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 ルシウスが帰還してから一週間。

 城内ではある話題で持ちきりだった。

 

 ベルナルドだ。


 帝王にヴァルトス国の王族はすべて殺せと言われたにも関わらず、ルシウスはベルナルドを捕虜として連れてきたのだ。

 ルシウスがベルナルドを捕虜とした理由は「興味ある」ただそれだけだった。


 そして今、ベルナルドは城の西側にある半地下牢にいる。


 深夜。


 俺は小さなバックを肩から下げ、外套を羽織りフードを深くかぶると、暗闇の中草木に身を潜めながら西側へ向かった。


 巡回している兵士たちに警戒しながら、俺は屈んで塔の足元にある鉄格子が嵌められた小さな窓から中を覗き込んだ。中は石レンガで出来た六畳程度の広さの部屋に、重たい鉄製の扉が一つ。唯一の明かりはこの窓から差し込む光だけのようだ。


 覗き込んだ牢は空っぽでベルナルドの姿はなかった。


 俺はその隣、またその隣と牢の中を覗いていった。小説では「半地下牢の一つに」としか書かれていなかったため、ベルナルドがどの牢にいるのか分からなかった。


(どこだ……っ)


 焦る気持ちを抑えながら一つ、一つ覗いていく。

 五つ目の牢を覗き込んだ時、右側に置かれた木製のベッドに薄っぺらな敷布団とボロ布のような掛け布団だけの簡素な寝床に横たわる人影が目に入った。


 薄暗い中でもはっきりとわかる銀色の髪。


(……いた)


 銀色の髪は主人公の特徴の一つであり、ヴァルトス国の王族のみが受け継がれる色だ。

 俺はバッグの中から小石を取り出し、そいつに向かって投げた。三回ほど投げるとベルナルドはダルそうに身を起こし俺のほうを見上げてきた。


 僅かな明かりの中に浮かび合ったベルナルドの容姿に俺は思わず目を見開いた。

 十七歳になる彼の肌は傷はあるものの透き通る様に白く、闇夜でも輝きを失わない銀色の髪に海をそのままガラス玉に閉じ込めたような青い目は、彼の繊細で美しい顔をより引き立てていた。


(城内が騒がしくなるはずだ……)


 隣国ヴァルトス国には二つの美しい宝石がある。


 その二つの宝石とは今は亡き皇帝の二人の子ども、ベルナルドと三つ下の妹フィーネのことを示し、二人の存在は貴族の間で度々話題に上がっていた。

 しかし、隣国の王族だから滅多にその姿を見ることは叶わず、ますますその存在の価値は上がった。

 そんな宝石の片割れがここに居るのだ。老若男女関係なく浮き立つわけだ。


(小説ではベルナルドは武力とは無縁の世界で生きてきた人間のように見えたと書かれていたが……)

 

 確かに目の前の青年はそう見える。


(……でもその見た目に反してベルナルドは剣聖と呼ばれる程、優れた剣術を持っていた……)


 だが……。

 ベルナルドがどんなに優れた剣術を持っていたとしても、ルシウスの狂人的な強さに勝つことは出来なかった。


 ふと俺はベルナルドがこっちをじっと見ていることに気付いた。


(てっきり睨まれるかと思ったが……)


 突然現れた不審者の俺を警戒して睨んでくるだろうと思っていたから少しだけ拍子抜けした。


(それともこっちの様子を伺っているのか……)


 と、彼の首に嵌められた真っ黒な首輪が目についた。


(奴隷の首輪……)


 その首輪には魔力封じの他に脱走や主に逆らったり攻撃すると全身に激痛が走る魔法陣が刻まれている。よく見れば黒い首輪の下に小さな赤い石がぶら下がっていた。


(あれは王族のみが使用できるやつだ……)


 あの首輪を外すことが出来るのは王族だけ。もちろん俺も含まれるが、あれを外すのは俺じゃない。


 俺はバックから小石を括り付けた薬草を取り出し、鉄格子から手を突っ込んでベルナルドに向かってそれを投げた。

 ミントに似たその薬草は痛み止めだ。

 どこにでも自生し日陰でも良く育つ。荒れた庭で偶然見つけたそれを建物の裏で栽培していた。

 この薬草の利点は生のまま食べても十分効果があるということだ。

 投げた薬草はベルナルドの寝床に上手く落ちてくれた。

 この薬草は戦場でも重宝されているからベルナルドも知っているはずだ。本来ベルナルドには不必要な代物だが、魔力を封じられている今、その薬草が必要になるだろう。


(簡単には口にしないだろうが……)


 誰とも知れない奴から渡されたものをそう簡単に口にいれるバカはいない。

 そんなこと重々承知の上だ。


「食え」


 俺はそれだけを言ってその場を逃げるように去った。


 真っ暗な部屋に戻ってきた俺はその場にずるずるとしゃがみ込んだ。

 心臓がバクバクと跳ね上がり、手足が震えていた。


 巡回している兵士たちにいつ見つかるのではないかという焦りと、ベルナルドが小説通り半地下牢にいるのかどうかという恐怖があった。


(小説通りで良かった……)


 俺は震えてる手を握りしめ、安堵の息を吐き出した。

 なぜならこの城には小説にはなかった外部と接触不可能な地下牢や、離れた場所にある塔の牢屋が存在していたのだ。そのどちらかにベルナルドが収容されてしまったら、今の様に密かに会いにいくことは出来なかっただろう。


(そうなれば、俺の願いは……叶わない)


 俺は膝を抱え縮こまった。

 ふいにベルナルドの青い目が脳裏に浮かんだ。


(本当に海のようだった……)


 俺はそっと目を閉じる。

 脳裏に懐かしい青い海が広がった……。



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