第13話 埋葬——明——
——明——
夜が明ける少し前。
残り2%のスマホを見ながら、私の現実に思いをはせる。
電源は入れていない。
MARIKO、ユキ。
私の現実。
現実の残り火。
戻れないから、私は諦め、裏切ったのか。
それとも……。
どちらにせよ、私は新しい現実に生きると決めた。
マリの寝息が聞こえる。
マリ。
あの夜を思い出す。
孤独な獣がお互いを赦し、人に戻った夜。
そして今、ここで生きる決意を固めた朝。
夜明けの気配を全身に感じながら、土間で水を飲んでいると、マリが目を覚ます。
「おはよう、マリ。」
明るく、何事もなかったかのように挨拶をする。
マリは挨拶を返し、怪訝な顔のまま近づいて言った。
「サトル、夜明け前から起きてたね。どうしたの。」
「いつも夜中にその鏡を見てるね。」
どうやら私が思ったより、マリは私のことをよく見ている。
マリに頭をはたかれた。
「しゃべれ、サトル。あたしは聞くから。」
マリはいつも、私にわかりやすい言葉で喋る。
賢くて、優しい人だ。
マリの勝気な瞳が潤んでいた。
伝えよう。
たどたどしくてもいい。
理解してもらえるように、覚えた言葉を必死に手繰り寄せる。
「マリ、私には家族がいる。前にいたところで作った家族だ。」
マリは静かに聴いている。
「そこには戻れない。絶対に。妻と子がいた。この鏡は、二人からの贈り物だ。」
残り2%となったスマホを取り出して見せた。
伝わっただろうか。
マリを見つめる。
「マリ、私は君と暮らしたい。だからこれは、土に埋める。」
マリは私の目を見つめて言った。
「サトル。あたしもサトルと暮らしたい。」
マリと家の裏手に出る。
少しずつ冷たくなってくる風が、身を凍えさせる。
そっとスマホを取り出す。
冷たく、まるでもう心臓の止まったウサギのようだった。
穴の中にそっと寝かせる。
MARIKO、ユキ。
ありがとう。
そして、ごめんなさい。
下を向き、静かに手のひらを合わせて呟く。
左手を眺め、ふと気付く。
――結婚指輪。
心の中を寒風が吹きすさび、身体が凍るような気がする。
MARIKOとの出会い、赤ん坊の頃のユキが思い浮かぶ。
涙で視界がぼやける中、歯を食いしばる。
指輪に手をかけた時、マリに後ろから抱きしめられた。
涙が頬へと流れ、静かに零れ落ちた。




