表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
尋ね人の東日録  作者: 播磨
幼少期の日記
10/12

ましらの誇り

秋の刻30、35、42


 あの婚約話の最初の一件から、もう一月以上も経った現在。

モカ様とカポウィン様は正式な婚約者同士となった。

カポウィン様は今のふわっとした常識を改めるために日々鍛錬や勉強を頑張っており、モカ様もそんな彼を支えられるようにとより一層勉学に励むようになった。

その間の他の婚約話の交流はいろんな意味で凄かった。

もう本当にすごかったぞ。

モカ様がばっさばっさと相手の男を切り捨てるようだった。

まるで面接だ。圧迫じゃないのに圧迫と感じられる重い雰囲気の。

上辺だけの取り繕いではしどろもどろになるような質問の仕方や会話の流れを作り、ほぼ相手を泣かせに行っているようなものだった。


「それは面白そうですね。(わたくし)に興味はございませんけれど」

「格好いいと言われている…と。そうなのですね。知らずに失礼してしまいました。」

「貴方様は本は読まれますか?読まれない。あら、では(わたくし)とお話は合わないかと思われます」

「爵位のご自慢なのでしょうか?」


とまあ火力の高いことを言っていた。

カポウィン様との対談は時間のある限りでするに対して、そのほかの婚約話には体感五分もないと思う。

お互いに一目ぼれだったのか、それとも一番最初がカポウィン様という相性がよく本音で話せる方だったから婚約話という評価基準が上がっていたのかは分からないけれど、とにかく二人が婚約してくれて私は嬉しい。

推しの幸せそうな純愛を堂々と見れるという、従者万歳なイベントが起きることは確定したのだ。

勿論この喜びを自身だけにとどめは出来ずにニックに話した。


「へ~。相棒は純愛が好きなのかい?」


「NTRとかライバルとかハラハラするのは心臓に悪い。純愛が最高で至高なんよ」


「ねとられ…?まあ相棒が幸せそうならよかった。」


「ニックはどうなんだ?貴方も貴族だろ?」


「オレはお互いに惹かれあってて、相性が良くて、背中を預けられるほどの信頼があるのがいいかな。あと、面白かったら最高!」


「同じ純愛好きの仲間やん」


「相棒のは見る専の意見で、オレのはする方の意見なの」


見るのもするのもさほど違いはないように思えるけど…と元の世界でも見る専という名の非モテだった自分には分からないものだ。


「ソー師匠はどんな恋愛をしたんです?」


「え~、イヴちゃん聞きたいの?」


「人の恋愛話は聞いていて楽しいですからね」


「てかソー師匠のお相手さんって誰なんですか?」


「そうね~。とっても男前でイッケメンなのよ。アンタ達と同い年の子どもをアタシもいるんだけどね、その子にアタシ以上にいろんなことを教えてくれてるの」


「具体的にどんなことです?」


「零点規正射撃の訓練とか、射撃の心得とか、人体の弱点とかね」


「思ったより物騒」


「ちなみにソー師匠は?」


「アタシは料理や裁縫を教えてるわ」


「「逆じゃね?」」


「よ~し、訓練再開よ。昨日よりも筋肉をはじけさせてあげるわね♡」


あっ、死んだこれ。


「終わった…。今までありがとうございます人生…」


「何諦めてんの相棒!早く逃げるよ!」


まあ案の定逃げ切れるものではなく、その後の訓練では本当に筋肉が死滅するのではないのかと思うくらいの負荷がかかった。

ソー師匠が帰られた後、私とニックはお互いの反省点とせめてもの気力回復のために話し合った。


「化け物?」


「人間の化け物でしょ。あんなの見たこと…いやお爺様の訓練で見たことあるわ。」


「フリーク家はゴリラでも製造してるの?」


「例があるから否定できねー」


ソー師匠の指導はお爺様と酷似している。

お爺様に直接指導されてあんな化け物のような狂人が出来ているソー師匠と同じような人がゴロゴロいたのを思い出す。

そういや母上も大概だったな。

『力こそパワー。力こそが万物のあらゆるものの解決策』がモットーらしい。

だからといって人間以外も指導しないでほしい。

フリーク家にいる動物、特に人間と同じような猿からネズミなどの小さな生き物までもが常識外れだ。

なんでネズミがドラゴンを倒せるまで強くなれてんだよ…。しかも一匹で。

個体が一般のと違うからなのか、一般を育て上げたからなのか…


「でもソー師匠って【医術】の系列公爵である『マルコプセル』家の分家じゃん。あんな筋肉や武力への肩入れでいいのかな~…」


「まあ、他系列の内情は分かんないからね。」


【医術】系列公爵『マルコプセル』。挑戦劇では医術の名のもとに怪我人を助け、魔物に間でも救いの手を差し伸べたとされている。

また、その当時に流行していたウイルスへの対処を迅速に行ったり、戦闘用のパワードスーツのようなレトロ感のある機械の発明などを行っているそうだ。

『地下で非人道的な実験をしている』という根も葉もないうわさもある。

そして当時の爵位を貰ったとされる方は、どうやら先々代国王陛下の従弟らしい。


「何はともあれ、今日の訓練は終わったんだ…。いつもよりきつかったけど」


「そうだね。お疲れ様」


「お互いにな」


体を十分休ませた後、ニックは重い足をあげて帰っていった。

それにしても律儀な奴だ。

私はお爺様の指導でもあるため、そして己のための訓練をしているだけだが、ニックにとっては関係のないものなのに訓練には毎回といっていいほど参加している。

共に訓練する同世代は成長のためには貴重だとよく聞くが、ニックも何か守るべきものでもあるのだろうか。

まあ、あったとしても聞かないけど。

私も言ったわけでもないし、下手に他人のことを聞き過ぎては失礼だ。

よし、考えるのはやめにしよう。

そう完結して私は自室に戻った。


============================


それから五日後、父上から手紙が届いた。

内容はパチィース家の後日談だ。

あのミロルの情報から約一か月以上、こちらとしてはモカ様の婚約騒動で参加は出来なかったがあっちも片づけたようだ。

『徹底した内部調査と外部調査の結果、判決は爵位の剥奪』

と書かれている。

内部に何があったのかが書かれていないのはそれほど悲惨だったからだろうか。

だとしても、爵位の剥奪だけで済んだのは何かしらの理由があってだろう。

私からしたらミロルがこれからもホーチマの従者としていてくれたらいいので、その件に興味や関心はあまり持っていない。

結果だけ知れればいいんだ。本人じゃない部外者なのだから。

と楽観視出来たらどれほどよかったものか。

『ただ内部調査の結果、【神聖】が関与していることが分かった。現在も調査は続いているが、足取りはつかめていない』

やはり異世界での貴族はそう簡単に解決できないのがあるあるだろう。


=================================


【神聖】とはドニーテン王国の挑戦劇が始まる前から根付いているもっとも古い系統だ。

今は他の系統と同等だが、その当時では王政と隣り合わせの権力をも持っていたらしい。

【神聖】の系統に属する貴族は全盛期の地位を欲するものが少なからずいるので何かしらあるとは思っていたが、まさか他系列の崩壊を目的とは…。うん、想定内。

むしろそんなのがない方が可笑しかったよな。うん。

【政治】【武術】は挑戦劇からの系統で、なんだったらそれまでは他国だったらしい。

挑戦劇でドニーテン王国との共闘の末、統合という形になったらしく、元からあった【神聖】からはよく思われていないのだろう。

いいところもあれば悪いところもあるのと同じで、逆も然りだ。

【神聖】の系列公爵である『コングドール』家を筆頭に上の地位である貴族たちは皆、他系列との共存を求めている。

それこそ【神聖】の名のもとに、皆で仲良くを目指しているからだろう。

下の貴族にいくほど、その治安は悪くなるわけだけれど。

っと、こんなことを考え過ぎてはいけない。

この件の命を受けていない第三者の私が、首を突っ込んだところで足手まといだろう。

そんなことより今日はモカ様とのお出かけだ。

こんな暗い話題などあのお方の耳に入らないように気持ちを切り替えねばな。


天気もいい丁度お昼頃、私とモカ様、そして数人の警備と従者の方々は近くの森に来ていた。

「綺麗な森で散歩なんて冒険見たいでしょ。」となんとも可愛らしいものでのこの外出は、モカさまの成長の田和ものだろう。

元の世界の紅葉のような真っ赤なものは少ないが、黄色やオレンジといった温かみがある色があるのは同じだった。

西洋では針葉樹林?が確か主流なんだっけかな。


「イヴ、あっちの湖に行ってみましょうよ。」


「モカ様、あまり先に急がれますと危ないですよ」


「大丈夫よ。イヴがいてくれるんだから」


落ち葉が危ないんですよ~~~~。

湖なんて少ししけってるところに落ちてる落ち葉が特に危ないんです~。

めちゃくちゃ滑るんですよ。実際滑ってもう転びましたし。

この世界に来てもどんくさいのが抜けてなくてショックだ…。


「わぁ、とっても綺麗ね。物語にある湖ってこんな感じなのかしら」


「…おそらくは」


「ん?どうかしたの?」


「いえ、なんでもございません」


湖といえば、確か某歌手の方のPV撮影で琵琶湖が却下されてたんだっけ?

なんかコメントか何かで見た気がするが…この湖に星のステージさえあればなあ…。アニキ…。


「ん?」


「どうかしたの?」


「いえ、風で何かが擦れた音でしょう。何もございません。少し肌寒いでしょうし、何か羽織るものを持ってまいりますね。」


「えぇ、ありがとう」


んなわけがない。

こういう時の音は大体人がいるのが鉄則だ。

いなかったとしても何かしらあるだろうし。

近くに待機していた従者の方にモカ様のことを任せ、私は音のする方向へと向かった。

大人だった場合、子どもである私に勝てると思い込むだろうからだ。

大人相手では警戒されかねないし、大人がやられでもしたらモカ様が危ない。

万が一私が長い間戻らなかったら早急にモカ様の安全のために帰っていてほしいと伝えてはある。

自身の力を過信するつもりはないが、私だって鍛えてはいる。

最悪の場合、母から教わった人間の最大弱点を攻めるつもりだ。

近づくにつれて気配が分かってくる。

相手は一人…いや一人と一匹だろうか。

殺意は感じない。

私は気配を消しながらその人物へと近づいた。


「何をなさってるんです…」


「ひぃっ!!」


んなひどく怯えんでもいいじゃんよ…。

現れたのは少女と、小さな…猿かな?


「んな怯えんでくださいよ。こっちだって一人なんですから」


「だって貴方、王国の…それもモカ姫様の護衛さんなのでしょう?!」


「それが何か?」


「護衛さんの時点で強いのは分かってるのですよー!」


何かされるとでも思われたのだろうか。誠に遺憾だ。

少女に抱えられている子猿?はシャーッとこちらを警戒しているようだ。


「とりあえずなんも致しませんよ。」


「本当に?」


「それともしてほしいですか?」


「絶対に嫌なのですぅ!」


面白いなこの人。

揶揄いがいがありそうだけれど、今はそれどころではない。


「それで、なぜこんな森に?」


「こっ…この森は庶民の方々も通るような一般の森で…」


「そんな上品な衣服を着ている方が、一般家庭の住民だとは思いませんけれど?」


「ゥぐっ」


私、出来るだけ庶民って言葉は使いたくないんだよな。

自分も庶民出身だからだし、こっちに来て貴族になっただけで本質は変わってないからさあ。

なんか上から目線になったようで嫌だし…。


「それに、現在モカ様が来られるということで一時的ですがこの森への立ち入りは禁止されています。なので一般市民の方が知らずに、ということは限りなく少ないでしょう。」


「あわわわ」


「お教え願えますか?ご安心ください。内容によっては誰にも言いません」


多分


「…モカ様のことを、もっと近くで見たかっただけなのです」


「何処でそれを?」


「それは…私が公爵令嬢だから知ってて…」


「公爵令嬢様がこんな森の中にお一人で?」


「ひっ!すみませんすみません!」


何に謝っているのだろうか…。


「公爵令嬢様というのであれば、名乗りを上げてくださいませんか?帽子をかぶってらっしゃって、森なのも相まってか顔がよく見えないのです。」


公爵令嬢が、そんな男物の帽子をかぶるだろうか。

いや偏見はよしとこう。

体つきや服装から少女だと断定していたが、実際に名乗ってもらわないと判断できない。


「…私の…。…私の名前は『クミン・コングドール』。【神聖】の系列公爵家の娘です。一応…」


タイムリー。

展開的には王道でも実際に起きるとビビるものだ。

よかった敬語で話してて。


「それで?何故公爵令嬢である貴方様がお一人でこんなところにあられるのですか?」


「えっと…その…」


「声が聞こえません。もっとお腹から声を出して。さんはい、」


「えっと…」


「もっと大きな声で。さんはい!」


「私は、実は…」


「もっともっと大きな声で!YO!SAY!」


「よっ?妖精?」


「ほら、まだまだ大きな声で!」


「よっ!妖精!」


「YO!SAY!」


「妖精!」


「よし、そのくらい大きければいいでしょう!」


「普通に大きな声でなくてもいいのではないですか⁉」


「だって緊張しすぎて声出てなかったので、緊張をほぐそうかと」


「全然わからなくて怖かったのですよ!」


「声出るじゃないですか。」


アニキありがとう。

やはりあの人は偉大だ。誰かを元気づけてくれる。


「さて緊張もほぐれた頃で」


「余計緊張してきますよ…」


「まあまあ、こういう変な人だと思って話してくださいよ」


「認めているのですね。なんだかイメージと違うのです。」


しまった…。

行け所を目指しているのにこんな変なイメージは真逆じゃないか。


「元気づけるために…仕方なくですよ…」


素なんだけどね。


「そう…なのですね。そのためにご自身の性格をも偽っておられて…私の緊張をほぐそうと…」


「そっ…ういうことですよ」


「ありがとうございます。お優しい方なのですね、安心いたしました。」


あっぶね~~。

何とか演技ってことで落ち着いたみたいだな。


「お話を戻させていただきますが、何故貴方様はお一人でここに?それに貴方様からのお誘いでしたら、モカ様は承諾なさると思いますけれど。」


公爵令嬢との誘いとなると(世間的に)断りずらいからな。


「それは私が…本当の公爵令嬢じゃないからで…」


・・・?


「えっと、養子って知ってますか?」


「『養子縁組によって法律上の血縁関係のない親子関係が成立した子のこと』」


「なんでそんなに説明口調なんですか…。というより養子縁組って?」


「養子縁組とは、養親と養子との間に法律上の親子関係を作り出す制度です。つまり血のつながらない親と子が親子になるための法律みたいなのですよ。」


「えっと…まあ貴方が分かっておいででしたら大丈夫ですね。」


そっか、私今8歳だ。

8歳に流石に養子の意味の理解もしてなかったな。

そもそも血のつながらない親子がいることすらも知らなかったし、改めていつ知ったんだろ。

ちなみに養子縁組の説明については、興味のあった時に調べた時のやつを偶々言っただけであってるのか分からない。


「実は、私の本当のお母様は病気で亡くなったのです。それで、現在当主である『ドン・コングドール』様の養子として私は迎えられたのです」


ここまで上の人って名前の人がいたんだなと感心する。

ドンって…。

アメリカのマフィアの映画かよ。

それかベトナム貨幣。

何方にせよ2文字でここまで大物感が出るとはな。


「養子として迎えられたのなら、義父となるその『ドン・コングドール』様はお義父様、と呼ばないのですか?」


「私には…呼べる勇気も資格もないのです。」


「資格はあるでしょうに」


「だって私の母は、【農業】出身に貴族で、私はドン様のお兄様である『クラン・コングドール』様との子らしいので…」


『クラン・コングドール』。

【神聖】の系列公爵長男でながら、爵位の受け継ぎの日をバックレたと有名な人だ。

それまでの功績は輝かしくコングドール家の安泰だと言われていてのこの事件だ。

そして急遽爵位を受け継いだのが弟の『ドン・コングドール』だったのか。

弟の方の名前は今知った。


「らしいということは誰かから聞いたのですか?」


「お母様から、遺言として…」


「それで、ドン様のもとに行って養ってもらいなさいと最後に娘の安泰をという言葉ですか?」


「いえ…。探せ…と」


嘘だろおい。


「…失礼を承知で申し上げますが、クミン様への遺言のお言葉はそれだけだったのですか?」


「はい…。クラン様を探せ…とだけでした」


「その理由は?」


「それを言ったっきり、母は言葉を発しなくなって亡くなったのです」


DNAそもそもが存在をまだできていないこの世界では、本当にクミン様が子ラン様との親子だったのかも不確かだな。

そもそも置いて逝く娘に言う最後のセリフが「探せ」とはな。

しかも貴族の女性が。


「で?クミン様はコングドール家に行って、不憫に思ったドン様が養子にしてくれたと?」


「えぇ?なんでわかるのですか?」


「それ以外に想像できないからですよ」


いつから養子として育ったのかは分からないけれど、8歳くらいの少女が突如失踪中の兄の娘だなんて言われて、何もしないわけがない。


「…まぁ真相はさておき、一度モカ様の元に戻らなくてはなりません」


このままでは『長い間戻らない』と無事なのになってしまう。

それに、このことは私一人だけで済まされるべきではないだろう。


「そうなのですか。なら私はここで…」


「何言っているのですか。貴方様も行かれますよ」


「ふえぇ⁉」


==============================


モカ様の元に急いでクミン様と戻って事情を説明し、城に戻ることとなった。

クミン様は緊張と恐怖?でモカ様と合った瞬間気を失って、抱えていた子猿は周りに警戒心むき出しだった。

知らんがな。


さてさて王宮に帰った私たちは早急に話し合いのできるお茶会…という名の尋問のような部屋にクミン様を通した。

緊張しすぎてまた気を失わせないように、あくまで『モカ様から申し出た交流のお茶会』として。

部屋の外には勿論護衛の人がいて、部屋の中にも魔力で出来たキノンさん特性盗聴器がある。

現在、部屋の中には私とモカ様、そしてクミン様と子猿の計三人と一匹とその他大勢の視線だ。


ある程度の事情説明を割愛と分かりやすい言葉で説明した後、私は主導権をモカ様へと変換した。


「まず、(わたくし)と会いたいとおっしゃっていただけてとても嬉しいです。ありがとうございますね」


「いいい!いえ!とんでももも!!」


めっちゃ緊張なさってるな。

ガクブルなのはわかるけど体が震えすぎてもはや残像みたいになってるよ…。


「あらあら、緊張なされていらっしゃいますね。イヴ、緊張をほぐさせてあげて」


「無茶ぶりにもほどがありますよ」


「あら。でも(わたくし)はよく貴方で緊張をほぐしているのよ」


「偶々です」


よくある『上司の無茶ぶり「何か面白いことやって」』をもとの世界でも社会人にすらなったことないのに受けるとは…。

緊張なんてそんなスグにほぐれる物じゃないし、そもそも王族の前で緊張をなくせ?

うん、無理☆

そもそもこんな大勢の前でさっきみたいにアニキの手を借りるわけにもいかないし…。


「そういえば、その子猿はクミン様のペットなのですか?」


「い!いいえ違うのです。この子は…私の家族なのです…」


よくある「ペットも家族」なのだろうか。

元の世界では亀や金魚は飼っていたことはあるが、家族やペットというよりも「亀」「金魚」と個体名での認識だったからなぁ…。

「ペット」「ペットも家族」は何方も新鮮な感じだ…。


「家族ということは、一緒に育ったのかしら」


「ははは!はい!ここっ、この子とは5歳から一緒でして…」


「ずっと貴方のことを守っているみたいでまるで騎士のようだわ」


「あり!ありがとうございます!!」


「霊長目はなんなのですか?」


「霊長目?」


「…子猿さんの種類のようなものですよ」


『霊長類』という言葉は確か…中世ヨーロッパではその言葉すらなかったんだっけ…。

※生物の分類群として『霊長類』という言葉を使い始めたのは、スウェーデンの博物学者であるカール・フォン・リンネという方とされています。

いけないいけない。

元の世界の文明を此方の世界でしたらパンデミックが起きるやもしれないからな。

もっと慎重にいかないと


「種類は…すみません。ちょっと分からないのです…」


「よく見ると、子猿様の腕が長いのね。」


「そうなのです。それにとっても賢くて、人間の農道具も軽々と持てて使えちゃうのです。私なんて、鍬も重くて持てないのに…」


チンパンジーと同じなのだろうか?

いやでもオラウータンも同じくらいの知性は持ってたはずだし、どっちも手足が長いのが特徴だったな。


「この前はジャガイモを握りつぶしてたのですよ」


「生でですか?」


「とれたてのジャガイモをなのです」


ゴリラじゃん…。

たしかジャガイモを握りつぶすのって大体握力100位だっけ?


「まるで【武術】系列のようなお猿様なのね」


「おやめくださいそのように言われるのは。同じ系列として傷つきます」


「あら?でもフリーク家の前党当主様は、素手で大剣を砕いたという話で有名なのよ。」


「【武術】系列全てがそんな力の権化と同じように思われてしまっては困ります。それに、すべての猿に失礼ですよ。あんな人間かもわからない化け物と同じにされては」


「お猿様と同じように扱ってしまったことに対しての「おやめください」かと思っていたのだけれど…」


「ゴリラが可愛そうなので。あと【武術】系列でくくられてしまうと私も認識が化け物みたいになってしまいますから。私は一般的よりちょっと上の力しか持ち合わせておりません。」


冗談じゃない、あんな化け物みたいな力を持ってる人と同じだなんて思われたは。

本家だけなんだよ、あんな「力こそパワー」ですべて解決できるのは。

トップがそうだからって下も同じだと思わないでほしい。

尊敬はしてるんだけどね!同じは嫌!


「それで?その子猿さんの名前は?」


「あっ、名前は『ジュニア』っていうんです」


「『ジュニア』。いいお名前ですね。」


「あっ!ありがとうございます!この子と出会った時、ジュニアはもっと小さくて可愛くて、お母さまにお願いして家族になってもらった時につけたのです。本で読んでもらった「小さい」という意味と響きが女の子っぽくて可愛い「ジュニア」という名前を付けたのです。」


「…ねえイヴ、ジュニアって小さいって意味あったかしら?」


「いいえ。私の記憶上では「年少者」や「息子」などの意味だったかと」


「え!?」


小さいと言えば小さいけれどね。なんか違う。


「そう…よね。(わたくし)もジュニアという名前は男性だと思っていたのだけれど…」


「『ジュニア』ではなく『ジュリア』なら女性らしく可愛い名前になりますよ。意味も「娘」や「若々しい」ですし」


「え⁉⁉」


娘といっても『ゼウスの娘』だけどね。

というよりクミン様間違えてたんじゃないか?

さっきから凄い目が驚いてるって感じするけど…


「ジュニアさんって女の子なんですか?」


「えっと…でもお腹の下の方が膨れてるし、お母様もお腹の下が膨れてたことがあるから女の子かと思うのです…」


「…お腹の下とはどの辺ですか?」


「この辺…くらいに小さいのが」


「それ睾丸です」


「え?」


「ようするに、チン「イヴ!!」ん゛ん゛っ、…男性にしかないものです。ジュニアは雄ですね。」


「オスだったの⁉ねぇジュニア!君って男の子だったの⁉」


そうだよというように「キイー」と鳴くジュニア。

ジュニアで合っててよかったね、名前。

というより世間知らず過ぎないだろうか。人のこと言えないけど。

これからほぼ質問だけど、大丈夫かなあ…。

緊張は取れてるっぽいから、まあいっか。


「モカ様、そろそろ本題へと参りましょうか」


「えぇ、分かったわ」


私はモカ様に耳打ちをした。


「そういえばクミン様、(わたくし)最近歴史のお勉強をしているの。そこでなんだけれど、【神聖】について何か教えてはくださらないかしら」


嘘もつかずに相手に自然と教わりに行く謙虚さと清さ。

私にはできない。完璧に言い方がきつくなってただろう。

流石モカ様だ。


「えっと…、【神聖】は元よりドニーテン王国が建立されたころからある系列で、『挑戦劇』では『クラン・コングドール』様の率いる【神聖】の民は争いという火種をなくすために、武ではなく言葉の力で貢献しました。」


なんか、教科書絵の暗記したものを言っているみたいだな。


「英雄『クラン・コングドール』様ですわよね。そういえば、クミン様の言っていたお父様のお名前もクミン様でしたよね。」


「はい、そうなのです。」


…あっ、名前の意味知らない感じかな。


「英雄様と同じお名前を付けられるのは、そのお方の功績を受け継いだ同姓の子孫にのみ与えられる権利だと学びましたが…」


「挑戦劇の【神聖】の英雄である『クラン・コングドール』様。この方は女性でしたはずです」


「そうなのですか?」


「逆に知らなかったのですか?」


「はい。初めて知りました。」


マジか…。

もう率直に聞こうかな。


「クミン様、失礼ですが率直に聞かせていただきます。貴方のお母様は病に伏した時、どうなさっていましたか?」


「えっ、えっと…確かベッドで休んでました」


「お医者様には?」


「行っていませんし、来られたこともありませんでした。あっ、でもシスターという方なら来られましたよ。」


「いつから病に?」


「3年前からでした」


ジュニアと会った時からか…。


「…貴方様は男性が怖いですか?」


ビクッと図星だというようにクミン様は動いた。

それから何も言えないのか沈黙が続く。


「質問を変えましょうか。クミン様はお母様がなくなられる前はどこに住まわれていたのですか?」


「えっと…確か【農業】の平民の皆さんと一緒にです…」


「クミン様のお母様は【農業】系列の貴族なのにですか?」


「はい。母は、『自分のしたいことをしたいから』と家から出たらしくて…」


「貴方様のお母様は、【神聖】の教会によく行っておられましたか?」


「は…はい…」


「そこで男性を見たことは?」


「ございませんのです。…お母様がなくなられるまでは、男性と会ったことすらございませんでした。」


「私を見た時にひどく怯えていたのは、単に驚いたからだけではありませんね。私を、男性と思われたのではないですか?」


私の容姿は、どちらかというと格好いい寄りだ。身長も同世代の子よりも高く、剣術などの鍛錬をしているからか肩幅も少し大きい。

それに、女性の格好は基本的にスカートが主だ。

動きやすいからとズボンを履いている自分は、『ズボン=男性』と思っている人からしたら男性に映っていたのだろう。

そして、中世ヨーロッパでは女性の『医師』はとても少なかったはずだ。

元の世界だって女性の医師が多かったわけでもない。

それにシスターも協会だけの仕事ではなく医療をしていたという事例もある。

一般的に『医師=男性』の概念が強いこの世界の時代では、男性を苦手とする人達からしたら自分たちで行った方がいいのだろう。

それでも、ちゃんとした医師としての教育がなされていないことに変わりはなく、重い病だと治せない。


「はい…。すみません。ズボンを履いていらして、大きい方でしたので…。」


ほらね。

何となく同じ気配を感じてたんだよね。男性が苦手っていう感じの。


「ハッキリ言うと、私も男性が苦手です。」


「嘘でしょイヴ。ニコラス様とよく一緒じゃないの…」


「ニックはもう男性というかそういうものと思わずに、単に気の合う友人と思ってしまえば何も感じずにいられますよ。キノンさんはただの同僚で必要事項以外は話しませんし、師匠は女性でもありますから。」


必要事項は話せるんだよね。だって必要だし。


「ですが、貴方様は私とは違う意味で苦手なのでしょう。そう”教えられたから”苦手なのですよね」


「…」


だんまりか。

まあいい。もう気を遣うのも面倒だ。


「最近、私の父上からお手紙が届いたんです。内容は大幅に省きますが、【神聖】が関わってるのですよ。女尊男卑をしていたパチィース家の協力をしていたらしく、目的は『系統内での分裂化』。本当にすごいですよね。パチィース家は元々、民との団結によって爵位を与えられた、最も団結を重んじていた家なのに。」


何処の世界でも、やはり教会とは厄介なものだ。

いいものと悪いものの天地の差が激しい。

ゲームでの教会は生き返りとか加護とかが多いのに、司祭とかが出てくると途端に黒幕のように感じる。

なんでアレって神父よりも司祭の方がとても悪役っぽく映るんだろうか。

はあ、もう。さっきからキーキーとジュニアの威嚇の声が響いてうるさいな。


「ジュニアさん。貴方は、何者ですか?」


「イヴ…?」


もういいだろう。そろそろこんなまどろっこしいことは面倒だ。


「通常、3年も経っている猿などの生態は成獣、つまり人間でいう大人と同じです。そしてジュニアさんの特徴からの種族で言うと、3年という月日であればいくら小さくとも60cm~70cmと大きくて体重も20kg前後はございます。つまり、クミン様にすっぽりと持ち上げられるというのは不可能なのですよ。」


強靭な肉体の少女ならまだしも、鍬も持てないような少女では無理だろう。

あ~、よかった。元の世界でネタと思って猿の生態とか調べてて。

役に立たないと思ってたのにな。


「さっきから妙に警戒されてたのは元野生で警戒心が高いのかと思っていましたが、普通に威嚇ですね。それも、嚙む寸前の野生よりも威嚇段階は上のしかも威嚇の質が安定してる。クミン様を群れの仲間だと思っておいでなのかと思っていましたが、”農道具、しかも鍬を使える”だなんて、まるで人間の用ですよね。鍬も持てないクミン様、そして病に伏せていたお母様、ではなぜ鍬を使えたのでしょう。」


鍬を”振る”ではなく”使える”だ。

簡単な作業の振るなら猿でも教えればできるが、耕すまでといった鍬を使うまでは出来ない。

『異世界系あるある』で言うとこういう時は大体


「貴方様は、【神聖】公爵家長男の『クラン・コングドール』様ですね」


「…正解だ」


子猿からは到底思いつかないであろうとても低い声とともに、子猿もといクラン様はクミン様の胸元から降りた。

そしてみるみると強靭な男性へと姿かたちが変わっていく。

すごい…服着てる。さっきまでマッパだったじゃん。

どうやって服着てたまま変身してたのだろうか。


「まさか、こんな小娘に見抜かれるとはな」


「あ、そういうのは間に合ってるんで早く事態と事情の説明を求めていいですか?モカ様とクミン様が声も出せないほど驚いているので」


「お前、本当に8歳児か?」


「マセガキとでも思っててください。今時はかなりいますので」


「…そうか…」


あ、紅茶が必要かなと思ってクラン様の椅子と紅茶の準備をした。

勿論私はモカ様の従者として立っているままだ。


「いつから、俺が行方不明である『クラン・コングドール』だと気づいた」


「展開的に?」


「展開ってなんだ」


「いやあ、そういう雰囲気かなと思いまして。まあ、率直に言うと最初から何となくで予想はしてたんですよ。そこから後々出た情報を合わせて、まあ50%くらいで当たるかなと思って切り出したって感じです。」


『異世界系あるある』:行方不明者はすぐそばに。

何かに擬態とかはよくある展開だし、そもそも猿と少女なんて怪しいじゃんかよ。

それにしてもこれじゃあ私との一対一での会話じゃないか。

男性は苦手なんだよなあ。

モカ様にこの場を仕切ってもらおう。


「モカ様、少しよろしいですか?」


「え?えぇ、勿論?」


「実はですね、

ゴリラの正式名称は『ゴリラゴリラゴリラ』でして、野生のゴリラは生息地には自生していないため、バナナを食べません。」


「?えっと…」


「緊張をほぐしてとおっしゃられていたので」


「今ここでなの⁉」


「緊張はほぐれましたね。よかったです」


結構有名な雑学だけどね。

まあモカ様の放心状態が戻ったんだ、よしとしよう。


「えっと、それでクラン様はどうしてその…お猿様のお姿に?」


「モカ様、あれはチンパンジーオラウータンゴリラです。決してお猿さんなどという可愛いものではございません」


「そんな種族がいるの?」


「いいえ、いませんよ」


「…それも緊張をほぐれさせるための冗談なのかしら?」


「いえ、これはただの趣味です」


「イヴ!」


完全に緊張がほぐれたことで少し場の雰囲気が緩くなった。

これでいい。だっておそらくこの人は悪い人ではないはずだ。

多分

知らんけど


「…茶番は終わったか?」


「ごっ、ごめんなさい。うちの従者が」


「いいって姫様。場を和ませてくれたんだろう?一人だけは相変わらず再起不能だが、それ以外は復活できた。これで俺の話を何人にも多く正確に聞いてはくれるだろう。」


監視カメラや視線は、やはり気が付いていたみたいだ。


「【神聖】の爵位の低い貴族連中が『各系列の分裂』を企てていることは知っていた。これは系列公爵としても系列の名に恥じないためにもとどうしたもんかを俺もドンも考えてたってわけだ。勿論、当時の当主である親父もだ。俺たち【神聖】は『思いやりの強さ』がモットーだ。そして【農業】のモットーは」


「『人と人とのコミュニケーション』。つまり『協力と共存』ですね」


「おっ、さっき姫様自身が言ってた「系列のお勉強」とやらは本当だったらしいな。」


「嘘はつかないと決めているので」


もう心に嘘はつかないと決めた姫様らしいお言葉だ。

それに【農業】のそのモットーは確かイザベラ様から教わってたな。

あの一件から仲良くなっているからな。


「だからさ、俺はこっそり【農業】系列に協力をお願いしようとしたわけだ。そこで出会っちまったってわけよ。運命ってやつに」


「…」


おっさんっぽいな。

もしくは厨二。どちらにしてもイタイ。


「なんだそのおっさんっぽいって顔はよぉ。うっせ。どうせおっさんだよ俺は」


「もしかして一目惚れというものですか!」


「…姫様はどうしたんだ」


「申し訳ございません。モカ様は恋愛話がお好きなので」


「話を戻すと、ミント…つまりコイツの母親に俺は惚れちまったってわけだ。【神聖】の系列は婚約というものをしない。神にどうたらってやつだな。だが子孫を残すことは義務付けられてるっていう矛盾でしかない方針だ。」


「クラン様は、あまりお家のしきたりなどをよく思わないのですか?」


「思っていない…といいたいところだが、育ってきちまった体はどうしても付きまとっちまうんだ。家も嫌いになれねえし、あんな愚かな行いをする連中のことも正したいと思っちまうくらいに【神聖】を誇りには思ってるんだ。」


笑っているが笑え切れていない。

誰しも矛盾は抱えているだろうに。

上に立つものは、必ずしもどちらかを選ばないといけないのだろうか。


「俺は【神聖】にいる傍らで、ミントのことを愛していた。だがな、俺が頻繁に外に出ることは出来なかったんだ。親父はな、しきたりを破ってまで俺にこの名前を付けたかったらしい。何が目的かは知らないが、その性で俺はよく批判される身だった。女尊男卑をしてる【神聖】の連中は、英雄『クラン・コングドール』が女性だったことに誇りを持っているらしい。それでいて【神聖】の全盛期と同じ系列トップを目指してやがる。俺は、二重の意味でバレるわけにはいかなかった。」


「クラン様は、ミント様という方を愛してなさっていたのですね」


「あぁ、そうだよ。協力のためなんてものじゃない、あいつになら俺は殺されたって構わないほどに愛していたさ。自分だけの意志を強く持ち、心までも強い。神の後光というものが見えたのなら、きっと彼女のことなのだろうと思うくらいには。」


「お母様…」


おっと、クミン様の意識が戻りつつある。


「お母様は…何故…病になってしまったのですか…」


「ミントはな、『魔力感作症』なんだ。魔力が体に馴染まずに、その体を日に日に蝕んでいく。空気中にも魔力があるのに、あいつはどこに行っても傷ついてしまう」


アレルギーに似てるな。ということは魔力アレルギーというものなのかな。

この世界では、空気カプセルくらいでしか対処法がないのかもしれない。

※アレルギーという言葉が誕生したのは1906年です。そして原因物質とされている「IgE抗体」が発見されたのは1960年です。


「あいつの両親はどうにかして治そうと頑張ってた。俺も自分の家の図書館も協会にある本という本を読み漁った。だがな、治療法も対処法も何もなかったんだ。その間にミントの家の領土の一角に、【神聖】の過激派の連中が奉仕活動と称して居座るようになった。ミントはオレの話を聞いて、民に危険が及んではと言って、家を出たんだ。」


「お母様は…やりたいことをするって…」


「お前の母親はな、「こんな自分でも誰かを守ってあげる英雄になりたい」と言ってたんだ。アイツは英雄だよ。お前という宝物を守って残して、俺達【神聖】の汚点の証拠までも築かれずに残し切った。」


「ジュニアは…何故…」


「爵位の受け継ぎの日に、お前の母親から手紙が来たんだ。家を出たこととその理由、そして自分の命をもってお前と【神聖】と【農業】の協力を守ってみせると。そして儀式直前に、俺は【神聖】全てをドンに託した。アイツの守った協力と信頼、そしてこれからの【神聖】の誇りにかけて。」


あー、やっちまったな。

宗教にはまった母親かと思っていたけど、まさかはまったフリをしていたなんて。

ちょっと疑ってて悪いなあと思う反面、これ言わなくてよかったと安堵した。


「ドンは俺の幸せを思って何度もミントとの正式な婚姻を結ぼうとしてくれてた。だから察してくれてたんだろう。教会を出てく際に背中と後のことを全部引き受けてくれたさ。『報酬は、勝利』だって、あいつらしい言葉でな。」


「クラン様が今までお猿様…?のお姿でいらしたのは」


「やつらに警戒されないように近づくためでもあり、二人をいざという時に守れるようにだ。俺の特異体質は『初の王』だ。どういうわけだか猿系の動物に体を変化できるっつーものなんだが、猿は賢く力も強い。そして子猿だと躾けていれば脅威は向かない。奴らの警戒心を薄めつつ、調査が出来たってわけだ。そして、アイツの最後を見届けてやれた。これは俺にとってのエゴだったがな。」


「純粋な少女に野生生物が懐くのは自然ですからね」


「純粋は時として利用されやすい。だがよ、嘘もつきにくいんだ。奴らは表面上はよく見せて、裏からじわじわと追い詰めようとしたんだろうさ。ま、俺がいたからこいつは少し男性が怖いってだけで済んだけどな。」


きっと世間知らずにしたのもこの人なんだろうな。

まだ子ども、というのもあるが無垢とは時に洗脳されやすいカモだ。

洗脳しようと過剰に接触すれば、側にいるクラン様が現状証拠を入手できる。

そして軽い洗脳は解きやすい。

クミン様のお母さんの「探せ」というのは、娘の気の弱かった心に目的を作らせるためだったのかもしれないな。

本当のことは知らないけど。


「モカ様と今日会うようにしたのも、貴方からの提案ですね」


「あぁ、そうだ。ドンの養子となったコイツについていった俺は、ドンに今までの経緯と分かったことについて話した。そしてこれを王にも報告すべきものとして、こんな手の込んだことをしたわけよ」


「【神聖】が現在、全体を通して警戒態勢だったからですね」


「普通に公爵からの報告っつったってなったら、野蛮な奴らが何するかもわからない。王の許可なく民への攻撃は罰則だ。報告だけでは簡単に許可はでないだろう。でもまさか、俺のことを簡単に見破ったのが、城にいる大人じゃなくて子どもの護衛だったとはな。まあ何にせよ、俺の使命は果たされた。ここからの選択は、国の代表に任せんぜ。」


そういってクラン様は監視されてるであろう壁に目線を向けた。

さて、王子はどうやってこのことを対処するのだろうか。これについてまでは、私の出る幕ではないな。


__________________________


秋の時間の流れは速いもので、もう一週間も過ぎてしまった。

その間に【神聖】の野蛮人は王の命令の元、拘束と裁判にかけられた。

洗脳されたであろう民や貴族は、現在は【神聖】公爵家の専属の教会で療養と奉仕作業の本当の意味を学んでいるそうだ。

その間、クラン様とクミン様は拘束という名の保護として王宮で過ごしている。

クラン様はその能力をかわれて、このまま王宮で諜報員として役職を与えられたそうだ。


「そういえば、クミン様のお母さんがお腹が大きかったのは何故なんですか?まさか…」


「病人に無体を働く鬼畜なわけないだろ。というより今話すことか?」


今この時間、モカ様とクミン様は共に勉学をしている。

クミン様は呑み込みが早くていろいろな知識を吸収していっている。

モカ様も人に教えることで以前よりも覚えられるようになったと話していた。

護衛として一緒にいるが、モカ様とクミン様の勉強する内容は既にしていてつまらないし、あの二人の空間を壊すのは自分でも許さない。

なので話し相手として、且あの時に聞けなかったことをクラン様に質問しているのだ。


「あのお二人の空間を壊せと?あのほわほわした空間をですか?見てくださいよ、貴方様の愛娘であるクミン様を。モカ様と今までなかった知識の蓄えれる場で溢れんばかりの笑顔ですよ」


「…分かった。話し相手になってやろう…」


この人、かなり親ばかでもあるんだよね。


「『魔力感作症』の症状は人によって異なる。アイツはな、魔力が体内に溜まっちまうんだよ。それも異物として。だから時々、放出させないといけなかったんだ。まあ、それも症状が重くなっていくうちに放出すらできなくなっちまってたけどな」


鼻に蓄膿や膿が出来ているのと同じなのだろうか。

あの時鼻水が出にくいんだよね。かといって出さなかったら悪くなるしで、花粉症って面倒。


「溜まるってどんな感じでですか?」


「何故だか知らんが物質に代わってるんだ。放出するときにアイツから出る魔力ってやつは、色とりどりの魔石だった。それも高濃度で、それぞれの属性の色をしたな。」


「知られてはまずいですね。」


「あぁ、だから俺は出来るだけアイツには外に出ずにいてもらってたさ。教会のシスターとやらはお腹が膨らんでいることで妊娠だと錯覚したようで不幸中の幸いってやつだ。」


「妊娠って男女で交わらないと出来ないのに、女尊男卑の集団は激高しないんですね」


「あいつ等もあいつ等で矛盾を抱えてたんだろ。男は嫌でも子孫を残さないとってさ。」


「阿呆ですね」


「あほで馬鹿だよ。俺も、あいつ等もな」


これからクラン様は父としてクミン様と接するのだろうか。

その答えを聞くのは流石に空気が読めていないだろうと言葉にしなかった。

クミン様の戸籍はまだ養子のままだ。

ドン様が養子としてクミン様とクラン様を迎えたのは貴族としてもあったのだろう。

見ず知らずのただの少女を養うだなんて、世間的に見れば変態かロリコンだからな。

そのまま養子とするのか、戸籍を正規に戻すのかはクミン様にとっても新たな探すものになるだろう。

何方にしろ、もうクミン様は以前のような何も知らない少女ではない。


「そういや、アンタの相棒とやらにはこの話をしたのか?」


「えぇ、しましたよ。」


「まるで情報交換だな。こんな話、楽しいか?」


「結構楽しいものですよ。新しい視点を見つけてくれる時もありますし、なにより自身の体験談としては面白いものでしたから。」


「その相棒とやらに、こんな長ったらしい話をしたとはね。話す嬢ちゃんも、聞いてくれてるそのお坊ちゃんも仲がいいこった。」


「仲が良くていいじゃないですか。それに猿も哺乳類の中でもトップで、仲間意識が高いんですから。」


        以上

内容:猿は思ったよりも賢い

感想と反省:

・『異世界あるある』は適応されやすい

・「いらない知識はない」この言葉は本当だった

・クランとミントから産まれたクミン…名前似てたな

・クラン様の握力は150kgあるらしい

・モカ様に新たなお友達が出来た

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ