鼻を明かす 14
トワちゃんに送り出されたケイの目には、2つの景色が相まって不可思議なモノに見えていた。
綺麗な方を注視すれば、今まで見てきたどの街よりも美しく思えた。
だが、それが幻想であることは、もう片方を注視することで理解する。
異形の魔物が、人間のように生活を送っているのだから。
街は荒れ果てており、レンガで積み上げられた家の外壁は崩れている。
花壇の植物まで魔物化しており、時折、黒い気体を吐き出していた。
だが、その景色は魔王国では平常だった。
違いがあるとすれば、魔王国とは違って夢現の状態で生活を送っていることだろうか。
魔王国の場合は、魔王が来世のために新しい役目を吹き込んで世界に送り出してくれるから、魔物として何度も退治され、しっかり前世の生活感を消したら自然に精霊化し、上手くいけば知恵のある種族に進化するのだけども。
「ここは、魔王が不在だから仕方ない」
街を歩いても異形の魔物は襲って来なかった。
そもそも、ケイのことを認識さえしていないようだった。
ケイが閻魔のペンダントをしているからか、それとも精霊を食べていないからか。
「だけど、そろそろ起きてもらわないと」
そう呟いて冒険者ギルドの跡地の前に立つ。
そして、ドアがあっただろう場所に手をかけ、開く動作を行う。
跡地の中央にはリーンが横たわっていた。
まるで棺桶にでも入れられているかのように、仰向けで胸の前で祈っている状態で寝かされている。
「さて、リーンを連れて行きたいところなのだが」
『無理でしょうね』
答えたのはポケットの中の大精霊マイカ。
『既に彼の中に呪詛が浸透してしまっているもの。誰かが彼にこの地の精霊を食べさせているのだと思うわ』
「困ったものだ。面倒だから捨て置くべきか?」
『……気持ちは解るわ』
マイカは前世で面倒だと感じたことしかない李の行動を思い出しつつ、返答した。
『だけど、貴方の夢のためにも登場人物は揃えないと意味が無いのでは?』
「我ながら、面倒な条件で閻魔と契ってしまったと思っていたよ」
ケイはそう答え、襲撃者の攻撃をいなす。
襲撃者は1人だけ。
手にしているのも手術用のメスと縫い針と思われる。
元々、身体能力がそこまで高い者ではなかったのだろう。
魔王ならば、魔力を分け与えてから野に放たないとすぐに狩られてしまうと感じられるほど鋭さが全く無い一閃だった。
攻撃をいなした直後、ケイはその手を叩き、武器を落とさせる。
そのまま両手を握り、後ろへと回した。
が、縛るものが見当たらない。
悩んだ末に、指輪から伸びる鎖を使うことにした。
『ちょ、ちょっと! 私が動けなくなるでしょ?!』
マイカの抗議はうるさかったが、無事に襲撃者を拘束することは出来た。
その後で、マイカの首輪の近くで鎖を切ってやる。
「これで良いだろう?」
『良くないわよ! 心臓に悪いし、切った時の振動とか、刃先の向きとか!!』
ギャーギャーうるさかったが、前世の李よりはマシだと思ってしまった。
そんな呪詛に呑まれたリーンも、今は静かに眠っているだけ。
「……このまま引きずっていくか」
『えっ』
ケイがリーンの足を掴んで引っ張り出せば、いつの間にかマイカも静かになっていた。




