第1話 ゲーム世界のキャラクター達
ここは現在開発中のゲームの世界。
この作品は今から10年以上前に発売されたRPGが元になっており、現在、あるゲームクリエイターの手によって独自のリメイクが行われていた。
ゲームの主な登場人物は主人公であり、勇者のルウ。彼の親友で、戦士のバンビーノ。薬剤師という肩書を持ち、回復役的な立ち位置のカノン。魔法使いとして数々の魔法を使いこなすマドリガル。忍者であり、盗賊的な立ち位置のアリア。そして手品や催眠術などの芸を得意とするカブキの6人であった。
(うち、女性はマドリガルとアリアの2人。)
このリメイクが作られるにあたって、細かなバランス調整や新規のアイテム、新規の敵キャラや謎解きなどが追加され、慎重にシナリオを練り直されていた。
このゲームの世界では以前からいくつもの事件が巻き起こっていた。
さらに、あちこちで争いが繰り広げられており、人々は不安を抱えながら過ごしていた。
ゲーム開始時の町であるビダ(Vida)に住んでいる勇者のルウは、これらの出来事を解決するべく、みんなの期待を受けながら旅に出ることを決意した。
彼は様々なステータスのバランスが取れている上に魔法も多少は使用出来、攻撃役も回復役も担当出来るキャラだった。
ルウは旅立ちの際、(一人で旅をするのは危険だ。ここは彼に声をかけてみよう。)と考え、幼なじみのバンビーノを誘ってみることにした。
彼は典型的な戦士系のステータスを持っており、MPが終始0で素早さも低かったが、HPと攻撃力、守備力の高さが半端ないため、多少のダメージではビクともせず、積極的に前線で戦っていけるキャラだった。
「よお、ルウ。今日はお前の誕生日だったよな。」
「そうなんだ。それで、この日に旅に出ることにしていたんだ。」
「それは以前から聞いていたぜ。そのために色々体を鍛えていたからな。」
「うん。でも、いざ旅立つとなると、不安でいっぱいなんだけれどね。」
「だったらよ、その仲間に俺も加えてくれよ。」
「本当にいいの?」
「ああ。力になるぜ。一人じゃ不安だろうしな。」
「ありがとう!ビーノ!」
こうしてルウはバンビーノを仲間に加え、2人は貯金をはたいて装備やアイテムを整えた後、いよいよビダの町を出発していった。
草原ではまず盗賊の男女2人に出会った。
ルウとバンビーノは分が悪いと判断して逃げようとしたが、回り込まれてしまい、HP回復用の傷薬を盗まれてしまった。
ルウ「すみません!それ、返してください!」
女性盗賊「やだね!あたい達はこうやって生活をしているんだから。」
男性盗賊「悔しかったら取り返してみな!」
バンビーノ「分かった。だったら取り返してやるぜ!後悔するなよ!」
こうして初めての戦闘が始まった。
男性はルウに先制攻撃で通常攻撃を浴びせ、女性はルウの武器を叩き落としてしまい、攻撃力を下げてきた。
「しまった!隙を見せた!」
一瞬あせった彼だったが、バンビーノが彼女に力任せの一撃を浴びせた。
「ありがとう。ビーノ。」
「なあに。俺達は仲間だからよ。困った時は助けになるぜ。」
バンビーノのおかげで気持ちに弾みがついたルウは武器を拾い直すと、男性のすねに一撃をくらわせた。
そして2人はダメージを受けながらも戦いを有利に進め、ついに勝利を収めた。
男性「ひいっ!まいった!」
女性「どうかお助けを!」
降参した盗賊達は盗んだ傷薬に加えて少しばかりのお金を差し出すと、一目散に逃げていった。
「やったね、ビーノ。初めての実戦だったけれど、何とか勝てたね。」
「ああ。だが、戦いの度に傷ついていたらそのうち体が持たねえだろうな。」
「確かにそうだね。そのためにはもっと強くならないと。」
「それに回復に特化した人が欲しいよな。」
「うん。」
2人は傷薬を塗りながら、この旅が厳しいものになることを予感していた。
彼らはある程度経験を積んだ後でビダに戻り、宿に泊まった。
翌日。ルウとバンビーノは町で作物の収穫やまき割りの仕事を頼まれ、それによってある程度のお金をもらった。
こうして戦闘や仕事を繰り返すうちにレベルも上がり、ルウは少しではあるが魔法でHPを回復する手段を身に付けた。
そしてお金を集めて新たな装備を手に入れると、今度は戦闘を避けながら一目散に次の目的地へと向かっていった。
2人は次に訪れた村で、野草や木の実を調合して作り出した薬を取り扱っている少年に出会った。
ルウ「その薬にはどんな効果があるんですか?」
「これはHPを回復させる効果、こっちは毒を治す薬です。」
バンビーノ「それは役に立ちそうだな。こういう人が仲間にいると心強いんだけどな。」
「仲間ってどういうことですか?」
少年が問いかけると、ルウとバンビーノは自分達がこの世界で起きていることを解決するために旅立ったこと。
そして2人ではまだ心もとないため、一緒に行動をしてくれる仲間を探していることを打ち明けた。
「それなら私も仲間に加えてください。きっと回復役として役に立つと思いますよ。」
ルウ「えっ?本当にいいの?」
「はい。私もその事件解決のために何かしたいと思っていましたから。」
バンビーノ「それは助かるぜ。」
「では、よろしくお願いします。私の名前はカノンと申します。」
「僕はルウ。よろしく。」
「俺はバンビーノだぜ。」
こうして3人目の仲間であるカノンを加えた一行は、悪党や農地などを荒らす野生動物、そしてモンスターを退治したり、改心させたりしながら旅をしていた。
その途中、カノンは役に立ちそうな野草や木の実を見つけた。
バンビーノ「それが何の役に立つんだ?」
「この野草からHP回復の傷薬を、この実から毒消しを調合出来ます。」
ルウ「へえ、便利なんだね。」
「はい。でも、調合するには村に戻らなければなりませんけれどね。」
カノンは少し苦笑いを浮かべながら色々な物を集めて、袋に入れていった。
その後、とある町での事件を解決し、先の場所に行くための許可をもらうと、ルウ、バンビーノ、カノンは洞くつを通り抜けて岩山の向こうの場所に出てきた。
すると、そこには一人の少女が今にも倒れそうな足取りでよろよろと歩いていた。
「ねえ、君はどうしてそこにいるの?」
「ほとんど行き倒れじゃねえか。大丈夫か?」
「私が薬を与えてあげましょう。」
ルウ、バンビーノ、カノンが声をかけると、その少女は何かを言いだしたが、弱々しい口調だったため、何を言っているのか分からなかった。
そこで彼らは持っていた食料と水を彼女に与え、薬と回復魔法で治療を施した。
その結果、やっと少女はまともに声が出るようになったため、会話が成り立つようになった。
彼女の名前はマドリガルで、話によると行方不明になってしまった弟を探していた。
しかし、お金も食料も尽きてしまい、このままでは行き倒れになってしまう状況だったため、ルウ達は彼女を仲間に加えることにした。
「みなさん…、ありがとうございます…。あたしも…頑張ります…。」
「こちらこそ。一緒に頑張っていきましょう。」
「絶対に弟にも会わせてやるぜ。」
「でも、今日は一旦宿でゆっくりと休みましょう。」
ルウとバンビーノが張り切る一方、カノンが一旦引き返すことを提案したため、4人は洞くつの中に入っていった。
町に戻るまでの間、彼らは何度か敵と戦闘になり、ルウとバンビーノは攻撃力に物を言わせて相手をなぎ倒し、カノンは攻撃をしながら回復役も担当した。
仲間に加わったばかりのマドリガルは魔法使いとしての能力を秘めており、フレイムという魔法を唱え、指先から炎の玉を出して攻撃をした。
最初は相手を圧倒していた4人だったが、途中でカノンの手持ちのアイテムが尽きてしまい、ルウのMPもあっという間に無くなったため、回復手段が無くなってしまった。
さらにマドリガルはHP、攻撃力、守備力が低い上にフレイムを連発したため、頼みの綱であるMPまでも尽きてしまった。
こうなると彼女は空気のような存在になってしまい、さらには敵の攻撃を受けてあっという間に倒されてしまった。
そのため、ルウは彼女を背負いながら歩いていくことになった。
(全くよ。あの女、本当に弱いな。)
(大変な人を仲間にしてしまいましたね。)
バンビーノとカノンはヒソヒソ声で彼女をディスる発言をしていた。
その声はルウとマドリガルには聞こえていなかったが、バンビーノがこちらを横目で見ながらチッと言い放ってきた。
マドリガルはそれを聞いて肩を落とし、しゅんと落ち込んでしまった。
「ルウさん、迷惑をかけてごめんなさい。」
「気にしなくていいよ。僕は君の味方だから。」
「でもあたし…。」
ルウに小声で励まされても、彼女の気持ちは前向きにならなかった。
洞くつの外に出ると、カノンは相手よけのアイテムを使用して戦闘を避けながら町に向かって歩いていった。
そしてあちこちケガをした上に疲労困ぱいの状態になりながら町にたどり着いた4人は、真っ先に宿屋に向かっていき、チェックインをすることにした。
「とりあえず、持っているお金で新たなものを買えそうだね。」
「ああ。だが、しばらく先の場所には進まない方が良さそうだな。」
ルウとバンビーノはお金を払った後、しばらくの間この町周辺で稼ぎに専念することにした。
「私は明日、薬草や木の実を採取しにいくことにします。」
カノンは一旦別行動をして、新たな回復アイテムを確保することにした。
「あたしは、どうすればいいの…?」
「君は、しばらく休んでいてよ。」
「えっ?でも…。」
「君はまだ体力が戻っていないからさ、まずはしっかり治してよ。」
「でも…、それだと…、宿のお金もかかるし…、みんなに迷惑かけちゃうし…。」
ルウは笑顔でマドリガルを励ましたが、彼女はその優しさを申し訳なく思っている様子だった。
翌日。ルウとバンビーノの2人はお金を稼ぐために仕事を探しに行き、カノンは一人で町を後にしていった。
一方、一人分の追加料金を払った上で宿に残ったマドリガルは悔しさと闘いながらベッドに横たわり、自分でマッサージをしていた。
その後。ルウとバンビーノは依頼された仕事をいくつもこなしてお金を稼ぎ、カノンは一旦薬を調合したいと主張したため、一旦自分の村に戻ることを提案した。
そしてようやく元気な体になったマドリガルは正式に宿をチェックアウトして、仲間に合流した。
4人は薬をいくつか手に入れた後、お金をはたいて装備を整えることにしたが、マドリガルはその時点で装備出来る武器がほとんどなく、旅立ちの時に手渡された杖と魔女の服と帽子を身に付けたままだった。
また、鎧も盾もかぶとも身に付けられないため、ほとんど装備を更新出来ず、攻撃力も守備力も低いままだった。
(あたし、こんな状態で本当に大丈夫なのかしら…。頼みの綱である魔法で攻撃をしてもバンビーノさんどころか、ルウさんの通常攻撃よりも威力が低いし、ましてそのMPが無くなったら何も出来なくなってしまうし…。またみんなの足を引っ張ったらどうしよう…。)
彼女は体の傷こそ治ったものの、心の中では大きな不安を抱えたままだった。
名前の由来
・ルウ(LOU):メジャーリーグのニューヨーク・ヤンキースに所属したルー・ゲーリッグ選手です。
以前、別サイトで発表した作品でマリアノ・リベラ投手からリベラというキャラ名をつけたことを受けて、ここでもヤンキースの選手名を使用しました。
なお、ルーでは芸能人の芸名と同じになるため、標記をルウにしました。
・バンビーノ(BAMBINO):同じくニューヨーク・ヤンキースに所属したベーブ・ルース選手のニックネームです。
ゲーリッグ選手の名前を採用したことを受けて、この人の名前も採用することにしました。
・カノン(QUANON):パッフェルベルのカノンという曲から命名しました。
僕の好きなクラシックの曲の一つです。
なお、本来、カノンの頭文字はCですが、それだと企業の宣伝になってしまうため、つづりを変えました。
・マドリガル(MADRIGAL):南野陽子の曲「風のマドリガル」から命名しました。
2013年に中日ドラゴンズにワーナー・マドリガル投手が所属していた時、カラオケで友達にこの曲を披露してかなりウケたのを思い出したので、この度ヒロインの名前として採用しました。
・ビダ:スペイン語で「人生」という意味です。
この作品のタイトルにちなんで命名しました。
(※アリアとカブキは後程。)