#085
「はぁ……酷い目に遭った……」
技を解かれたブレシングが痛む身体をほぐしていると、バテリアが言う。
「だからさっきみたいな状態ときはさ。あぁッ! おっぱいがッ! おっぱいが当たって~! みたいな感じでデレデレすれば、あたしも止めざる得なくなるよ」
「無理だから。あんな身体を捻じ曲げられたら性欲なんて湧かないから。というか、女の子がおっぱいとか言うなよ」
「それって男女差別じゃない? いいじゃない、女がおっぱいおっぱいって言ったってさ」
「差別のつもりはない。というか、さりげなくまたおっぱい言うな」
「もっと言ってやる! おっぱいおっぱいおっぱいッ!」
ブレシングとバテリアがそんな話をしていると、エヌエーがパンッと自分の両手の掌を合わせた。
「はいはい。さっきも言ったでしょう? 二人とも乳繰り合うにはその辺にしてよ。って、乳繰り合うと、あなたたちが話していたおっぱいネタをかけてみたんだけど? どうでしょう?」
「そんなことを得意げに言われても……」
呆れるブレシングの隣ではバテリアがガハハと大笑いしていた。
それからエヌエーは、二人に声をかけて部屋を出た。
どうやらこれから、ブレシングがテストした連合国軍の新兵器――ゴーストファイアをファルコンヘッドの兵たちに試させるようだ。
ゴーストファイアとは円盤状の全翼機――。
胴体部や尾翼がなく、一枚の主翼のみによって機体全体が構成された飛行機の外観をしている無人の乗り物。
地上で空を移動するためと、飛行装置であるジェットパックの推進剤を節約し、その行動半径を広げる役割を担うためにソウルミューが提案した。
武器などは付いていないが、宇宙空間でも使用可能なものだ。
このゴーストファイアは、ソウルミューがエレクトロハーモニー社時代に開発したジグソーポットという、原動機付自転車のような感覚できる小型の航空機から発展させたものらしい。
原理としては、ゴーストファイアのコンピューターに登録した者を、反重力装置の応用で引き付けてあるだけ。
乗降や前進、後退、旋回などは主に足で操作でき、余程の衝撃を受けなければ振り落とされることはない。
「ねぇ、ブレシング。テスト自体はどうだったの? まあ、あたしらのとこに来るくらいだから、もちろん使えるだろうけどさ」
「あぁ、小回りも利くし、バテリアやエヌエーさんなら問題なく扱える思うけど」
「う~ん、あんたにそう言われてもなぁ……」
「なんだよそれ?」
「だってあんたってさ。なんだかんだ言ってもできる奴だから、か弱いあたしのような女の子からすると不安だらけだよ」
「聞き間違いか? 今か弱いって聞こえたけど。うぐッ!?」
ブレシングに訊ねられたバテリアは、彼の頭を抱え込み、こめかみを締め上げる。
プロレスの基本技の一つヘッドロックだ。
ジリジリと力込めながら、バテリアがブレシングの耳元で低い声を出す。
「あたしは……か弱い女の子だよね? ねえ、そうでしょう、ブレシング?」
「わかったから! か弱い女の子でいいから放してくれッ!」
「やっつけで適当に言ったな。あとこの状況ならおっぱいが~! って言えって、さっき教えたでしょ?」
「うぎゃぁぁぁッ!」
再びじゃれ合い始めた二人を一瞥し、前を歩いていたエヌエーが微笑む。
(アンから落ち込んでいる聞いていたけど……。バテリアのおかげで元気になったみたいね)
そんなエヌエーの背中にブレシングが叫ぶ。
「エヌエーさん、バテリアを止めてくださいよ! このままじゃ戦う前に病院送りにされるッ!」
「大丈夫大丈夫。ブレシングは頑丈だから大丈夫」
「頑丈って、うぎゃぁぁぁッ!」
そのまま歩いて行くエヌエー。
研究所の廊下には、バテリアに締め上げられるブレシングの悲鳴が響き渡っていた。




