#087
それからアンは、ソウルミューと別れて別室で休むことにする。
移動中の廊下を歩いているときに、別の大広間から女性の声が聞こえてきていた。
けして、大きくはないが芯のある通る声だ。
「これから新兵器の訓練をします。各自ブレシング中尉の指示に従って、怪我のないようにしてください」
それはエヌエーの声だった。
どうやらメディスンの部隊――ファルコンヘッドの兵たちが到着し、これからソウルミューが開発した新兵器――ゴーストファイアの訓練をしているようだ。
アンが覗く部屋の中には、連合国軍の深い緑色の軍服姿の兵たちが並んでいて、さらにエヌエーやブレシング、バテリアなども見えた。
「みんな喜べッ! 一番うまく乗りこなした人には、このあたしが熱いハグしてやる!」
バテリアが兵たちのそう叫ぶと、皆の顔が青ざめていた。
「女日照りの軍人には何よりも嬉しいでしょ? さあ、とっても素晴らしいご褒美が待っていることだし、みんな頑張ってね!」
だがバテリアには、その様子がわからないのか。
兵たちに発破をかけ続けていた。
そんな彼女の姿を見て、ブレシングは顔を引きつらせながらボソッと呟く。
「みんなのやる気をそいでどうするんだよ……」
「うん? 今なんか言った?」
「いや、バテリアはいつも他人に気を遣うなぁ、と思ってさ(方向性は間違っているけど……)」
ブレシングが本音を押し殺してそう言うと、バテリアが顔を赤らめて笑い始める。
「もうっ、やめてそういうこと言うの。改めて言われると照れちゃうでしょ」
両手で顔を覆って恥ずかしがるバテリア。
ブレシングは、そんな彼女に向かって顔を引きつらせて笑い返していた。
「まあ、みんなが喜んでくれるなら、あたしはなんだってやっちゃうよ。でもエッチなのはダメ。ハグはオッケーだけどね」
「ハハハ……。勘違いも、そこまでいくと清々しいなぁ……」
ハグという名の関節技――。
バテリアからすれば愛情表現なのだろう。
ブレシングは、彼女と付き合いが長いためそのことを知っている。
そして、ファルコンヘッドの兵たちもそのことはわかっていた。
しかし、バテリアが少しでも張り合いを持たそうとして、彼女なりに気を遣っているのはわかるのだが。
誰も喜んではいない。
アンはそんなファルコンヘッドの様子をしばらく見ると、再び廊下を歩き出した。
その無表情で何を考えているのか。
先ほどよりも少し、彼女の顔に憂いが帯びているように見えた。
それからしばらく廊下を進み、休憩する部屋の扉をアンが開けるとそこには――。
「お疲れ様、テストは終わったんだな?」
ファルコンヘッドの指揮官――メディスン·オーガニックが待っていた。




