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尋ね人の東日録  作者: 播磨
幼少期の日記
11/12

別れは必・・・然or要

冬の刻34、51

王宮でモカ様の護衛をしてから、もう冬の刻は30も過ぎた。

【神聖】の大々的な革命の波は落ち着きつつも、やはり末端はまだ燃え続けているそうだ。

クミン様は、そのまま養子としてコングドール公爵令嬢として生きるということとなった。

精密検査の結果、母親の『魔力感作症』の兆しはなく、遺伝はされていないらしい。

クラン様曰く、「諜報員である以上クミンに危険が及ばないとは限らない。自分は一度抜けた身でもう戻ることはない」とのことだ。

世間体的にもこれは公には出ておらず、一部の者にしか知られていない。

事情があったにせよやはり爵位の継続の儀の放棄は貴族からしたら印象はわるい。

クミン様に被害が及ばぬように、またクミン様がすくすくと育てるようにだとおっしゃっていたな。

「クランお父様も、ドン…義父様もどちらも私の大切な家族なのです。いつか皆で暮らせれるように、私が頑張ればいいだけなのです」とあの時に弱気だった少女は今やたくましく育った。

モカ様を尊敬し、目標としているからなのだろうか…。


それにしてもこの時期の外の訓練は寒い!

ヒートテックや中に着る温かい衣服が欲しいものだ。

それか自室に炬燵。

まあ炬燵は何とかできるとしても、鍛錬で外に出る日はどうにもならない。

寒さに対抗すべく着こめば動きにくいし、師匠から「甘い」と言われて普段の格好にされる。

なんか小学生の時のマラソン大会を思い出してきた。

寒いから痛いに変わるあの瞬間…


「相棒どうしたの?寒い?」


「半袖半パンじゃないだけマシ」


「そんな恰好はしたないよ。それに冬に半袖半パンなんて正気じゃないし」


「健康になるらしいぞ。なんでかは知らんけど」


「相棒の「知らんけど」はもはや口癖だね」


関西弁での保身でよく使われるからな。100%の自身がないときによく使ってると思う。

さっきのはマジで知らないやつなので意味は違う。


「モカ様もこの半年でたくましくなられたね。まさかモカ姫様主催のお茶会が開かれるなんて、半年前までは思いもよらなかったよ」


「本当は仲のいい友人の、ポネット様やイザベラ様やクミン様の四人と護衛の私含めた小さなお茶会の予定だったんだって。でも、カポウィン様とも一緒にいたいしそれこそニックも呼んでみたいとかで色んな人を交えての大きなものにしたいってなったらしいよ。」


「積極的に人と関わるようにしてるんだね。それにしてもなんでオレもなんだろう。直接話したことはないし、せいぜい挨拶ぐらいしかしてないはずなんだけど」


「モカ様が言うには「イヴとニコラス様が仲良くしてるところを見たいの~」って」


「それモカ様をまねてもう一回言ってくれない?」


「モカ様のあんな可愛らしいマネを出来るわけがないだろ!私がするのは解釈違いだ」


推しの真似やコスプレを自分でするのは解釈違いなんだよな。他人がしている分にはとてもいいんだけど。見れるから。

あと普通に恥ずかしい。


「はいこれ。モカ様が私から渡せってさ」


「あっ、お茶会の招待状だ。ありがとうって伝えといてくれるかな」


「うん、伝えとく」


「『冬の刻51に開催』って、これ相棒の誕生日だよね?」


「?誕生日……あっ、あ~そっか。うん、そうだね」


「まさか忘れてたの」


「えっ?…いや~…そんなことはないぞ~…」


この世界の自分の誕生日忘れてた!

ずっと元の世界での日付が付きまとってて、この世界のことと偶にごちゃるんだよな。


「ニックもよく覚えてたね」


「まあ”相棒”!だからね」


「相棒を強調させんといてくれんか」


「大事な部分だからね」


覚えられていることがこういうのって嬉しいものだよな。

友達となると余計に。


「もしかしてモカ様は相棒の誕生日会を…!」


「いや、日程を決めたのは国王様だぞ」


「そうなの⁉相棒のご家族とかはパーティーとか開く予定だったんじゃない?」


「予定だったみたいだけど、私がお茶会を優先したんだよ。それに「おめでとう」の一言だけでうれしいって伝えたし」


「相棒って、なんか子どもみたいじゃないよね」


「アンタに言われたくないわ」


おっと、そろそろ師匠のウォーミングアップレベル20が終わりそうだ。


「だべるんのはここまでにしてそろそろ行こか。師匠のスクワット500回が終わりそうやし。」


「だべる…?ってホントだ。そろそろ準備しとかないと、また筋肉が悲鳴をあげちゃうよ」


「寒いのもあるんやろけどね。まあ今日はべっちょないやろ」


「べっちょない…?」


「大丈夫」


「相棒の話し方は面白いものが多いね」


これでも気を使って話してる方だし言葉が分かるだけマシだ、と言ってやりたい。

津軽弁とか聞いても何言ってるかは分かんなかったし。

方言って国の地方ごとにも訛りはあるものじゃないのか…?

英語話せなかったから分からん。

そんな思いもありつつ、師匠の残りのスクワットが終わるまで準備体操を二人でした。


==================================


なんやかんや準備をして、はやお茶会当日。

王様が張り切ったのか、かなりの人数の貴族が集まっていた。

勿論、私の家族も招待されたらしく、始まる前に軽く挨拶はした。


「イヴ、誕生日おめでとう」


「ありがとうございます、姉上。」


「おめでとう、イヴ姉さん。これ僕からのプレゼント~」


そういってホーチマから貰ったのは手紙だった。

覚えたての字をメイいっぱいしたためた可愛いものだ。ごめんね、読めない。

あとミロルの視線が痛い。


「わぁ、ホーチマありがとう。とっても大事にするね」


「あっ!私もあるのよ。はいこれ!」


ピリカ姉さんからは装飾の少ない髪飾りなどの小物類が入った小箱をいただいた。


「いくら護衛で従者だからっていっても、おしゃれは必要でしょ。でも動きやすさを考えて小さいものを選んだの。」


「ありがとうございます姉上。この紐とかは使いやすそうで色も綺麗なので嬉しいです」


「それリボンよ」


とまあこれくらいの軽いものをしてすぐにモカ様の元に戻った。

主催だからかいつもよりも豪華なドレスに身を包んでいるモカ様は、息をのむほど以上の息が止まるほど美しく愛らしかった。


「モカ様、本日もとてもお美しいです。美しさで人を殺めてしまうほどに」


「もう、物騒なことは言わないで。嬉しいけれど」


「現に私が死にそうなので」


「…イヴは(わたくし)に殺しをさせるの?」


「いいえ!!!断じてそして永久にさせは致しません!!!」


「じゃあ生きなさい。」


私の扱いがよくわかってらっしゃる。


「そうだイヴ、貴方に贈りたいものがあるの」


「贈りたいものですか?」


「えぇ。イヴ、今日誕生日なんでしょ?だからこれを贈ろうって準備してたの」


そういってモカ様が出した箱からは、一本の扇子が入っていた。

扇子の形は西洋のレースなどの華やかなものではなく、日本のような質素で落ち着きのある者だった。


「手にとっても」


「いいわよ。だって貴方への贈り物なんだから」


扇子を受け取って開くと、何も書かれていない真っ白で、木の素材は(ひのき)によく似ていた。

平安時代初期の当時に呼ばれていた『檜扇(ひおうぎ)』に近いのだろうか。


「これは、極東の島国のものです…よね」


「そうよ。イヴは極東に関わる本をよく図書室で読んでるでしょ。だからね、今までものお礼でと思ってお父様にお願いしたの。…気に入ってくれたかしら…?やっぱり、何か描かれてたりとかの方がよかった…?」


「いえ…。いえ、これがいいです。この扇子がいいです。しかし宜しいのですか、こんな良い品物を私なんかが頂いても。」


「もう、いいって言ってるじゃない。おめでとうって言葉だけで嬉しいとは聞いていたけれど、(わたくし)はイヴの驚いて喜んでる顔が見たかったの。だからこれは贈り物であって、(わたくし)の欲求を満たすものなの。受け取ってくれるわよね。じゃないと、「受け取りなさい」って命令するわよ。」


はは…、やっぱりこの人は最高だ。

泣くな自分。モカ様の前で涙を見せるな。


「有難うございますモカ様。この扇子は肌身離さず、私が死んだ後でも大切にします」


「だから死なないでって。もう」


「申し訳ございません。とても嬉しかったものですので」


オタクの表現の死はよくある。

もうそれでしか例えられないほどの感情の時によく使ってるからな。


「イヴ、本当に真っ白でいいの?」


「これもこれで味があるものなのですよ。」


「えっとね、贈っておいてなんなんだけど…(わたくし)が何か描くじゃ…駄目?」


「駄目じゃないです!」


上目使いは卑怯。簡単に了承してしまう。


「ほんと!よかった~。イヴに確認を取ってからって決めてたの」


「お心遣い、感謝いたします。では一度お返しいたしますね。完成を心よりお待ちしております」


「ふふん、任せてよ。ポネットちゃんやイザベラ様にクミン様と皆で考えた最高のデザインがあるんだから。期待しててね」


「はい。モカ様方の最高傑作をお待ちしております」


最近集まってちらちらとこちらを見ていたのはそれだったのか。

でも、やっぱり嬉しいな。駄目だ顔が緩む。

故郷の物を久しぶりに見れたのもそうだけれど、誰かがめいいっぱいの笑顔で何かをしてくれたことが嬉しい。


「っと、モカ様。そろそろ会場に行かねばなりませんね」


「そうね。行きましょうか」


=============================


お茶会の開催の挨拶を終えたモカ様の元には、友人以外のご令嬢やご子息がわらわらと集まってきた。

あの時のお城のパーティーでの王子達みたいだな、と思いながら人だかりを抑える。

我先にと人の欲が押し寄せるこのまどろっこしい感覚。

元の世界の有名人のボディーガードさんたちはこんなに大変だったのだろうか。

まあ、現実逃避はここまでにして


「皆様、モカ様が困ってらっしゃいますのでその辺で…」


「モカ姫様!私とお話を!」

「いえ私と!」

「いえ僕と!」


暴力で解決できればな~。でもモカ様にもそれだと影響出るし…。


「何をしている。従者としてたるんでいるぞ!イヴ・レリブロー!!モカ様の従者としてしっかり勤めんか!!」


横から私の名を大きな声と叱責をする声が耳と頭に響いた。


「ウミ・フリーク様だわ」

「彼も呼ばれていただなんて…」


周りがその声の主である『ウミ・フリーク』様を避けるように、人だかりから道が出来た。


「姫様、大きな声でいきなり驚かせてしまい、また我が系列の者が従者としてふがいないことをお詫び申し上げます」


「いっいえ!大丈夫です。」


「姫様の寛大なお心に感謝いたします」


そういったウミ様はすぐさま私を睨む。

あー、面倒くさい。


『ウミ・フリーク』。

【武術】系列公爵フリーク家の次男として生まれた彼は、現在王国の騎士団の見習いとして後の騎士団長だと噂されいている実力者だ。

まあ、こっちの世界の私とではいわゆる従弟になるわけで。

こんな風に偶に王宮内で会うと叱責されるんだよな。嫌われてんのか気に入らないのか知らないけど。

同い年なんだから仲良くしようよと私は思っても、ウミ様の方が位も上だから何も言えないし、言った方が面倒なので聞いてるだけなんだよな。


「モカ様、そろそろカポウィン様のところに行かれますか?」


「そうね。それでは皆様、お茶会をどうか楽しんでくださいまし」


人だかりが割れたんだ。この機会にモカ様の会いたい方と面会する方がいい。

あと一刻も早くウミ様から離れたい。


「申し訳ございません姫様。少しイヴを借りても?」


「え?」


ですよね。そんな都合のいい展開なんてありませんよね。

首根っこを掴まないでほしい。

私よりも身長低いんだし、その大勢だと下に引っ張られて閉まる…。


「ご安心ください。護衛などは騎士団にいる方々がいてくださるよう手配しております」


「えっと…」


「イヴもそれなら問題ないだろう?」


「…はい…」


「イヴがいいのならいいけど…」


「ご安心ください。すぐにお返しいたしますので。それでは」


引きずられるように私はモカ様から引き離された。

そして人気の少ない部屋にまで連れてこられた後、沈黙が続いた。

なんだ説教か?


「お前は!モカ様の従者であり護衛でもあることの自覚はあるのか!!」


「ありますよ。だから出来るだけ穏便に人だかりを収めようとしてたんですよ。んな怒んないでください」


「収まっていないから怒ってるんだ!お前がふがいないからじゃないのか!」


知らんよ。

逆にふがいあるのなら収めれたのだろうか。

ダボが。無理に決まっとろぉ。


「それ言うためだけにここに呼んだんですか?説教なら今でなくてもいいじゃないですか」


「今言わなければお前に響かないだろう!」


「時場所場合のTPOを考えろって言ってんですよ。それにウミ様は公爵家で招待された身ですよね。こんなところで油売ってる場合じゃないでしょ。」


ぶふっと部屋の外から笑い声が聞こえた。

居たのなら初めから入ってきてくれた方がよかったのに…。


「誰だ⁉」


「私の友人で相棒ですよ」


「なぜお前の相棒がいる!」


「知りませんよ。大方面白そうだから見てみようっていう愉快犯なんじゃないですか?」


ガチャッと音と共にニックが部屋の中に入ってくる。

そんなに笑えることだったのだろうか?

お腹を抱えてプルプルと体を震わせている。


「あはははは!相棒正解!絶対に面白いことになるって思ってたから付いてきちゃった♪」


「最初から居て堂々と聞いてくれてもよかったんだぞ」


その方が気まずくなかっただろうし、なにより精神年齢が年下の子に大人げないことを言うこともなかっただろう。


「いや!盗み聞きされてたことを許容するな!」


「すみませんウミ・フリーク様。少し黙っていてくださいませんか?」


「何⁉」


「今オレは、イヴさんとお話していますので。人のお話中に割り込んではいけないでしょ?」


ニックは張り付けた笑顔でたんたんとウミ様を黙らした。


「いやニック、そもそも私とウミ様の会話の場だった?んだぞ」


「あれ?そうだっけ。でも相棒は乗り気じゃなさそうだったし、話聞く耳を持ってなそうな返事だったからいいかなと思ってさ」


「出来ないことをやれっていう説教を聞いて何が楽しいんだ」


「ごもっとも~」


「な⁉イヴお前!俺の話をちゃんと聞けってあれほど!」


「だってウミ様の話は説教が主で、大事な話の時間が取れていないんだすもの。今回、この部屋に呼び出したのも話があるからでしょう?なのに説教で時間をまたつぶすおつもりですか?」


痛いところを突かれたのか、ウミ様は黙ってしまわれた。

こういう人、いるんだよな~。

怒ることが先で肝心なことは言っていないっていう人。

王宮内で何度そんなことがあったことか…。

そうなったら説教への言い訳とかも時間の浪費だから何も言わない方がいいしって考えになるよね。

あと普通に説教の内容が理不尽で聞いててうんざりする。

フリーク家の脳筋な精神をこの人も受け継いでるんだと感じる。


「何かあるのならお早めにどうぞ。先ほどモカ様に言っておられた「すぐにお返しいたします」を破る気ですか?」


「そんなことは…。あぁ!もう!」


足を地面に思いっきり振り下ろして怒りをあらわにしたウミ様。

これって確かスタンピングってやつだよな。

兎とかがやる足ダンと呼ばれるあの…


「本日より、俺もモカ様の護衛に王様より任命された。」


「めっちゃ大事なことじゃないですか。」


「だからあれほど話を聞けと」


「その話を説教という時間の浪費で聞けなくしようとしていたのはどこの誰でしょうね?それも今回だけじゃなくて」


「ぐっ…」


ニックお前、痛いとこをついてあげるなよ。

確かにそうだけどさ。


「それで?その先は?」


「…姫様の第一従者と護衛であるお前には、姫様よりも早めに知っておかなければならないだろう。その報告とこれから同僚になるということの告知だ。」


「騎士団で見習いだったのでは?」


「騎士団としての使命でもある。それに…おっ…俺が…」


「『俺がしたくて護衛と従者の使命をお願いした』とかですか?」


「は⁉なんでそれを!」


「顔赤くしていうセリフと言えばこれがあるあるっしょ」


言い方とか説教名の内容とかは一見すると家の品格やらだと思われがちだけど、説教の内容の大幅を要約すると「モカ様の近くにいるんだから俺以上に頑張れよ」というものだ。


「惚れた女の近くにいる私に嫉妬を向けるのはいいですが、周りに迷惑をかけるのはやめてください。モカ様にも迷惑が掛かりますよ。」


「ほっ!惚れた女ってお前!!」


「あ、図星だ」


こうも簡単にかかってくれるとはね。


「お前…!俺のことをおちょくってんのか!」


「はい」


「素直!」


「だって今までの仕返しですから。」


こういう年頃の子って、好きな子がばれるのがとてつもなく恥ずかしいもんね。

なんかプライドが許さない、みたいな感じで。


「それでその仕返しは…俺が姫様を好きだと本人にばらすことか?」


「んな面白くないことしませんよ」


「じゃあなんで、俺が好意を抱いていると切り出した!婚約者がすでにいらっしゃる姫様への好意など、無礼にもほどがあるだろう!」


「単純に確認したいだけですよ。モカ様への絶対的な忠誠と安心できるかという人物の」


こういう馬鹿真面目な奴が嫉妬するほど誰かを好意的に思ってるんだから、絶対に裏切らないし傷つけないだろうという安心感がある。

それにこういう真面目は不誠実を嫌うからNTR(寝取られ)の心配もないし、ウミ様ならする必要もない。


「それに同姓の従者が増えるのは頼もしいですよ。」


「は…」


「でも男だと貫くのならこれからは骨格が見えないようにだとかの工夫はしたほうがいいかと思いますよ。知識のある人から見たらすぐにバレます。」


男女の骨格や体格の差が明確に出るのは、一般的に11~12歳以降の思春期だと言われている。

元の世界で厨二心を少なからず持っていたので、こういうことは調べてあるんだよね。


「おっ、俺は男で!」


「同い年で従弟だからって何度同じ訓練させられたと思ってるんですか。逆に気が付かない方が可笑しいでしょ。いくら子どもでも女性騎士との訓練が多かったなんて。」


実際、ホーチマはまだ幼いのに男性騎士の訓練に出されている。

なんだかんだフリーク家は、男女で分かれての訓練を行っているのだ。

男女間での筋肉の差や対抗心を燃やすためらしいけど。


「モカ様に同姓の従者がいるなんて普通のことですよね。なのに貴方は何度も突っかかってきました。まあ好きな女性の近くにその好きな女性と同じ性別の方がいることですら嫉妬するという方はいますが、貴方の嫉妬の仕方は同姓の者が好きな人の近くにいるというものに感じたので。」


嫉妬って怖いんだよね。本当に。

元の世界で実際向けられたことがあるから、既視感?いや既触覚感?があったんだよね。


「そっ…それは…」


「私から言うつもりはないですが、いつかウミ様自身から言ってあげてくださいよ。私からしたら、モカ様の従者が増えることは大歓迎です。モカ様安全も強固できますし、何より身内なので安心できます。」


それに魔法学校に行ったとしたら、私はモカ様の元に四六時中いられないからな。

無属性の自分は木属性のモカ様とは別のクラスに分けられる可能性が高い。

木属性というモカ様と同じ属性を持つウミ様がいるのなら、この先も安心できる。


「お前は…気持ち悪くないのか?」


「なにに?」


「同姓の俺が…同姓である姫様に恋などと…」


「思いませんけど。だって人が誰かを好きになれるのはいいことじゃないですか。誰かを嫌うことは簡単です。でも本気で誰かを好きになることは、誰でも出来ることで案外出来ないことが多いんですよ。」


同性での恋なんて、元の世界での書籍はあふれかえってたからな~。

偏見がないのはそのおかげだし、それに身内の恋愛を応援するのは当たり前なんだよね。失恋確定だけど。

でもさ、いくら失恋しててでも、それでも好きな人のことを守りたいって素敵なことなんじゃないかな。


「私は周りにウミ様のその秘密を言うつもりはありませんし、茶化す気もありません。ただ覚悟を決めてください。これから従者として生きていくのならどうするべきか。ウミ様ならできるでしょう。貴方はお強いのですから。それでは、失礼いたします。行くよニック。」


「そうだね。それじゃあ、失礼しました~」


そう言って私とニックは部屋から出て、会場に戻る廊下を歩いた。

ニックがいてくれて助かった。

あのままじゃ、もっと時間は経ってたし、私も本気で話する気にはなれなかっただろうからね。


「ありがとニック。」


「相棒として当然のことをしただけさ。気にしないで」


会場への扉は、廊下からでも楽しそうな声が聞こえる。

お茶会が成功のようでよかった。

早くモカ様の元に戻ろうと、私は会場の扉を開けた。


=================================


お茶会は大成功のままお開きとなり、現在は片付けも終盤を迎えていた。

モカ様はご家族との時間を過ごされるそうで、私は余った時間を片付けに徹していた。

途中で抜けた責任も少なからずあるのでね。


あれからウミ様はいつの間にか会場に戻っていた。

泣きはらしていたのか目元は赤かったが、以前よりもキリッとしていたことから覚悟を決めたのだろう。

次男という肩書も、モカ様に好意を伝えようとしていたからなのか、はたまたジェンダー?だったのかはよく分からない。

そちらにしても責める気もないし気力もない。

誰もが何かを抱えてるんだから、それくらいあるものだろうと思うのは当然だからな。


「イヴさん。もうこっちはだいぶ片付け終わったので、もう上がっても大丈夫ですよ」


メイド長さんがそう言って、扉の方を指さした。

扉の近くにはニックが手招きしている。

メイド長さんにお礼を言って早めに上がらせてもらい、ニックのもとに行くと庭まで散歩に来てほしいだってさ。

ウミ様のことで助けてもらったことと、気分転換も踏まえて承諾した。


「お茶会大成功だったね。でも相棒はずっとモカ様の元にいて、まともに離せたのはウミ様のあの時くらいだったのは残念だったな~。」


「今話せてるんだからいいじゃん」


「気の許せる子にはどんなところでも話したいってのはあるでしょ」


「その気持ちは分からんでもない」


元の世界で授業中に話したくなって話して怒られるなんてこともあったしな。

でも流石に委員会中とか会議とかでは緊張で話すらできないし、モカ様の護衛はそれと同等だからな。

何が起こるかを常に周りを見ないといけないから、集中してあんまり離せないんだよね。


「それでさ、今日相棒の誕生日でしょ」


「おん」


「はい、これ相棒への誕生日プレゼント」


「え、ありがとお。開けていい?」


「うん、いいよ~」


なんかこの展開、モカ様とデジャブな気がするけど…とりあえずプレゼントをもらう。

綺麗な包装紙に包まれた中身は、懐かしさを感じられる木箱だった。

木箱の中には二本の形の違う簪が入っており、装飾性が控えめで実用的なもののため、日本製に近いものだと分かる。

となると…


「こっ…!えっ…!コレ…⁉」


「むふふ。喜んでくれたかな?」


「めちゃくちゃ嬉しいけど!そうじゃなくてこんなええもんをどうやって手に入れたんよ⁉これめっちゃ貴重なもんやん!!」


「極東の、それも島国の方の文化が特に好きでしょ。相棒はオレによく話してくれてたからさ。どうしても極東の島国のものを誕生日プレゼントに贈りたくて、父さんの手伝い頑張ってたんだ~」


簪。

江戸時代中期以降に複雑や華美なものに発展する前は、実用性と魔除けの意味合いでシンプルなデザインが主流だったとされている。

そしてあまり使用頻度は比較的に少なめだったとされている。

何方にせよ、この簪は貴重なものでしかなくて、それこそ国とかに献上すべきものなんじゃないのか???


「…これもろてええんか?これ国に献上せなあかんのちゃうの?」


「ん~、別に大丈夫なんじゃないかな。他にも貿易の品とかはちゃんと献上してるからね。それに姫様宛に扇子?が届いてたし」


それ多分私へのやつかな~???

どうしよ。

本当にどうしよう…


「こげんええもんのお礼はどうしたらええねん…」


「相棒への誕生日プレゼントなのになんでお礼なんてするんだよ。」


「最上級に嬉しいからすんねん!それにお返しがあらへんといけんくらいええもんやもん!」


「おぉう、ちょっとわかんない言葉が多いな」


ヤバい冷静になれ自分。

方言がでまっくってるぞ。


「誕生日のプレゼントといえど、すごく嬉しいものだったからお礼しないと罰当たりになる」


「ならないと思うよ。」


「いいやなる。それに頑張ってこの贈り物をやってくれたんや。そのお礼は必要なもんやろ」


「頑張ったご褒美はもう貰ったよ。相棒の喜んでる姿を想像して送って。想像以上に喜んでくれたことが何より嬉しいんだ。」


流石イケメン。

言動もイケメンだ。

幸せになってほしいものだ。


「言うてくれることは嬉しいっちゃけど、そいでも私はなんか納得いかん。私のエゴやけんど、おんしには絶対にお返しするんよ!」


「頑固だな~。誕生日プレゼントじゃないと受け取ってもらえないと思ってたからなのに、受け取ったら受け取ったでお返しを絶対にしてくるなんてね。ふふ、相棒のその頑固さはいつ見ても清々しいね。」


なんで笑うねん…。

あっ、そっか。

誕生日プレゼントって無条件でもらえる物なんだっけ。

元の世界ではお返しは相手の誕生日出映え返しみたいな感じだとか、奢るとかだったからこっちの文化にまだ慣れない。

というよりこの感じだと、簪を異性に贈る意味を知らなさそうだな。

こっちの世界でも意味があるのかは知らないけれど、考え過ぎないでいいだろう。


「あっ、ちょっと待って。最後にコレつけるんだった。」


そういってニックは二本の簪それぞれに小さな装飾をつけた。

少し光が出ていたのでおそらく魔法を使ったのだろう。

一本刺しの方には、玉。

U型の方には、宝石で出来た桜が付けられていた。


「この桜?って花は、極東の島国では有名でとっても綺麗らしいね。それでね。こっちの玉の方なんだけど、中にも花を入れたんだ」


「確かに…。菊か?でも菊にしては硬そうだな。乾燥するにしても、菊はしおれてしまうから乾燥での硬さではなさそうだし…。」


形状は菊と似ていても、違うような気がする。


「この花の名前はね、『ヘリクリサム』って言うんだ。乾燥しても綺麗なままで、乾燥した花弁は麦の葉のようになるんだて。」


あぁ、麦わら菊だったのか。

でも中世ヨーロッパにもあったか?この花


「実際に見たものではないのか?」


「乾燥した姿は見たことないんだよね。このヘリクリサムはね、乾燥する前の物を玉にいれてるんだ。だから枯れることはないし、いつでもオレのことを思い出してくれるでしょ。それに、何か飾りは付けておいた方がいいんじゃないかと思ってね」


確かにないのとあるのとでは見方は違う。

貴族社会での宝石や煌びやかさは、身分の象徴でもあるだろうからな。

それに玉簪も花飾りのあるU字簪も私にとってはとても好みのものだ。

しかし…


「付け方が分からん…」


「え?極東のことをあんなに知ってるのに?」


「ほぼ見る専で誰かが付けてるのを見てるのがほとんどだったかんね。自分でつけるなんてしたことない」


だから元の世界でも買うことはなかったんだよね。

付けてる人や飾ってるだけならいいんだけど、家だと壊れちゃいそうでいやだったし。


「だったらさ、次オレと会う時までに付けれてるようにしていてくれないかな」


「は?何言ってんだ。今日明日で出来るようなものじゃない…と思うんだけど」


「もし明日会えないとしたら?」


声が出なかった。

ニックは私のその様子を見ると、眉を少し下げて笑顔で言った。


「オレさ、また父さんの仕事で違う国に同行することになったんだ。外交の仕事を今から実際にしていれば、将来困らないからだってさ。だからね、もうしばらくは会えないと思うんだ。」


「…しばらくって?」


「どうだろ。一年後かもしれないし、五年後や十年後かもしれない。正直わかんないんだよね。でも、会えなくなるのは本当。どう?相棒は寂しい…かな」


「寂しいって言ってほしいか?」


「できればだけど」


「じゃあ寂しいよ」


「それは本心で?」


「寂しいって言うと引き留めるみたいになるだろ。引き留められるものでもないだろうし、行くって決めた相棒の背中は押してやりたいものでしょ」


「寂しいって思ってはくれてるんだ」


「それ以上に応援してんねん。早く再開できるように頑張れよってさ」


いつか来るとは思ってた。

こんな形では想像できなかったけど、『貴族同士で心の通じ合う時間は貴重』というものを身に染みてからはいつ来てもおかしくないようには覚悟はしていた。

寂しいしもっと話したいことはあるけどさ、自分の勝手で誰かの成長の場を台無しにしたくないじゃん。


「あ~あ、相棒には敵わないや。寂しそうな相棒を慰めてやろうって思ってたのに。」


「”しばらく”なんだろ。ということは何年たっても会いに来てくれるってことだ。でも私は待つだけは飽きるかんね。」


「分かってるよ。相棒は案外、面倒くさがりだもんね。」


「早く戻ってこれるように、頑張れ。私も私で頑張るからさ。できれば、魔法学校入学までには戻ってきてほしいな。学生生活は友達がいてなんぼっしょ」


「後6年までにか~。それは頑張らないとね。…どこに行くか聞きたい?」


「それは次に会ってからのお楽しみにとっとくよ」


「そっか。じゃあ会うまでに色んな話を考えておかないといけないね」


どうやら散歩という名の帰り道だったようで、門の近くに止まっている馬車が見えた。

本当にしばしの別れのようだ。


「またね、相棒。相棒の浮気はしないでよ」


「誰がするか。それに浮気なんて不貞は嫌いじゃ。」


「そこは「こっちこそ」って言わないんだね」


「仲良くするのは人の勝手だろ。私は強制する趣味はないからな」


「それもそうだね」


「じゃ、林檎の収穫が出来るころには帰ってきなよ。今年に苗を植えるからさ」


「うん。美味しく育ててね。」


そう言うとニックは馬車に乗った。

最後の言葉の意味が分かったようでよかったと少し息を吐く。

一年も続いているわけではない仲なのに、心にぽっかり穴が開いたようだった。

いけんいけん。こんな心の持ちようじゃあ、ニックにもモカ様にも失礼や。

それに簪が付けれるようにならんと、格好悪いよな。

約束は守るもんなんよ、日本人は。


馬車が見えなくなるまで見届けると、私は城内に戻った。

再開までに時間はあるんだ。

それまでにあの愉快犯に一泡吹かせれるような成長をお見舞いしてやろうと意気込む。

元の世界のことを知るためにも、今は準備期間でもあるんだ。

遠い遠い友人のライバルなんて、次元を超えた友人がいるのに今更うじうじもしてもられないだろ。

簪を自室に置いてモカ様のお迎えをしに仕事モードへと入る。

これでいい。これが今の世界の私でいい。

従者としての使命を胸に、静かに、しかし確固たる一歩を踏み出した。

        以上

内容:仲間としばしの別れ

感想と反省:

・百合

・簪の付け方はまだ分からないし付け方の本とかあるのだろうか

・扇子も簪も贈る意味はあるけど、二人は知らないはず

・約束(特に時間)はも守ろう絶対

・林檎の苗からの成長は約3~5年

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