目をつむる 09
以前にエドワードの相談に乗っていたマリア・マシガレンは、街では有名な清掃ギルドの長だった。
マリアは転生前の経験から、冒険者ギルドに所属する者の中にも戦闘に特化していない者が居ることを知っていた。
転生者とはいえ、一時はエドワードと共に冒険者ギルドに所属し、パーティとして上位ランクに名を連ねたこともある。だが、エドワードが商業ギルドを創立すると言って抜けることになったのでチームは解散し、転生前から考えていた清掃ギルドを創立した。
清掃ギルドの表立った活動は派遣タイプの清掃員。これなら、街に溢れている孤児でも出来るので、3回の研修で音を上げなければ雇用する。その他に、料理や裁縫が出来る者は依頼主から言われたらやっても構わない。技術によっては依頼主から追加料金を支払ってもらい、本人に還元する。
ただ、孤児は自ら清掃ギルドに来られる者ばかりではないので、マリア自身が教会や孤児院に足を運ぶこともあった。
「こんにちは」
「あ! マリアだ!」
まだギルドに所属できない12歳以下の子供たちがマリアの元にやってくる。ここの教会には半年前にも来たが、その時はまだ13歳になっている子がいなかったので、清掃ギルドの説明をしただけで終わってしまっていた。
「お久しぶり。覚えていてくれたのね、嬉しいわ」
「そりゃぁ、マリア、カッケーもん!」
「キカイ(?)の体って、かっこいい!」
全身金属・金色で成金のようなイメージのエドワードと違い、マリアは白銀で騎士団長の鎧に似ていた。
最初はすれ違うたびに間違われていたが、清掃ギルド所属の証明でもあるエプロンを装着してからは、ちゃんとマリアとして認識されている。子供たちにとって冒険者は憧れなので、そういう意味でも覚えてくれていたらしい。
「シスターはどちらに?」
「「あー……」」
目線を泳がせた男子たちに代わり、やってきた中で唯一の女子が答える。
「お仕置き、してる」
「お仕置き?」
「うん。13歳の、新人。注意しても、やめない子」
「んー。その子、何をしちゃったの?」
「大事な、赤ちゃん用のミルク、飲んじゃうの」
マリアは驚きつつも納得した。
この国の孤児は、教会か孤児院で保護される。その教会か孤児院は国から食品を援助されている。
とは言っても援助されるのは小麦粉と塩くらいなので、足りない分は貴族の寄付と近隣の御裾分けで賄っていた。
ここの教会は、近隣に心優しい牧場経営者がいる影響から、まだ出荷基準に満たない若い牛のミルクを御裾分けしてもらえていた。他の場所ではミルクは手に入らないどころか、貴族でも簡単には飲めない高級品。だからミルクが必要な孤児の赤子はここに集結していた。
しかし、逆に赤子が多過ぎるため、シスターだけではなく子供たちも赤子の世話を担っていた。
ミルクは高級品だが、赤子には優先して飲ませないと死んでしまう。
ミルクが余ったら、シスターが貴重な砂糖を使ってクッキーを焼いてくれる。
ここで育った子供たちはご褒美のそれを知っていたのでミルクを横取りしなかったが、13歳でここに来た新人の子は知らなかったのだろう。
もしくは、取り潰しになった元貴族の、我儘に育った子か。
どちらにしても、注意しても止めないならば、ここに居るのは問題かもしれない。
マリアが引き抜きも検討をしていると、
「おい、出て来たぞ」
そのお仕置きが終わったのか、1人の少女が小屋から逃げるようにマリアの方へと走ってくる。
余程必死だったのだろう。前を向いてもいなかったのでゴンッと良い音を立ててマリアにぶつかった。
鎧のマリアは痛くも痒くもないが、少女は余りの痛さに頭を押さえ、屈みこむ。
「(ん?)」
マリアが少女を軽く鑑定すれば、年齢は13歳ではなく15歳。どこの孤児院でも14歳までには斡旋先に出されることからも、無職になった、又は逃亡したので年齢を詐称して戻ってきた口らしい。
昔から、こういう詐欺行為をする孤児は一定数いた。理由は明白で、世話役として戻れば当然仕事をすることになるから。
だが、ここのシスターは確か貴重な魔道具『鑑定眼鏡』を持っていたはず。それも、マリアの鑑定では名前と年齢くらいしか見られないが、シスターの眼鏡の方が高性能だったはず。ということは、恐らくシスターは知っていて更生させるために受け入れたのかもしれない。
目線を少女に合わせたマリアは、少女の肩に優しく右手を置いた。少女は顔を上げ、マリアを睨みつけている。
「詐欺は犯罪だよ?」
そのマリアの一言に少女は目を丸くした。
「今なら間にあ……っ」
マリアは優しく諭そうとしたが、恐怖に感じた少女はマリアを突き飛ばす。
ただ軽く屈んでいただけなので、マリアは尻もちをついてしまった。
その間に、少女はそのまま走り去ってしまう。




