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とわのゆりかご  作者: 葉月雷音
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目をつむる 08

 ドラグ国王は、未だに勇者を無事に召喚できたことを貴族にも話せていなかった。


 勇者の称号を持つ者は、各国から1人だけ、守護天使に選ばれて現れる、と伝わっていた。

 他国では、生まれた王族の赤子が持っていたり、急に天使が枕元に現れて付与していったり、遺跡の遺物から天使の輪が現れたりするらしい。

 そんな守護天使の加護下にある国々の中でも、勇者が現れていなかったのはドラグ王国だけだった。


 勇者が現れたら、必ず各国の王を呼んでお披露目会をすることが決められていた。ただし、赤子の場合は病気などにかかりやすいため、3歳になるまではお披露目会をする必要はない。もちろん報告の義務もないので、それだけは心配していなかった。

 問題は、召喚の儀が行えなかったからといって、その赤子が本当に勇者であるのか、という疑問点。それと、大天使ルシファーが言ったとされる『扱いには注意するように』という不安点。



「エド鑑定士、まだ何も解らんのか?」

 庭園の隅で優雅に紅茶を飲みながら、ドラグ国王はエドワードに訊ねた。

 ほんの少し前、執事の案内でエドワードがドラグ国王の向かい側に座らせられるも、緊張のあまり紅茶に口はつけていない。


 解っていることは2つ。

 1つは、エドワードでも鑑定できないことから、恐らくは赤子がエドワードより鑑定のレベルが上ということ。

 もう1つは、肉体的な構造から人族、又はエルフ族の女児と考えられること。


「申し訳ございません」

 ドラグ国王が心配しているのは、勇者の称号がちゃんと付与されているのか、という点だろうとエドワードも気付いてはいる。万が一にも称号を持っていなかったら虚偽申告になってしまうから。

 だが、確かめようにも今は鑑定以外に手段がないのでお手上げ状態ではある。


 ちなみに、この国の言語で“ステータス・フル・オープン”と言えれば鑑定士以外でも確認することができる。

 ただ、まだ赤子なので口が発達していないだろうし、そもそもあの赤子、他の子のように“あうあう”や“あーあー”なども言わないので、体が成長したところで口の発達は遅いだろうと感じ、エドワードは既にその手段を諦めている。


「困ったものだな」


 ドラグ国王も赤子に関する報告は受けていた。


 そもそも、全盛期の姿で転生するはずなのに赤子だったことからも、生まれてから死ぬまでに文字を教わっていないのかもしれない。

 以前の転生者の中に、文字を書く風習すらない国から来た中年男性が居た。その者の鑑定にはかなり梃子摺ったと、当時の鑑定士は嘆いていた。

 結局は“ステータス・フル・オープン”を言わせた方が早かったらしい。それでも1年くらいかかっていた。もし文字を教わっていない赤子ならば、3歳までに開示できるようになっているかも怪しい。


「今、あの赤子はいくつなのやら」


 鑑定ができないので、当然ながら赤子の年齢も解らなかった。

 見た目が赤子だから3歳ではないと思っているが、あれで3歳だと言われても、不可解なことも多い転生者ならありえてしまうのが恐ろしいところ。


「まさか数の字まで異なるとは思いませんでした」


 エドワードは、とりあえず大まかに完成させた、赤子の鑑定図の1枚目をドラグ国王に提出してある。2枚目は、転生者の街を管理している第一王子にドラグ国王経由で渡した。

 今、エドワードは自分用に3枚目を書いていた。もっとも、イザーク王子が欲しそうに覗き込みにきているので、これも王家に渡さなければならないかもしれないが。


「アークジアが転生者の街に公表する前に、信用の置ける転生者に聞いてくれるらしい」


 第一王子、アークジア・ドラグ。

 既に成人の儀を終えた研究気質の青年で、ドラグ国王とエルマ女王の2人から生まれた、正真正銘の王子。だが、龍族の王とエルフ族の王から生まれた者には別の使命があるらしく、第二王子が誕生しなかった、又は死亡した場合以外では、ドラグ国王にはなれないらしい。

 なお、エドワードもドラグ国王から上記の内容を聞いたが、貴族でも知っている者はほぼ居ないらしい。

 そして、転生者も他国から反対されている以上、転生者の人口増加による問題も含め、あまり公には出来ない。

 そんな理由から、アークジア王子に転生者の街の管理と領地運営を任せていた。




「で、これが新しい転生者の鑑定図とやら、か」


 鑑定図を受け取ったアークジアは悩んでいた。アークジアは鑑定スキルを持っていないので、図だけ見せられてもどこに何が書いてあるのかが全く解らない。


「しかしこの字、どこかで……」

 だが、恐らくアークジアの城の中ではない。転生者の街中だとは思う。


 が、首を捻ってもバク転してみてもチョコを口に含んでも、やはり思い出せそうにない。


「ま、いっか。僕は忙しいし、優秀な部下に丸投げしよう!」

 興味がないことには一切手を付けないアークジアは、そう言って執事長を呼び、貴重なはずの鑑定図を渡してしまうのだった。


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