鼻を明かす 15
独りにされたイザークは、見えている御飯が食べ物ではないことに気付いていた。
元々、龍族は5日間くらい食事を抜いても、休息さえとれれば支障はない。
優しそうな家主に事情を説明し、庭にあった小屋でひと眠りさせてもらえた。
そのおかげで、無事に精霊祭の当日を迎えることが出来ていた。
―― あの日、一体何が起きたのか。
しかし、道行く人々から御飯を勧められる。
中には無理矢理、口に突っ込もうとしてくる輩もいた。
途中からは、まるでイザークは犯罪者のように追われるようになり、後ろから笑顔の人々が御飯を片手に迫ってくるものだから、街を見る余裕など無くなっていた。
結局、屋根の上へと避難し、その集団から身を隠すように屋根の死角へと身を潜める。
何十分、否、何時間が経っただろうか。
不意に腕を叩かれた気がして視線を向ければ、大精霊マイカが不貞腐れた様子で座っていた。
そのマイカが手を伸ばし、緑が多い方向を指す。
「会いたかったわぁ、私のトワ」
森の中から出てきた少女が不気味な笑顔でそう言った。
そして後ろ手に隠し持っていた包丁を両手で握り、
見送ることしか出来ないウルの、すぐわきを通り抜け、
椅子に座らせられていた幼女の、目前まで一気に迫り、
その包丁で胴体を一突きした。
「きらいっ!」
「きらいっ!!」
「きらいっ!!!」
少女が罵声を浴びせるたび、
包丁は抜かれ刺され、
幼女は次第にぐったりしていく。
「貴方なんて嫌いよ!!
貴方が私の傍を離れている間、酷い目にあったのよ?!
自分で着替えろとか、自分で食べろとか、自力で風呂場に行けとか!!
視力が無いのにどうやってやれって言うのよ?!」
幼女が血を大量に流しながら頭を垂らす。
「いまさら謝ったって許さないわよ!!」
木の上から見ていたイザークは、あまりの出来事に愕然としていた。
だが、次の瞬間。
その出来事を隠すかの如く、黒い絵の具のようなドロドロした何かがイザークを襲った。
水で薄まってもいないドロドロは、イザークの口や鼻ですら埋めてしまい、呼吸が出来なくなってしまう。
苦しい!
苦しい!!
しかし、イザークが藻掻けば藻掻くほど苦しくなる一方で。
やがてイザークは意識を手放した。




