推しができました
春の刻21、22
いつものように朝食を運びノックをして挨拶をする。
「おはようございます姫様。朝食をお持ちしました」
「あ…ありがとう…」
初めて挨拶を返してくれたな~なんて思っていると「キャッ」と扉の中から悲鳴が聞こえた。
声とともにドサッという音も聞こえ無礼だと思いつつも勢いよくドアを開けた。
「姫様!ご無事ですか⁉」
ベットのそばで布団をかぶるようにくるまっている物体が見える。
部屋を見渡すと綺麗にされており、引きこもっていて誰にも部屋には入れてくれないと言っていたが掃除は行き届いているようだ。
姫様が自主的にしていたのだろう。
物語でよく見るザ・お嬢様な部屋は写真を撮りたいほどだった。
スマホや電化製品のないこの世界では不可能で残念だ。
「姫様?お怪我はありませんか?」
近づいて聞いてみるが、震えているように見える。
やはりいきなり入るのは早急すぎただろうか。
ブーンッ
とよく聞いたことのある音が聞こえる。
換気のために開けていたのであろう窓から蜂が入ってきたのだ。
「姫様、もうしばらくそのままでいらしてください。虫が入ってきたので逃がしてきます。」
なんて言ったものの、スプレータイプの殺虫剤やハエたたきはないしどうしようか。
大きさ的にスズメバチでもクマバチでもないがここはあちらの世界とは違うため侮れない。
氷で冷凍スプレーのように凍らすか?
それとも燃やす…いや人の部屋に被害が及ぶな。
最大の問題は飛び回っていることだ。
止まっていれば刺されてでも捕まえるが飛び回っているのなら埒が明かない。
キン〇ールがあればなあ…。
ブーンと羽を鳴らし続ける蜂は急に進路を変更したのか窓の外に行ってしまった。
とりあえず窓を閉めてみるが蜂は外のすぐそこにある木に止まっていた。
あの木は昨日ニコラスに登ってもらった木だな。もしかしてハチの巣があったのだろうか。
よく見ると蜂のとまっているのは木ではなく、木に咲いている花であることが分かった。
なるほど花の香りに誘われたのか。にしてもあんな先端に花なんて咲いていなかったはずなのだが…
「も…もう大丈夫…?」
姫様の方を見ると布団から手を出している。
「虫は窓の外にに行きました。姫様が助けてくださったのですか?」
「そこの木に…花の魔法をかけただけ…。でも見てやってないから成功してるかわかんない…」
「気の先端に花が咲いています。それに蜂はつられたみたいですね。あの花は…桃の花でしょうか」
「あれ…?薔薇を想像してやったのに…」
被っていた布団からでて窓の外を見る姫様。
目が合うと顔を赤くしてまた布団をかぶってしまった。
金髪で青色の瞳をしていて、布団をかぶっていたからだろうが髪はぼさっとしていたがふわっともしていた。
姉とは違う可愛いのベクトルに声が出そうになった。
こんな美少女の部屋に己がいることに許せなくなる。
やがてすすり泣くような音が聞こえてきた。
「やっぱり…私はダメな子なんだ…。兄さまやお父様のように上手に魔法が使えないし…お母様のように綺麗じゃない…。」
「…姫様、姫様はそれを肯定してほしいのですか?それともその考えを否定してほしいですか?」
「え…?…わかんないよ…」
「そうでしょうね。国王様には国王様の良さがあり、王女様には王女様の良さがある。それはその人だけが持つものであって人と比べるものではありません。成長のスピードも人によって違いますし、容姿は人の好みによって変わります。万人が綺麗だと思っている花があっても、一人でも可愛いと思っていればその花は綺麗で可愛らしい花となります。比較というのはとある条件が一致している状態でするものです。年齢という生きている年数は、人と人とが全体での比較をするとなれば大きな障害です。」
「…貴方は…何が言いたいの…」
「魔法の使う経験が姫様よりも多い国王様やリオマー様と比較をしたら、私だって劣っていますよ。女王様との綺麗という比較も人によって変わるでしょうし、どちらかというと姫様は可愛い部類に入られているので一重に綺麗だけで判断は難しいです。そもそも私はあまり王族の方と関わりがあまりないので比較しようにもできませんし、人を比較しようとも思いません。一言でまとめますと、まだ何もしていないのに劣っていると決めつけて生きるなんてそれこそ愚かというものですよ。」
やっべ、言葉選び間違えたな。
首が飛ぶか…前の世界から言い方がきついと言われてきたから直そうとはしてるんだけどなぁ。
愚かはないだろ愚かは。
せめてもっとましな言い方をしたかった。滑稽とか。
熱中するとどうしても口が悪くなるし敬語も適当になる。
「…なたに…何がわかるのよ…」
「(あなたに何がわかるのよ…かな?聞き返すか)先ほど、何かおっしゃいましたか?」
「…!あなたに何がわかるのよ!この国の王族として産まれて、殺されそうになったり聞こえてくる陰口の日々!私は…王族になんて産まれたくなかった!こんな気持ち、貴方にはわからないでしょうね!」
「ええ、わかりませんよ。そもそも、人の気持ちを100%、完璧にわかるなんて他人には不可能なことです。姫様の気持ちを私がわからないように、今の私の気持ちを姫様はわかりますか?」
「そんなの「『知らない』ですよね」…」
「無礼を承知で言いますと『めんどい』ですよ。それと同時に興味も沸いているんです。姫様は八歳にしてはかなり考えられる人です。ご自分の立場というものを理解している賢い人だということですよ。そんな賢い姫様なら、殺されそうになる理由も陰口を言われている理由も既に答えは出ているのでは?」
「…わかってるわよ。だから!王族になんて産まれたくなかったのよ!そもそも私は産まれたいなんて頼んでもないの!」
「まぁ、産まれるところなんて選べませんし、産まれたくないなんて願っても叶ってないですからね。では姫様、産まれたいと願うのはいつ思うことなのでしょうか。産まれたくなかった、産まれたいなんて頼んでないというのは今生きていて願っている生きている中での結果です。ではその逆はいつ思うのでしょうか?答えは不明…正解の解答なんてありません。ああ、姫様は混乱されていますね。先ほどの姫様の発言に対し予想では『そんなことを言ってはいけません』や『姫様よりお辛い人がいるんですよ』という言葉でもくると思いましたか?私はその言葉が純粋に嫌いです。だってそもそも人はそれぞれが違いますし、人によって耐えれるものも違いますし、耐えれる量も違います。他人と比較してこちらの方が辛いなんて、比較する人は何様なんでしょうか?励ましているつもりなのでしょうか。”今”の”自分”が辛いのに。辛いことがあっても前に進める人は本当に強い人です。だからと言って強い人にならなくてもいいんですよ。だって、貴方はその人自身ではないんですから。前置きが長くなってしまいましたね。要するにこの全体を通し私が言いたいことは『私にご命令を』です。」
「ご…命令…?」
「はい。何をしてほしいのか、何をしてもらいたいのか、一から十までお教えください。印象でもなんでもございません。そうでないと私は姫様のご要望通りに出来ませんから。共感してほしいこと、否定してほしいこと、全てに対しご命令ください。最初にそう学習しないとこれからも私は姫様のご要望に反することしかできませんよ。ああ、もしかして先ほどの姫様の言葉に共感した方がよろしかったでしょうか?『王族になんて産まれたくなかった。産まれたいなんて頼んでもない。』でしたっけ?これは失礼しました。そうですよね。では国王様も王妃様もお酷いですよね。こんな綺麗で聡明な姫様を王族に産むなんて」
パンっと綺麗に音がした。
左頬が熱くなる。
平手打ちされることを想定して選んだ言葉だが、流石に自分でもドン引くほどひどい。
自分でも両親や家族のことを貶されたりするのは何もわかっていないくせにと怒りをあらわにするだろう。
それくらい今の家族のことも大切に思っている。
それは姫様も同じなのだろう。
怒りで動くのは、行動が読まれやすい。
党委に避けられるがここで避けてしまっては先には進まないだろうと、あえて平手打ちをくらってみた。
別に平手打ちをされるのは慣れているし、10にも満たない女の子の平手打ちなんてさほど痛くない。
でも、嫌われたみたいでいやだな…
「私の…私のお父様とお母様を悪く言わないで!」
「へぇ、分かってるじゃないですか。そういうことですよ。共感というものは単にいいことだけではありません。誰かに共感を求めるのも否定を求めるのも悪いことではありませんが、一度ご自分の意見も大事にしてくださいね。それは他の人が思っていることとは違うものであって、貴方だけのもの。たとえ一つの意見だとしても、侵害するようなことがあってはいけないものです。周りに求めすぎても、自分の意見しか通さないのも一概に正解とも不正解とも言えません。曖昧でいきましょう。これが私の一つの意見です。よければ参考にしてください。それでは失礼します。」
私は姫様の部屋を出ようとする。
「あぁそれと、私が無礼を働いたと罰に処そうが解雇しようが構いませんよ。無礼を承知で行ったのですから。失礼します。」
そう言って私は姫様の部屋を後にした。
死刑まではいかないだろうけれど、家の名前まで傷がついたらどうしよう。
後の祭りに、やって後悔。
周りが見えなくなるのは私も同じで人のことなんて言えないな。
あ、左頬を平手打ちにされたなら右頬も平手打ちしてもらえばよかった。
まあ、言いたいことを言えたし姫様の気持ちもたいがい分かったように思ったら収穫はあったのかな。利益はないかもだけど。
荷造りと父と母に状況説明を書いとかないとな
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朝一にメイド長さんによって起こされてすぐさま姫様の部屋に呼び出された。
何をしたんだという目を向けられているが、心当たりしかないため反応に困る。
昨日即クビになると思って身構えていたが、部屋で直々にクビ宣言を受けるのだろうか。
とりあえずノックをする。
「姫様、イヴ・レリブローです。お呼びと聞き伺いました」
しばらくして「入ってもいいわ」という声とともに扉が開かれる。
メイド長さんは扉の前で止まり中には入ろうとしなかった。
「失礼します。お呼びというのは」
「その…昨日はごめんなさい。…左頬痛くない?」
「痛くはありません。あ、でしたら右頬を叩いてくださいますか?」
「なんでよ!」
「バランスというものがありまして。ほら『右の頬を打たれたら、左の頬も向けなさい』という言葉があるでしょう」
「知らないわそんな言葉…、ではなくて。ここに呼び出したのは貴方に伝えたいことがあるからよ。昨日の出来事で私はお父様にお願いしたの」
「…覚悟はできています。何なりと申し付け下さい」
「え…あらそうなの。なら遠慮なく言うわ。貴方に私という主人は罰を与えます。私の護衛と召使、更には側近に友として隣に居続けなさい。死ぬことやいなくなることは許しません。私に人生をささげなさい。」
「は…?え…それだけですか?」
「人生をささげなさいって結構なことだと思うのだけれど…」
「解雇されるとか一族諸共爵位の返上とか予想してたんで」
「そんなことしないわ。むしろ貴方には感謝しているのよ。肯定も否定もされない、貴方自身の言葉を聞けて私は嬉しかったの。無理をして言っているわけでも張り付けた裏のありそうな笑顔もしてこない、ただ私を一人の人間として話してくれる。」
「かなり無礼だったと思いますが」
「そうね。いくら共感の例であえてだったとしてもお父様やお母様を悪く言われたのは怒りを覚えたわ。だから罰を与えるようにしたのよ。これから、貴方には私の隣に居てもらうわ。これは貴方に拒否権はない。命令よ」
「…いいのですか?こんなんがいても」
「貴方がいいから罰を与えてるのよ。まさか褒美だとでもいうの?命令なんて無理やり従わせてるみたいなのに」
「姫様可愛いですし、そんな(推しの)姫様の成長を隣で見届けれるなど褒美以外ありえませんよ」
「そ…そう。」
「引きましたか?」
「いえ…ただ、なんだろう。うれしいって感情があって、なんだか変な気持ちなの」
「気持ちを落ち着かせて考えてみますか?茶でもしばきます?」
「茶をしばく???」
この後扉の前で待機していたメイド長に鷲掴みにされ姫様の部屋から強制的に引きづり出された。
その後、言葉遣いなどのマナー指導を三時間ほどされ掃除当番の日にちが追加された。
その晩、私は姫様に就寝前のお話として呼ばれた。
「今日の朝に言ったことでね、ちょっと言い忘れたことがあるの」
「何でしょうか」
「もし…イヴにやりたいことを見つけたら真っ先に私に言ってほしいの。」
「やりたいこと…今は姫様のお隣にいることですね」
「それ以外で!例えば、好きな殿方と婚約したいから側近を抜けるとか」
「婚約するにしても側近を抜けることはないと思いますよ」
「そこは婚約者の方を優先して。命令って言ったけどイヴがやりたいことは尊重するんだからね。」
「婚約…といっても私に出来るとは思いませんよ。」
「傷のことでしょう?大丈夫よ。きっと傷なんて気にしない殿方が現れてくれるわ。」
「姫様、私が正式に側近になった途端ぐいぐい来られますね。(可愛い)」
「イヴには気を使わないでいいって思ったからね。」
「姫様もそろそろ婚約のことを考えないといけないのでは?」
「私はいつか王子様が現れるからいいのよ」
「ソウデスカ」
ロマンス小説の影響かな。
でも夢見るただの少女な姫様の方が八歳の今にはよさそうだ。
それから姫様は自分の理想の王子様について語っておられて、いつの間にか寝てしまわれた。
今日の出来事と昨日の出来事を振り返って、力が抜けそうだ。
家のこととかで安堵したのもあるが、一番は嫌われていなくてよかっただ。
罰として側近とその他もろもろがあったが、そっちの方がいい。
無礼を働いたことに対して、そして大切なものをあえてだとしても傷つけたことに対して罰がないと自分でも許さなかっただろう。
その点で罰を与えてくれた姫様に感謝だ。
引きこもっていた原因の根本が不明なままだが、本来の姫様の一面が見れたことは大きい。
これからも精進していきたい。
以上
内容:対面対談
感想と反省:
・姫様は推し
・姫様のお姿はマジで可愛かった
・姫様の身長は自分よりも高かった萌え~~~
・美少女とロリの合わさりが天才過ぎてさっそく推し
・将来化けるであろう人物
・周りが見えなくなるのは出来るだけ直そう
・言葉遣いが下手くそ
・言葉遣いを直そう