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第5話 友人が作ったゲーム

 会社から戦力外通告を受けた後、求司は残っていた有給休暇を使い切る形で、本来の最終出勤日よりも早く会社を離れることを決意した。


 出社する最後の日。彼が引継ぎを完全に済ませた後、静かに仕事場を後にし、入口で会社の敷地内に入るためのIDカードを返却した。

 そして、警備の人にあいさつをした後、夜の道を駅へと歩き出した。

(終わった…。とうとう終わった…。これでもうこの会社で苦しい思いをしなくて済む…。とにかく今はとても仕事のことなんて考えられない…。ゆっくり休もう…。誰に何て言われても、まずはゆっくり休もう…。)

 すでに精根尽き果てていた彼は、今後のことに関する不安よりも、苦しみから解放されたことでほっとしていた。


 駅にたどり着いた後、彼はスマートフォンを取り出して、ゲームのキャラクターであるマドリガルのイラスト画像を出した。

 そして電車に乗り込んだ後も、彼女のイラストをじっと眺め続けていた。

(そうだ…。気持ちが落ち着いたら、このゲームをやろう。そうすれば、彼女に会える。ゲームの主人公であるルウを通じて彼女と一緒にいられる…。)

 彼はそう思い立った後、昔やり込んだゲームを再度プレイすることを決意した。


 翌日。求司はまだ疲れこそ取れていないものの、とりあえず気持ちが落ち着いたため、本やゲームのリサイクルショップに向かうことにした。

 そして買い物を済ませた後、アパートに向かっていった。


 彼がプレイを始めて1時間後。いよいよ4人目の仲間であるマドリガルが加入した。

(よし。これから彼女を大切に扱っていこう。ちまたでは弱いとか、役立たずとか色々言われているけれど、人気は高いし、うまく育てればきっと戦力になる。僕はどんなことがあっても彼女を我慢して起用する。)

 そう思いながら気合を入れると、ふと着信が入った。

(誰だろう?)

 彼がそう思いながらポケットからスマートフォンを取り出し、相手を確認すると、そこに表示されていたのは「蕨 丈二」(わらび じょうじ)という名前だった。

 この人は求司の友人であるだけに、迷わず出ることにした。

「もしもし、ジョー?」

『おお、キュージか。元気か?』

「……。」

『どうした?』

「実は…。」

 求司は重い口調で失業してしまったことを打ち明けた。

『それで、これからどうするつもりなんだ?』

「分からない…。とにかく今はゲームをして気を紛らわしたい。それしか考えられないんだ…。」

『なるほど。大変だな。』

「うん…。」

『それで、どんなゲームをやるつもりなんだ?』

 丈二の質問を受けて、求司は昔彼と一緒にやったゲームをもう一度やろうとしていることを話した。

『おおっ!それか!偶然だな!』

「偶然って?」

『実は、自宅でそのゲームのリメイクを作っているところなんだ!』

「えっ?ジョーが自分で?」

『ああ。まだ未完成だけれど、良かったら見に来るかい?』

「いいの?機密情報じゃないよね?」

『その点は大丈夫。まあ僕としては自分だけで作るよりも、他の人からの情報もあった方がいいと思ったんだ。だから、ぜひ見に来てくれ。時間ならあるだろ?』

「ま、まあ。失業しちゃったから、時間だけはね。」

『じゃあ、決まり!』

「うん。それなら今からそっちに行くよ。20分もあれば着けると思うから。」

『分かった。待っているぜ!』

 丈二がウキウキ気分で答えた後、電話が切れた。

 一方、それまで誰にも会う気になれず、放心状態だった求司は会ってくれる人が名乗り出てくれたことに喜びを感じ、ゲームをセーブした後、電源を切り、友人の家に向かっていった。


「よお、キュージ!おひさだな!」

「うん、おひさ…。」

「まだショックが癒えていないようだな。」

「うん…。」

「まあ、とにかく人生いい時ばかりじゃないからな。とにかく、今から開発中のゲームを見せてやるよ。」

「頼む。でもその前に何か飲み物ある?」

「おっと、そうだったな。冷蔵庫に缶コーヒーがあるから、飲んでいいよ。」

「ありがとう。」

 求司はそう答えると、台所に向かっていった。


 コーヒーを飲み終えた後、彼は丈二の部屋にやってきた。

 すでに丈二はパソコンでゲームを立ち上げており、自分でプレイをしていた。

「あっ、今その敵なんだ。」

「ああ。確かこいつ、手強い奴だったよな。」

「うん。〇〇が倒せないの替え歌作りたくなるくらい強かった。」

「というわけで、個人的にはこの敵の強さをどうするかが課題なんだ。」

「確かにね。原作で場違いな強さだったとはいえ、はい分かりましたとばかりに弱体化させたら、それはそれで文句言われるからね。」

「そうなんだ。だから、ここでのバランス調整で時間がかかりそうなんだけれどね。」

 丈二は会話をしながら、ルウ、バンビーノ、アリア、カブキをスタメン起用して戦闘を繰り広げていた。

 相手はボスということもあって、強さはなかなかのものだった。

 しかも仲間を呼んで数を増やしてきたため、ルウ達の受けるダメージはさらに多くなった。

 するとここでカブキをさげてカノンを登場させ、回復を重視する戦法に切り替えた。

(あれ?確かここでの敵はマドリガルのハイボム(※ドラクエのイオラみたいなものです。)が有効なはずなのに。)

 求司はボスを含めた敵の弱点をよく知っているだけに、丈二のやり方に疑問を感じていた。


 戦闘は持久戦になっていき、かなりの苦戦を強いられたものの、どうにか撃破に成功した。

「ふう…。やっと勝てた…。面倒な敵だったな。」

 丈二は疲れた表情をしながら大きく息をした。

「この敵は守備力が高いから、マドリガルの魔法無しだときついでしょ?」

「まあ、そうなんだけれど、彼女は弱いからな。」

「いくら弱いって言っても、ないがしろにしなくたっていいのに。」

「ぶっちゃけ言うと、彼女にはまともなアイテムを装備させていないからな。完全に控え要員だ。」

「何だよ!彼女がかわいそうじゃないか!それに以前、ジョーがアップしたプレイ動画を見た時でもそんな感じだったしさ。」

「ゲームなんだからそんなの関係ないだろ。彼女に感情があるわけじゃないんだしさ。」

「そうは言っても…。」

 納得がいかない求司はさらに何か言おうとしたが、丈二は表情一つ変えようとしなかっため、言葉に詰まってしまった。

「とにかく彼女は移動中で使うと壁を壊せるハイボムの魔法があればそれで十分だ。そうすれば彼女の装備品に使うお金が浮くから、かえって都合がいいってもんよ。」

「そうか…。」

 求司はもはや何か言う気も失せてしまった。

「それじゃ、このボス敵を倒した後は、しばらく会話シーンになるから、僕は少し休憩を取ってコーヒーでも飲むことにするよ。キュージはしばらくその様子でも見ていてくれ。」

「分かった。ジョー。」

「じゃあ、操作出来るようになったら教えてくれ。くれぐれも電源をオフにだけはしないでくれよ。」

「うん。」

 求司が返事をすると、丈二は両手を上にあげて背伸びをした。

 そして、一呼吸ついた後、部屋を後にしていった。


(マドリガル…。かわいそうに…。僕の友人のジョーのせいでこんな扱いをされて…。もし僕がプレイをすれば、我慢してでも君を積極的にスタメンで起用するし、ステータス強化のアイテムがあれば積極的に君に使わせるのに…。)

 求司は会話シーンの中で、彼女をじっと見つめていた。

 一方、ルウ達は重要なアイテムを手に入れた後、マドリガルが使えるテレポートの魔法で地上に出てきた。

 彼女はさらにテレポートの魔法を使い、今度は目的の町へと移動していった。

(なるほど。ここではテレポートが地上だけでなく、ダンジョンでも使えるのか。つまり、ドラクエで言うならリレミトとルーラが統合されたような感じなんだな。)

 オリジナルではダンジョンから脱出する魔法がエスケープで、テレポートは地上でしか使えなかっただけに、この変更点は使えそうな気がしていた。

 一方、町にやってきたルウ達は、住民から大歓迎を受けていた。

 パーティーの主力として戦い、ボス戦で最も多くのダメージを与えてきたバンビーノは、満面の笑みでそれに応えていた。

 カノンとカブキも笑顔を見せる中、アリアは忍者ということもあるのか、それとも単に照れ屋なのか、無言のまま距離を置いていた。

 一方、ルウは無言でうつむきながら歩くマドリガルが気になるのか、彼女をしきりに見つめていた。


 そして彼らは町の人達に食事を提供してもらった後、宿屋に泊まることにした。

 その場所で起きた出来事は…。



名前の由来

蕨 丈二 … 蕨は以前登場した「阿井」に対抗して、五十音順で後ろに来る名前からこれを選びました。

 そして、丈二は英語でも通じる名前を考えた結果、これにしました。

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