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尋ね人の東日録  作者: 播磨
魔法学校編
12/12

成長

西暦3811年 春の刻5,10

あっという間にすぐに沸く♪…業!!!!



この六年はとても長いようで短くてもう私も15歳ですよ。

そうです。今年から魔法学校に入学なのです。

ではなぜ腹が立っている(業が沸く)かというと


「なんですこのふざけた招待状は…。一国の姫様でもあるモカ様に『明日パーティーするので来てください!』なんてふざけた一文しか書かれてない招待状とか…ふざけてるのでしょうか?それも異性であるにもかかわらず。同性であり婚約者でもあり友人でもあるクミン様からならまだしも、その婚約者が送るなど万死に値する!」


はい。ウミ様が丁寧にご説明のような発言、誠に有難うございました。

この6年でウミ様は立派に女騎士従者として共に同僚として育ってきました。

まあ、性格はあんまり変わってないんだけど。

ただもう性別は偽っておらず、自分の意思でちゃんと場合を考えるようになってくれた。

それに、ウミ様の特異体質である『シンクロ』はどんなものでも馴染むという能力を持っている。

クラン様のような限定的な変身技ではなく幅広いものに変身出来て、尚且つどんな技の習得も一瞬で出来てしまうのだ。勿論、覚えれるだけで使用するのは難しいらしいけど。


「もうウミ、そんなかっかしないでよ。」


「ですがモカ様!」


「大丈夫。この人のお誘いに乗るつもりはそもそもなかったの。だってもうクミン様からの招待状を貰っているからね」


「なるほど!この無礼者の招待を断ってメンツを壊し、クミン様を立てるということですね。流石ですモカ様!」


「立てるっていうことじゃないんだけど…、まあ友人の主催のパーティーは友人から受け取りたいものよね」


モカ様もこの6年で心が鋼のように強くなられた。

冒険譚の物語を読むようになってからは体も鍛えるようになって、もし魔王がこの国に侵略しようものなら前線に出るのではないかと思うくらいに強い女性へとなられたのだ。

美しさも年々増して言って、もう絶世の美女と呼ぶにも言葉の方が薄まるくらいには周りが輝いて見えるようになっている。


「おいイヴ!聞いているのか!」


「聞いてますよ。招待状のことでしょう。この令息の魂胆は分かりきっています」


「本当に(わたくし)の友人に恥をかかせようとするのなら、手加減はしてはいけないわよ」


「あくまで私の憶測でしかありませんよ」


学校入学前に一度、その年に入学する生徒でのパーティーは行われる予定だ。

その予定前にパーティーを開くということは何かしらの発表がある、ということになる。

しかもそのパーティーは、子息や令嬢のみのフロアとその親である方々のフロアと二つに分けられてのパーティーらしい。

うん、怪しいにもほどがある。絶対にある。


「お兄様にまで粉をかけて、(わたくし)の愛しの婚約者であるカポウィン様にまでも粉をかけていた男爵令嬢の方の名前も招待状の参加者に書かれているもの。それもまあご丁寧に。」


「プライバシーもあったものじゃないですね」


「正直今でも信じたくないです。アイツがあの女に惚れこんで婚約破棄をしようなどと…」


「だから憶測ですって」


「お前の憶測は当たるから困ってんるんだよ!!」


「ふふっ、本当に貴方達がいると賑やかで楽しいわ」


こんなウミ様とは相変わらずこんな感じだ。

最初は喧嘩かと思われていたモカ様だが、そのうち戯れていると思われているらしく、今では賑やかだと生暖かい目で見られる。

ウミ様もモカ様の前では素をなんだかんだ出せるようになっているので、今ではモカ様の前だろうがこうやって私に突っかかることはやめていない。

ちなみにまだモカ様のことはLove的に好きなままなのは変わっていない。伝えるつもりはないらしいけどね。


「交流パーティー前の交流パーティーなんて面白そうよね。」


「ですがこの”護衛や従者は参加不可”など不可解すぎます。それにモカ様に何か危険があったとしたら…」


「大丈夫よウミ。だって貴方達も招待されているんだから、何かあったら守ってくれるんでしょ。それに守られてばかりのお姫様になんて、(わたくし)はなるつもりはないのよ」


「しかし…」


「ウミ様、こう言ったモカ様の信念がお堅いことは理解していらっしゃるでしょう。ここはモカ様の意思を尊重しませんか?」


「お前は…。何かあったらどうするんだ!」


「私たちも参加者としてパーッティーに出席することなっています。なのでいざとなったらドレスでもお守りできるように心掛けていればいいのですよ。私たち二人は婚約者を持たない令嬢なので、動ける範囲は広いです。」


「それ誇ることじゃないからな?」


私とウミ様は婚約はしないままの状態で6年を過ごした。

ウミ様の性別の告白後は婚約が殺到したらしいが、「俺はモカ様にすべてをささげると決めている!それゆえに結婚はしない」と高らかに宣言したのである。

私もいくつか婚約を申し込まれたが、全部無視した。

無視といっても父上に断りの手紙は送ってもらってはいるが、手紙は貰っても読んでないから無視でいいだろう。

フォークの傷跡は残らなかったにしても、一度傷物となった身だと知ってるだろうに婚約を申し込むもの好きに関わりたくないし。

父親も「別に家のことは心配すんな」なので気にする必要はない。

あと純粋に婚約したくない。


「それに同い年の方々しか集まらないのなら、ポネットちゃんもイザベラ様もいるはずよ。久しぶりに四人で集まれるかしら」


「最近のモカ様はずっと楽しそうですね。」


「だってもう少ししたらみんなとずっと会えるようになるのよ。友達との学校生活なんて楽しみで仕方ないじゃない」


「そうですね。俺も、モカ様の学校生活が楽しくなれるよう、同級生としても騎士としても努める所存でございます。」


「別のクラスですが、私もできうる限りのサポートはさせていただきます。」


「ふふっ、二人ともありがとう。貴方達にとっても楽しい学校生活をおくってね」


その学校生活の安泰のためにも、まずはこの怪しいパーティーを乗り切らねばな。

ドレスとかどうしようか…。この6年間もモカ様の従者ということで何とか乗り切ってきたから、着るのはもう6?7年ほど前なのか?

そういやニックと初めて出会ったパーティー以来だな。

アイツは元気にやっているだろうか。

友人との再会の期待を胸に、私は入学前で興奮しているモカ様のお話に相槌を打つ。

久しぶりの学校入学だ。

この世界でも謳歌してやろうじゃないか!


==============================


パーティー当日となり、現在はウミ様と私でモカ様のお召し物の準備をしていた。


「もう(わたくし)の準備は大丈夫よ。貴方達自身の準備をしたほうがいいんじゃないかしら?」


「俺はもうしてますのでお気遣いありがとうございます。」


「私ももうしてますよ。化粧以外は」


「お前なあ…」


「モカ様を優先するのは当たり前ですし、それに化粧は面ど…。いえ、時間がもったいないので」


「駄目よイヴ。ちゃんとお化粧はしないと。それに(わたくし)の準備は二人のおかげで完璧よ。」


「だぞうだ。今ならまだ間に合うだろう。やってきたらどうだ?」


「…はい…」


ただでさえドレスで動きにくいのに、化粧なんて最低限でいいだろうに…。

しかもこの流れは今ここでしろってことだよな。

モカ様元の世界なら化粧動画とか好きそうだし…


「えっとまずファンデを」


「ちょっと下地は⁉というよりまずはバラ水で顔を拭かないの⁉」


「顔は水ですでに洗いましたし」


「それ普通の水だろ⁉」


「あんま変わりませんて」


「「変わるわ/わよ!!」」


そんなにか?

元の世界の自分もこんな感じの化粧しかしなかったし、正直自分にするのは分からん。

でも身なりに気を使っていないと思われるのは癪だな。


「ご安心を。髪の手入れは毎日していますよ。」


「そういう問題じゃない!」


「ちょっと貸してイヴ。(わたくし)がしてあげるわ」


「モカ様のお手数をおかけするわけには…」


(わたくし)がやりたいの!」


モカ様の勢いに負けて、結局任せてしまった。

今私はモカ様のお人形なのだろう。


「前髪が少しかかってしまうわね」


「この際切ってしまうのはどうでしょうか」


「いい考えねウミ。イヴもそれでいい?」


「モカ様のお任せでいいですよ」


今まで前髪はウミ様にお願いして切ってもらっていた。

だって自分で切ったことないし、ウミ様器用なのでそのままの形で短くしてくれるからな。

ただ今回はモカ様が前髪をアレンジしてくれるそうだ。

ウミ様ははさみをモカ様に渡すことを渋ったが、こっちも勢いに負けて渡した。


ジョキンッ「あ‼‼………え~~~~っと~~….」


「モカ様…ミスりました?」


「あ…アハハハハ…ハハ…。…ごっ…ごめんなさいイヴ…」


鏡で見てみたがまあなんということでしょうという風景が広がっていた。

所々がパッツンで、長さも違う。切れていない長い部分もちらほらある。

誰がどう見ても失敗と言われるし変な前髪ともいわれそうだ。

しかしそんな前髪になってもなお、この世界の自分の面がいいため、そこまで変にも思えない。

むしろ推し直々にプロデュースされた髪だ。それはもうご褒美だろう。


「いえ謝らないでくださいモカ様。前よりも視界がクリアになってむしろこれでよかったと思っています。本当にありがとうございます。流石モカ様ですね。」


「その…なんだ…似合っているぞ…」


「せめて笑いこらえてくださいますかウミ様」


まあこれで準備は整っただらう。

いよいよ、パーティーの幕開けだ。

最後に髪に簪を挿して、会場へと向かった。


=========================


パーティーが開かれると、まあモカ様の周りには相変わらず人が集まる。

護衛従者としてはその人だかりを整理したいものだが、生憎今回は従者行為は禁止らしい。

うわぁ…遠くにいるウミ様のお顔がみるみる険しくなってる…。

それにしてもクミン様はいらっしゃるのに、肝心のパーティー主催者である『ディオス・ダルゼン』様はいらっしゃらない。

それにあの男爵令嬢という女性も見当たらない。

婚約者を放ってどっか行っているのか?

勘が当たりませんようにと願ていると、後ろ打でれかに肩をたたかれた感触があった。


「銀髪に俺の贈った簪をつけてるってことは、相棒かな。久しぶり。」


聞き覚えのある声のようで、あのころよりも低い。

背後から伝わるのは明らかにガタイのいい男。

私を「相棒」と呼ぶ人物。


「収穫時期はもう過ぎているからな」


「うん、そうだね。少し時間がかかっちゃったよ。」


振り返らずに悪態をついても、瞬時に意味を理解して軽い返しをする。

間違いはなさそうだ。

私は振り返って、その人物を見る。


「久しぶり、ニック。私の相棒は、ちゃんと約束を守ってはくれるようだね」


「ッッ!えっと…相棒?!…」


「何?」


「ううん…。何でもない。んんっ。こっちこそ久しぶり。相棒との再会で、初めに見るのがドレス姿なんてね。初めて会った時と同じだ。」


そうだなと返すと、少しモカ様の見えて且話しやすい場所に移動した。

それにしても身長が高くなったんだなと感心せざるを得ない。

この世界の私だって175cmの高身長だ。

そのはるか上なのだから180cmは軽く超えているのだろう。

八歳の時のあの時のような幼さは消えて、爽やかイケメンという部類なんじゃないだろうか。知らんけど。

紺色の髪に若葉色の瞳は成長したことによりなのか深みが増している。

なんかチラチラ見られるが…


「似合わないだろうか?それにしてもドレスなんて久しぶりに着た。動きずらくて行動が制限されるからいつもなら着ないんだけど、今日はそんなこと言ってられないし…」


「…いや、すごく綺麗で驚いてしまったよ。相棒が…イヴが護衛の仕事をしててよかったと思ってたんだ。こんな綺麗な女性をこの六年間、誰にも奪われないで本当によかった。」


「え…あ、ありがとう。」


いつもと雰囲気の違うニックに調子が狂いそうだ。

いかんいかん。自分の意識をほかに分担させろ!モカ様以外でだ!モカ様だと余計に顔が緩んでしまうからな!!

そうだ!自分の今の容姿の総称でもしよう。冷静になるだろうし。

鏡で全身を見た時は思わず「うっわ誰この綺麗な美人は…」っと独り言をつぶやいてしまったほど今の私の外見はとてつもなく良かった。今までの格好いい印象から、お化粧と綺麗で華やかなドレスを着て一気に美人のご令嬢という印象に変わるほどこの世界での自分のスタイルと顔がよすぎる。

ただ、これは自分個人の考えであってこの世界での判断がわからない。

漫画やアニメではモブと呼ばれる一般通過型の人は基本的に顔があいまいだったり、量産型の同じような顔立ちや髪色だったりとしているが、少なくともそういう人は今のところこの世界で見たことはない。

まあ当たり前だろう。なんせこれは二次元でも夢でもなくて現実なのだから。モブという役割を生まれながら持っているわけがなく、誰しもが物語の主人公なんだ。

となれば、この世界で私の顔やスタイルの良し悪しは分からなくなる。全員イケメンだし美人だし区別もつかん…。

でも自分が私を美人って思ってるだけならいいよね。思うだけならだれにも迷惑かけないし、何より思想は個人の自由だしね。押し付けるのはアウトだけど。

よっし、冷静になれたな。


「ニックもいつもと雰囲気が違くて格好いいな。物語の王子様や騎士様を思い浮かべてしまうな。」


この世界での基準でもニックはイケメンの部類に入る。よく噂されているし女子がキャーキャーと騒いでいるのも耳に入ってくるからこれは断定できる。


「あっ、ありがとう。でも王子っていうのは誉め言葉なのかな」


「知らん。よく誉め言葉の例えで使われるから言っただけだ。」


「そうなんだ。じゃあ誉め言葉として受け取っておくよ。相棒のその…前髪はファッションなのかな?」


「モカ様の愛」


「切られたの?」


「切ってもらったんだ。これからもお願いしたらしてくれるだろうか…」


「相棒は変わらないね。」


パーティーの音楽隊の方々の演奏が止まる。

となれば、これから始まるのはダンスなのだろう。

踊らなければ目立つか?


「ダンスはあまり得意じゃないから、リードは任せた」


「了解」


流石相棒。話が早くて助かる。

男性とダンスを踊るなんていつぶりだろうか。

今までの社交界ではモカ様の近くにいたり護衛をしたりでそもそもダンスをしないことの方が多かったし、踊るとしても男性パートで女性をエスコートしていたから公の場で女性として踊るのはこれが初めてになる。

講師の先生以外での男性と踊るなんて八歳の頃に遊びとしてニックと踊ったくらいしかなくて、成長したニックと踊るなんて考え深いものだ。

成長して引き締まった固い腕の感触が服越しでもわかる。

始まる前からこんな緊張をしていたら盛大に転ぶな。よし、雑念を消そう。


「相棒、まさか緊張してる?」


「ダンスは踊ってて恥ずかしいんだよ」


ソーラン節とかなら恥ずかしくないんだけど、こうやって一対一のやつは無理。

特にフォークダンスみたいに異性と踊るとなると余計に。


「大丈夫だよ。俺がリードしてあげるから」


「ほーか。なら無心でいるようにする。後は任せんね」


ニックの動きに体を任せる。

するとあら不思議。体が固まらずに自然に踊れているようだ。

そういやこのダンスの名前ってなんて言うんだっけ?

バロックダンス?それともワルツ?

もう盆踊りとかでいいんじゃないだろうか。

そういやジ〇リの猫のやつでもこんなダンスはあったな。

それにあのアニメの…

とこんな感じで関係のないものをポンポンと考えていると、いつの間にか一曲目のダンスは終わった。

拍手が会場を包むように響き渡る。

第二曲目にうつる前に、速やかに移動した。流石に二曲連続で踊れるほど私の気力は持たない。

他人にダンスを見られるのが恥ずかしくてな!


モカ様は一曲目は踊らず、二曲目にカポウィン様と踊るらしい。

ウミ様は踊らないといていたし、イザベラ様は婚約者であるリオマー王子意外とは踊らない。

まあ、リオマー王子は年上なのでこのパーティーに参加はしていないのだけれど。

ポネット様も婚約者の方と踊っていたが、問題はクミン様だ。

主催者が一曲目で踊らないとはどういうことなのだろうか。

それに婚約者の姿も見えない。

それにしてもモカ様のあの満面の乙女の表情とウミ様のぽかん顔は傑作だな。

モカ様、貴方はダンスに集中してください。

そしてウミ様、そのお顔はあとで揶揄いに使いますね。


さて、自身のダンスの熱は冷めてきたところで本題に移ろう。


「ニックはなんでこのパーティーにいるんだ?」


「ディオス・ダルゼン様から招待状を頂いたんだ。それに帰ってこれたからせっかくだしって思ってね。」


「その手紙に参加者名簿は?」


「なかったけど…」


「そうか。実はモカ様の方にもデェオス様からの招待状が届いてな。クミン様からすでに受け取っているにもかかわらずだ。しかも内容は一国の王族に対するにしてはあまりにも無礼で、参加者の名簿まであったんだ。」


「で、その本人はいないと」


「あぁ。しかも『ライド・オーバーグ』男爵令嬢という方も見当たらない。ニックがいつ頃戻ってきたのかは不明だが、この女は婚約者のいる男性を狙ってはちょっかいをかけるアバズレだ。」


「すごく棘のある言い方だね」


普通にそういう女子は嫌悪対象だからな。

同性としての敵だ。


「カポウィン様にも接触していたからな。まあカポウィン様は純粋で鈍感だからか、すぐに不利だと気づいたらしい。それ以外にもリオマー様やポネット様の婚約者の方とちょっかいをかけまくっているんだ。リオマー様は相手にしてなかったし、ポネット様の婚約者の方は激怒していたけど」


「身分の高い方々を狙って粉をかけてるみたいだね。そういや俺宛に何通かお誘いみたいなのが来てたよ。まあ俺いないかったから行けないし行く気もないんだけど」


「大方、身分が欲しいとかなんだろう。」


なんならポネット様とイザベラ様にも参加者名簿付きのディオス様からの招待状が届いていたと聞いた。

私とウミ様は婚約者がいないからなのか、ディオス様からの招待状すら届いていない。

名簿付きのディオス様からの招待状は、どうやら男爵令嬢が粉をかけた男性の婚約者女性にしか送られていないようだ。

ちなみに男爵令嬢の噂で多く聞くのは「女神」。

は?女神はモカ様だろうが。女神の解釈違いだ。


「さて、このパーティーが意味するモノはなんだと思う?」


「えっと…高い身分の婚約されてる男性を軒並み狙っている男爵令嬢に、公爵令息のディオス様の不可解な招待状と現在の両者不在。そして取り残されるクミン様。…いや公爵家同士の婚約をまさか破棄だなんて」


「それがあるんだよね~。」


バァンッ!!!と扉が勢いよくあく音が会場に響く。ほら来るよ。


「公爵家次男ディオス・ダルゼンは今日この場をもって、クミン・コングドール公爵令嬢との婚約破棄を宣言する‼」


100点満点の『あるある』の登場の仕方だな。

拍手でも送ってやろうか。地獄に送る前によぉ。


一応不測の事態なのでモカ様の護衛としてウミ様と共に前に出た。

その様子を見たライドという女はにんまりと笑う。

あんまり顔は好みではないな。出直してこい。


モカ様の方を見るとこくんと頷いてクミン様の方を心配そうに見た。

その合図を受け取って、私は用意していた任務であるクミン様の護衛を務める。

事前に憶測として「婚約破棄かも」というものからの作戦だ。

クミン様の近くに言って、現在の彼女の心境を探る。


「クミン様、お怪我などはございませんね」


「え…えぇ、大丈夫なのです。イヴさんはどうしてここに」


「モカ様から「貴方様をお守りしろ」というご命令でございます。ご安心ください。」


「はい。ありがとうございます。」


6年前の気弱な性格のままだったら、もう泣き崩れていただろう。

それもこの6年で芯の強い女性へとなられた。


「それに、あなたの愛犬である『チントン』さんもご一緒に守ってくださいますよ」


「グルルルルッ」


今にもディオス様に飛びつこうとするほどの威嚇をしている『チントン』。

チントンはクミン様の愛犬で、元は警察にいたと言われている賢い犬だ。犬種は知らん。

公爵家の養子は養子でも教育はしっかり行われる。

そこで元気づけるためにということで、クラン様が送ったのだ。

勿論普通の犬ではない。

クラン様の特異体質から生成された創造犬で、常にクラン様と感覚は繋がっている。

なのでこの状況もすでに送られているので普通にヤバい。

婚約するのにもめっちゃ渋ってだったらしいので、娘を気づ付けられたとなると殺すかもしれない。

私からしたら婚約破棄という事実よりもそっちの方がヤバい。止められる気がしない。いやだよ同僚が殺しで捕まるのは!!

とりあえずこの状況を収めなければ…


「なんだ貴様は!」


「これはこれはディオス・ダルゼン様。挨拶もなしに主催者の舞台に上がるのは失礼でしたね。私は、イヴ・レリブローと申します。この度はモカ様からのご命令により、クミン様の護衛をしております。」


「このパーティーで護衛や従者をすることは禁じたはずだが?」


「主催者がルールを破ったのですから、他が破ってはいけないなんてことはありませんよね。」


「俺がいつ、ルールを破った!従者も護衛もつけていないじゃないか!」


「社会のルールを破ってるんですよ。このパーティーのルールよりも上の物をね。ダルゼン家次男主催のパーティーなんですから、主催が今の今までいないって常識としてあり得ません。ご自分の責任を理解してください。」


あらら、お顔が真っ赤っか。


「何を言うか!俺は、この不誠実で冷酷な女との婚約を破棄し、真実の愛のために行動したのだ!それが貴族の品格ではないのか!」


「はい!ディオス様とわたくしは、魂で結ばれています!クミン様は、わたくしをいじめ」


「貴方方のそのお気持ちを聞いているのではございません。ディオス様が、なぜ、婚約を破棄しようかを聞いているのです。」


「貴様!!俺は公爵家の息子だぞ!!たかが侯爵家風情の女が!」


「話を聞いていないのですか?私は今、この国の王族であるモカ様よりご命令されている身なのです。貴方のその小さなプライドすら、攻撃にも防御にもなりませんよ。」


だから最初に、「モカ様からのご命令で」って言ったのにな。


「ぐぬぬ…黙れ!貴様らが守ろうとするその女こそ、スターミル公爵令息であるカポウィン殿と密会していた不貞な女だ! そして、そのカポウィン殿は、そちらのモカ様をも欺き、既にこのライドと真実の愛を示している。そしてその女は嫉妬して、ライドをいじめるようになったのだ!」


「そうですわ。この腕を見てくださいまし。この腕はクミン様の飼っている犬に嚙まれた後ですわ!それ以外にも色々と恐ろしいことを…」


「あぁ、愛しいライド。お前をこんなにも怖がらせるなどと、あの冷徹で非道な女は許せない!」


う~ん、テンプレで面白くないな。

もっといい物言いはなかったのかね…。


「聞いているのか!イヴ・レリブローとやら」


「あっ、茶番劇は終わりましたか?では早く理由をおっしゃってください」


「何が茶番劇だ!さっき言ったことは全て事実であり、れっきとした理由じゃないか!!」


「状況証拠と本人だけの証言だけで即判決なんて、どんなクソみたいなシナリオですか?物語で言う駄作。ゲームで言うクソゲーと同じですよ。あと、ご自身のお言葉はちゃんと責任を持ってください。」


クミン様の背中を押して、主導権を交代する。

当事者ではないんだ。私は支えろとしか命令されていないからな。


「わ…私は不貞を働いたことも…ライド様をいじめたこともございません…」


「嘘を言うか!!実際にライドはお前のその薄汚い犬に噛まれ、俺はカポウィン殿との密会を見たんだぞ。」


「みっ…密会とはいつのことですか」


「先刻の84の王宮でだ!お前はカポウィン殿と笑いながら話していただろう!」


コイツは悪徳記者か。

確かにその日にカポウィン様とクミン様は王宮に来たよ。カポウィン様はモカ様に会いに、クミン様は父親に会いにな!

何ならクミン様は男性にまだ恐怖心は残ったままだ。トラウマはそう簡単に忘れることは出来ないからな。

恐らく見たという場面は、たまたまモカ様とカポウィン様の交流の場にクミン様が居合わせた時だろう。

どっちにしろクミン様はモカ様がいない限りカポウィン様と話せやしないし。

モカ様切り抜いての二人っきりとはコイツの頭はどういう認識してんだ?


「貴方様は何故王宮に?その日にダルゼン家の方は誰一人として来たという記録はないのですが。」


「王宮に直接行っていないさ。俺の特異体質である『征服』により、婚約者であるクミン・コングドールの行動は常に見えるのだよ。」


「つまり盗聴盗撮プライバシーの侵害と、あと怒鳴って委縮させていたので脅迫と名誉棄損ですか。犯罪のオンパレードですね。自白をありがとうございます。」


「はあ⁉」


「わ、私は、その日は確かに王宮に参りました。でも、カポウィン様と会ったというのは一瞬だけです。モカ様と仲睦まじく話すカポウィン様と会釈して挨拶をしただけなのです。」


「そんな妄言、信じるわけがないだろう!そもそもなぜお前は王宮にいた!」


「私は、義父様のお使いとして、お城の調査員の方に報告書を届けていただけなのです。」


「なぜお前が直々に届け出ないといけない」


「その調査員さんは我が家コングドール家にとっての恩人なのです。そして私の命を救ってくださったお方なのです。書類を届ける仕事は私が恩返しのためにせめてしたいと頼み込んだのです。」


クラン様の諜報員という役職を調査員と置き換えるとは、頭が回るお方は安心できる。

王国に諜報員以外での調査員は多数いるので疑われないし、公爵令嬢だからと言って危ない目に合わないわけではない。

それに同じ公爵家の次男だ。【神聖】系列の一連の事件は教わっているだろう。


「それに、カポウィン様であろうとも王宮内にいらした際は必ず王宮の護衛の誰かが付くこととなっています。その方をお呼びしてもよろしいのですよ。この場にいますから」


私なんだけどね。


「じゃあ、犬がランドを嚙んだというのは!お前の命令がない限り、その犬は何もしないだろう。現に今俺に威嚇をしてても飛び掛かってくることはしない!これが証拠だ!」


「では、このチントンさんの噛む力を見てもらいましょうか。」


私はそう言ってクミン様に大きな宝石を渡した。


「えっと、鉱石魔法学に精通しているとお噂されているディオス様なら、この宝石の性質はお分かりですよね。」


「あっ、あぁ。それがどうした」


「これからチントンにこの宝石を噛み砕いてもらいます。そのためにこの宝石が何なのかを、皆さんデェオス様に証明するためです。ご確認ください」


クミン様はディオス様に宝石を渡した。

まじまじと見たディオス様が信じられないというように目を見開く。


「馬鹿な…。これはダイヤモンドじゃないか…」


流石”自称”鉱石魔法学の天才児だ。

嘘をつくよりも本心の鉱石の興味の方が前面に出ている。


「しかしこれだけでは皆さんに分かりにくいですよね。イヴさんお願いいたします。」


「かしこまりました」と言って、私が手をたたく。すると


「なんだ?!片目になぜか綺麗な宝石が見えるぞ⁉」

「いったいわたくしの目はどうなってしまったの?」


と大パニックだ。

そこに凛としたクミン様の声が響く。


「おっ、落ち着いてください!今皆さんの片目に移っているのはディオス様の見ている視覚なのです。モカ様の従者のイヴさんの特異体質は『適応力』と言って、誰かの感覚などを共有したりできるのです。なので皆さんには、これからこれがダイヤモンドである決定的な証拠を、ディオス様の資格でまじかにお見せできるのです。」


『適応力』

感覚共有や魔法共有。さらに自分お得意とする魔法なら威力が上がるというものだ。

8歳にあったイザベラ様襲撃事件の時に、キノンさんとこれが出来ていたのは私の特異体質からだったとはな…。

てっきりキノンさんの魔法技術のおかげかと思ったよ。


「会場の皆さんもご存じかと思いますが、先日からとある高級なアクセサリーが流行っています。それは大ぶりなダイヤモンドを贅沢にぶら下げているもので、現在私の手の中にもございます。」


クミン様は会場にいる人たちに見えるようにネックレスを掲げる。

そのデザインや形は、会場にいる方々にもちらほらと着用しているものと同じだ。


「今からこのダイヤモンドを割って見せます。ダイヤモンドを割れるのはダイヤモンド以上に固いものでないと出来ませんから」


私はディオス様からダイヤモンドを回収して、目の前でネックレスとダイヤモンドを思いっきりたたきつけた。勿論、ディオス様からよく見えるように、そして力が均等にいくように地面で。

すると、ネックレスにつけていたダイヤモンドは粉々に割れた。


※ダイヤモンドに“傷をつけられる”のは基本的にダイヤモンドだけ。

しかし“割る”ことはダイヤモンド以外でも可能。

ハンマーでも鉄でも落とせば割れる。


まあ、そんなことを知ってるのはあんまりいないだろうけど。

鉱石魔法学でも、性質は知っていても加工での性質までは教わってもないんだろうね。


「なっ…」


ディオス様の動揺と反論がないことからそこまで知識がないことは分かる。

周りもざわざわとしている。これで証明は『ダイヤモンドの証明』は十分かな。

そろそろ『適応力』を解除しとこう。


「チントンさん。このダイヤモンドをくわえてください」


私はチントンに持っていたダイヤモンドをくわえさせる。


「クミン様、お願いいたします」


「えっと…チントン、そのままダイヤモンドを嚙み砕いて」


バキバキバキッとダイヤモンドが簡単に砕けた。

『ダイヤモンドは硬いが脆い』と言われるが、流石に犬の噛む力では到底砕けない。

軍司犬でもそれは無理なんだけど、噛む力の証明にはこれが一番なんだよね。

そもそもただの犬じゃないけど、まあそんなことは知らないだろうし。

それはそうとクミン様が放心なさっている…。仕方ない。説明は私がしておこう。


「はっ…はあ!!!なんだその犬は…!?」


「元フリーク家御用達の軍司犬です。王宮の調査員さんが護衛にとクミン様に譲ってくれたそうですよ。これほど強い噛む力がある軍司犬に噛まれて、噛み痕だけなんて不可能なんですよ。興奮させられた状況だと特に。骨折は免れないと思いますよ。それに、ライドさんのその細い腕なら、噛み千切られてもおかしくありませんね。」


「手加減して噛めという命令をした可能性だってあるだろう!」


「命令するなら普通「噛め」のみです。そして制止する言葉がいるのなら、それは噛む力をご存じだからです。クミン様のこの放心状態を見ても、クミン様が威力を知っていたと言えますか?」


私はクミン様の肩をたたいて放心状態から正常に戻す。

この人一旦放心すると長いんだよな…。なので体をガンガンゆすって強制的に戻した。

ついでに主導権も返した。


「はっ!こっ…このことから、私はやっていないことを証明できます。」


ようやく意識と状況を取り戻したクミン様は、胸をやや張りつつそう宣言した。

周りの方々の反応からもクミン様の方が正当に見えているのだろう。

だがここで終わらないのが鉄則。


「公爵令嬢であるクミン様にいじめられ、身分の低いわたくしは恐怖で震えていたのです。その恐怖で、つい腕の傷について正確な説明ができなかったとしても、わたくしに非があるというのですか!」


本当によしてほしい。

さっきまで何にもしゃべってないんだから黙っとけよ…。

っていかんいかん。怒りの感情を表に出すな。あとで(ウミ様による叱責で)面倒になる。


「それに俺は、この冷酷な女の顔を見るたび、家のために感情を押し殺さなければならない苦痛を感じていたのだ!真実の愛のために立ち上がるのが、何故いけない!」


堂々の浮気宣言。

むしろ称賛ものだぞ。素直に何でも言うっていうその才能。


「あ~、だからなんですかね?ライドさんが粉をかけた男性の婚約者の方を、わざわざディオス様宛の招待状と参加者名簿をつけて送ったのは、ディオス様とクミン様の婚約破棄兼ライド様との婚約発表会の見せしめとご自慢だったのですね。」


モカ様とポネット様の笑顔とウミ様の怒って逆に真顔になってるのが怖い。

むしろ怒り心頭明らかなイザベラ様がお可愛らしく見えるほどに。

おいニック。私にかすかに風を送らないでくれるかな!風と共に遠くの音が聞こえるんだけど!!めっちゃすごい足音だね⁉もうクラン様が近づいてるってことじゃん…。足音一人じゃないから結構人数いるし。

早々に解決しないとここら一体血祭りになる…。


「「ライドを選ばないなんてみんな見る目がないな~。もう俺のライドだから手を出すなよ。あとライドを選ばなかった男の婚約者に、ライドの美しさを見せつけてやるいいチャンスだ。」とでも思ってたんじゃないですか?」


「なっ!何故それを⁉」


「女の勘をなめんじゃねーですよ。案外男のそういう魂胆は見えやすいものです。」


カポウィン様の一周回ってすごくいい笑顔も怖いよぉ。

まあこれで大体の参加者を敵に回したことになるよね。


「あ、図星ですか。それはよかったです。」


ライドの顔が明らかに悪くなる。

『異世界あるある』でよくある『権力に興味があって近づいたけど、好きでも無い相手のせいで破滅なんて嫌』という感じだな。

だからってやり方がよくないぞ☆こっちだって諸々怒ってるんだ、逃がすかよ。


「それと、ディオス様は早急にライド様からお離れになられてはいかがですか?」


「何故だ?!俺達は愛し合っていて」


「だってディオス様の魔力など諸々を、ちまちまちまちま吸って吸収しているようなので。あっ、ライドさんがですよ。」


「は…?」


「ウミ様の特異体質『シンクロ』を私の『適応力』で魔力感知が価数化できるようになっているんですよ。ディオス様の数値が下がるに反比例してライドさんは上がっていっている。その上魔力の流れも、ライドさんの体に吸い寄せるような動きがある。さぁて、ライドさん、貴方はサキュバスなんですか?それとも国家転覆をもくろんでいる反逆者の人間?どちらなのでしょうか?」


現在、私の両目には常に価数化されている魔力の数値や現在の顔の表情からの心情などの文字化が見えている。すごくテクノロジーだ。この世界にそんなのはないけど。

そして片目は数人に共有中なんだよね。そのせいで魔力消費量が半端ないから言葉遣いとか適当になってくるんだけど。

数人というのは、モカ様やウミ様やクミン様は勿論、ポネット様やイザベラ様やカポウィン様と言ったライドの被害にあった人達や、ニックのような個人的に仲のいい人とクラン様のように保護者にだ。

つまりこの現状は国王様にも見えてるんだよね。

ごめんねディオス様。でもルールって時に破るものだよね☆


「イヴさん…貴方の魔力消費量も半端ないのですよ…」


「あはは…大丈夫っスよ。まだ倒れはしません。試したことはあるんで」


「そんな命がけのこと試さないでくださいなのです!!」


「私の心配より、まずは貴方様の見せ所ですよ。」


クミン様の背中を押す。

だってここの見せ場は私ではない。

クミン様が意を決して前に出ると、ライドは表情を変えた。

私が前に出ないことで余裕を持ったらしい。馬鹿め


「ライド様、ディオス様から離れていただけませんか?」


「何故です?わたくし達は愛し合っています。それに国家反逆罪やサキュバスなんて恐ろしいものの濡れ衣まで着せられて…およよ」


泣く演技下手だな。全世界の役者さんや声優さんから見習いや学生の方々に謝ってほしいレベルだ。


「私の特異体質は『共生』です。水中で息が出来たり、すぐに誰かと協力できたり仲良くなれたりという能力があるんです。その中に、”誰かの危険信号の感知”というものがあります。ディオス様はずっと、危険信号を発しているのです。それも、ライド様がディオス様と接触したあたりから止まずにずっとなのです。」


ライドの表情にまた苦悶が残る。

【神聖】がある以上、出生届を出しているのは教会なのを忘れたのか?

あと気弱と学のないは違うぞ。その点を踏まえてなかったとは浅はかすぎる。


「ライド様の特異体質は『吸収』。その名の通り、魔力や生命力を吸い取ることが出来、されに吸収するように液体まで放出できると資料では書かれていたのです。ディオス様の『支配』は、魔力を使い過ぎると自身にも降りかかってくるのです。」


「あら、わたくしの特異体質のことを知っていたのですね。ではなぜ早く行動なさらなかったのです?それに吸い取ったという実物の証拠はないではないですか。」


「信じたかったから…ではいけないのですか?」


「はい?」


「特異体質は時として全にも悪にも使い道は様々です。『吸収』は確かに魔力なども吸い上げてしまいますが、過去のデータでは『吸収』によって病気の肩代わりをなさった方もいるのです。」


特異体質は、いいものだけではない。

『支配』『吸収』、これらの言葉にいいという印象はつきにくい。

だが使いどころによって善だ。

クミン様の『共生』という特異体質は、まさに彼女の思想の表しのようだ。

「この特異体質を持っているから、犯人は貴方」なんてものは差別でしかない。

決めつけるというのはそれほど罪が重い。無実の人間を有罪に出来るほどに。

まあ今回は普通に無罪でもなんでもないんだけど。


ライドの表情は、もはや涙を浮かべた令嬢のものではなかった。

苦悶の後に残されたのは、醜く歪んだ憎悪と、全てが崩壊した者特有の狂気じみた諦めだ。

特に、地面のダイヤモンドの破片が、微かにカタカタと音を立てながら、彼女のドレスの裾に向かって這い寄っているのが見えると、彼女は堪えきれなくなった。


「吸い取ったという証拠は、今も尚ライド様に向かっているこのダイヤモンドの破片たちです。それに以前までのディオス様はとても温厚で、目立つことがお嫌いでした。私はそこに親近感を感じていたのです。ですがディオス様の『支配』の力への抵抗力が奪われたせいで、彼の精神は横暴な別人と化してしまいました。」


「うるさい!黙りなさい!!」


クミン様の言葉に、図星だったらしいライドはもはや理性を失っていた。

ライドはディオスを突き飛ばし、床に倒れた彼を見向きもしなかった。

化けの皮がはがれたとはこういうことなのだろう。本当にそんなことがあったとは驚きだけど…。

彼女の体は人間であったものから、獣人のような動物の足や骨格へと所々変わっていった。


「アンタに何が分かるの!人間と獣人の子どもってだけで周りからも疎まれて…。お父様やお母様でさえわたくしを見ようとしないわ!その上『吸収』だなんて恐ろしい特異体質なのよ!誰も彼もみんなみんなわたくしの周りにいてくれない!」


ライドは私とクミン様を交互に指差した。

その指先は微かに震え、ドレスの裾から微かな黒い液体の染みが滲み始めた。


「この男もこんな役立たずだと思わなかったわ!魔力を吸い取られた程度で横暴になるとか、やはり公爵家の品格などないのね!私に見合うのは、こんな中身の薄い男ではないわ!それに、『共生』?偽善者め!人の弱みにつけこんで、仲良しごっこをしたいだけでしょう!アンタみたいに気持ち悪いのがいたせいで、ディオス様の『支配』の弱さを増幅させたに決まっているわ!」



あぁ、もう。

頭がくらくらしてる時に大きな声はやめてくれ。頭が痛い…。呼吸がしにくくなる…。



「そんなに『吸収』が悪いっていうのなら、アンタたちみんな吸収してやるわ!これでわたくしを嫌う者たちもいなくなる!!みんなみんないなくなっちゃえばいいのよ!!」


ライドからにじみ出ていた黒い液体の寮が大幅に増した。

先ほど言っていた吸収の液体なのだろう。

周りは混乱して逃げようと必死だ。チャンス


「このクソドアホが!」


私は混乱に乗じて、ライドに腹パンをかました。

正当防衛じゃないと印象悪くなるし、それにこういうのって言葉で止めれる自信がない。

やっぱり最後は物理に限るな。あー殴れてスッキリした。


隣で倒れているディオス様も眠っておられるようだ。

『吸収』による体の危険信号で不眠気味だったのだろう。

意識は正常でなくとも、体は正常のようでよかった。


「相棒」


誰かが体を支えてくれたようだ。


「いいよ、俺にもたれかかって。大丈夫。支えてあげてるからさ。お疲れ様」


ニックの声だ。

でも返せる言葉も発せないくらいに眠い…。魔力の限界のようだ。

後始末は、意識が薄れる瞬間に見えたクラン様がどうにかしてくれるだろう。

服装が乱れてるし、誰かとやりあったか?

何にせよ眠い…。

        以上

内容:日記を振り返って書き始めた理由

感想と反省:

・日記の書き始めの伏線回収~

・この後国王様も来たらしい

・ニックとまた再開できたぞ

・モカ様のことはカポウィン様とウミ様がお守りしたと後々聞いたぞ

・化粧はよくわからない

・ウミ様「腹パンの時の腰の動きがやや鈍い」らしいので改善が必要

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