い出す


――あいつとは、名前がまだ三文字の頃、何度も殴り合った。

年は向こうが上だが、体は俺の方がでかかった。

今や二人とも贄名にえなをもらい、三文字から四文字の名に変わった。

穢れを名に封じる習わし。


親の後を継いで、俺は農民頭のうみんがしらに。

あいつは村を束ねる肝煎になった。


「肝煎、入るぞ。」


戸を開けると俺が最後だったらしい。

三人は囲炉裏の周りに座っていた。


助役のホソガネが、すっと席を詰めてくれた。

小柄で線の細い男だ。

寄合でも合議でも口数は少なく、盃を指でなぞる癖がある。

女房を大事にしていると聞く。

悪いやつじゃない。

だがどうにも馬が合わない。


どかりと胡坐あぐらをかくと、シラネブが声をかけた。


「アバタメ、よくきたな…よし、モガリネ始めるぞ。」


モガリネ――今日は仮面を外していた。

儀式がない時はモガリネは仮面を付けない。

まだ小さな娘に顔を覚えてもらうためだと言っていた。


優しい眼差しで娘のことを語る。

呪い師(まじないし)らしくない呪い師。

怖がられるのは子供に苦い薬を飲ませるときぐらいだ。

気のいい男だ。

娘の名を呼ぶときだけ声が柔らかくなり、ふとした瞬間に肩を落とす癖がある。

目が合うと、モガリネは小さく咳払いをした。

古めかしい言葉を低く唱えると、四人の手が同時に打ち鳴らされ、座敷に鋭い音が響いた。


他愛のない話を挟み、酒と味噌がまわる。

シラネブの息子ハスネが先の合議で口を挟んだ後、父親にきつく諭されたらしい。


囲炉裏の火がぱちりと弾け、赤い火の粉が宙に散った。


シラネブが盃を傾けるたび、味噌の香ばしい匂いと酒の酸味が混ざり、狭い座敷にじっとりとした熱気をこもらせる。

モガリネが口を開いた。


「シラネブ、そろそろ息子のハスネに贄名をやるころじゃないか。」


今年はハスネ以外に贄名を付ける男はいない。

ハスネだけの贄名の儀になる。


シラネブは一つ頷く。


「まぁ、それもおいおい話すが、鬼のことも話さねばよ」


シラネブは最後に残った味噌を酒で流し込む。


「アバタメ、お前あれは鬼だと思うか」


炎が揺れ、影が踊った。


「わからん。ただ、しょんべん漏らすような鬼は知らん。」


と俺は答え、盃を口に運ぶ。酒の味がすっと薄れる。


「なんにせよ穢れ(けがれ)だと思う。穢れだとしたら、殺すべきだった。」


モガリネがぽつりと呟く。

ホソガネが盃をそっと置いた。

火の音が遠のき、部屋の空気がすうっと冷えた。


モガリネの言葉に、俺の腹の中で何かがざわつく。

鏡の中に写っていたあいつの家族を思い出す。


そのとき、ドンッ、ドンッと戸を叩く音が座敷を切り裂いた。

汗に濡れた顔のハスネが飛び込んできて、声を震わせる。


「アバタメ! カズラが……いねぇ!」













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