鼻を明かす 13
前世の李が日々の刺激を求めていた頃、コンピュータという機械が流行し始めた。
が、流石に高額な代物、そう簡単には入手できるはずもない。
そこで、夜間の学校の職員室に侵入しては、勝手に弄って遊んでいたことがある。
当時は学校の警備もザルで、先生方が交代で目視をしていた程度だったから出来たことでもある。
そのコンピュータを介して知り合ったのがフランス人のガブリエルだった。
知り合った当時は翻訳サイトどころか、掲示板ですら存在しなかった時代。
ただ、短文を送れるメールは存在していて、利用者できる人はほぼ高所得者か企業に限られていたのでかなり安全だった。
何も知らなかった李は、同じく何も知らないで『HALLO!』と送って来たガブリエルを指摘したことで、交流が始まった。
とはいえ、互いに英語は不得意。
辞書で(誤字も見込みつつ)懸命に翻訳し、1週間後に1文を返事するくらいの頻度だった。
自己紹介をするだけで3ヶ月、交流を続けたいと意思疎通するだけで8ヶ月。
だから、互いに親しくなれたとは言い難かった。
コンピュータからパソコンという名称に代わり、インターネットが普及し始め。
いつ頃からかパソコンで曲を作り始める者が出てきて、機械が声を出すようになって。
その頃から翻訳サイトが出来たことで、本格的に2人は交流を持つようになった。
そしていつの間にか、李とガブリエルは長い付き合いになっていた。
前世で一度だけ、ガブリエルが病気による安楽死を選択する前にテレビ電話をしたことがあった。
「まさか『李』まで転生していたとは!」
「いや、私は転生者ではないです」
リーンは即答しつつ、続ける。
「あと、こちらではリーンと」
こちらの世界の発音で『李』は言いにくい。
納得したガブリエルは頷いた。
「リーン、会いたかった!」
この時点でリーンには違和感があった。
「ガブリエルは、この街が変だと思いませんか?」
「うん、変だよ」
「やはり」
「だけど、気にしなくていいよ」
ガブリエルはにっこりと微笑んだ。
「外壁に門が無くて完全に外界と遮断されていても!
皆が信じる精霊様がこの街に不在でも!
何なら皆が口にしているのが精霊だったとしても!
なぁんにも気にしなくて大丈夫!!」
そう言ってガブリエルは、リーンの両肩を掴んでベッドに押し倒した。
「何をっ」
するんだ、とリーンは言いかけた。
が、ガブリエルはニヤリと笑ってその手を離す。
ガブリエルの圧が無くなったというのに、リーンは体を起こせなかった。
急激に体が鉛のように感じたリーンは目を閉じる。
ベッドのふわふわ感は皆無だというのに、異様なほどの睡魔が襲来していた。
―― この眠気には、抗えない。
そう実感した直後、リーンは深い眠りに落ちていた。




