誕生
「公爵家次男ディオス・ダルゼンは今日この場をもって、クミン・コングドール公爵令嬢との婚約破棄を宣言する‼」
異世界転生系の物語で王道ともなる逆転劇。
その劇を始めるためのきっかけに婚約破棄は多い。
そもそも貴族の婚約は家同士、それに親の許可や頭首の許可がもらえない限り成立も破棄も出来ない。
そんなことは貴族出身なら尚更分かっていること。
公爵家同士の婚約なら国の王からもその情報は知らている。
なので婚約が成立した以上滅多なことがない限り破棄なんて不利でしかない。
そんなことも考えられないくらいお隣の女性に熱心になるなんて。
恋は盲目というべきか単なる阿呆というべきか。
お隣の女性は何かと噂の『ライド・オーバーグ』男爵令嬢。
噂では女神だとか肯定的なのしか聞かないけど、友達の婚約者にも手を出してたとかで悪い面しか見えない女。
幸い友達の婚約者はそんなものには屈してないし、今も中は良好だ。
でも、まさかその友達の友達の婚約者が毒牙にかかったなんてね。
ちらっと隣を見ると主人と目が合い頷いた。
ゴーサインを受け取った私は主人に一礼してあらかじめ用意しておいた任務を遂行する。
記憶を持った状態での異世界に行く方法は主に二つある。
死んでから異世界に行く転生と生きているままで召喚などで異世界に来る転移。
転移は基本そのままが多いため元の姿が大半だけど、転生は生まれ変わりが主。
前世の記憶が最初から持ていたり、きっかけにより思い出したりと様々ある。
最近は前世でやってたゲームとか読んでいた本の世界とかに転生あるいは転移などがあり、異世界系のジャンルは増え続けている。
自分がもし異世界に行ったらこんなことをするだろうと想像に花を咲かせながら読む人もいるだろう。
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ここはドニーテン王国。
ティメントン大陸で八王国のうちの一つの大国であり、豊かな自然や広大な大地、そして人と魔族の中も良好なまさに理想の地。
先々代の国王であるティワ国王陛下は側近である護衛騎士兼補佐のシャーミット様とともにドニーテン王国付近の魔物を率いる魔王と交渉し現在も魔物との共存が続いている。
その間に行われた協定はのちに挑戦劇として現在にまで語り継がれ、挑戦劇で国王とともに魔王との交渉に行った方々の子孫は公爵の爵位を授かっていた。
私はその公爵のうち、フリーク公爵家の分家であるレリブロー侯爵家の次女として産まれた。
産まれた時から記憶があったからその時は困惑して、周りは産声をあげないと大層大慌てだったそうだ。
その後、イヴという名を貰い受けた。
死んだとは思いたくなくて、でも転移かどうかは怪しいため転生か転移か不明の状態だ。
原因に思い当たる節はおそらく車とぶつかったことだろう。
車のスピードはアクセルを入れた直後のためそこまでで、自身も受け身を取ったため頭から地面にたたきつけられていないため死んだとは考えられない。
衝撃を受ける際に反射神経で目をつむり、目を開けると見知らぬ誰かに抱えられていた。
うん、今思っても困惑するほかないと思う。
生死は不明のままだがくよくよするのはまだ早いと思い、気持ちを切り替えたのが五歳の頃。
気持ちを切り替えた手始めに世界の文字に早くなれようとメイドさんや両親や姉に聞きまくってあらかた文字が読めるようになり、父の書庫で歴史などの書物を片っ端から読んでいき知識をつけていった。
次に母方の祖父母からも稽古をつけてもらい肉体的にも強くなれるように鍛錬を積んだ。
それから三年の時が過ぎ、私は八歳になった。
今の私の目標は『自分がどうなったのか知ること』だ。
そのためにはこの国から出ることも考えて今も鍛錬と勉強は続けている。
この世界の両親は温かく優しくて、元の世界の両親と重ねてしまうほど大好きになった。
姉であるピリカさんはとても綺麗で、元の世界で長女として産まれた私には新鮮な感じだ。
二歳下にホーチマという弟ができたが、こちらも男兄弟が従弟にもいなかった自分には新鮮だった。
こちらの世界での生活は八年を通してみても十分すぎるくらいには充実していて、でも元の世界の未練もたくさんあって複雑な気持ちは募るままだった。
この世界の歴史を見ても今までにやったゲームでも読んだ小説でもないし、何が起こるかわからない。
何かしら起こり元の世界のことを忘れてしまう可能性もある、そう思うと怖くて日記をつけ始めた。
以上
日付:春の刻10
『ちなみにこの世界は90日単位で季節が変わり、季節を一月ひとつきとしている。
そのため春の刻とは何月という意味であり、後の数字は日にちだ。』
内容:日記の書き始め
感想と反省:
次からは日付を最初に書いておこう