目をつむる 07
安価な手切れ金だけで城を追い出されたマイカは、最初こそ怒り狂って城壁に八つ当たりしていた。
が、そんなことをしても戻れないし、そもそも戻る気は一切ないことに気付き、城の下方に広がる街まで出てみる。
マイカが城に行く前と、街は全く変わっていなかった。
安堵したマイカは、自然と自分が育った孤児院へと足を進めた。
スラムがあるのは街の端。孤児院はその中央。だからどんどん治安は悪くなる。
マイカは周囲の視線を感じつつも、道の端を通ることもなく堂々と道を歩む。
孤児院の建物はまだ残っていた。
数年前の記憶がよみがえってくる。優しい世話役たちの顔を思い出す。懐かしい、会いたい。そう思いながら足早に孤児院のドアを開け放つ。
「ただいま!」
だが、中には誰も居なかった。
数ヶ月前、孤児院で流行り病が出てしまい、当時の世話役も含めて全員が亡くなってしまったらしい。
遺体の火葬と建物の洗浄を行った先輩騎士から又聞きで知ったガウラは、魔物狩りで街の外に出るたびに、先輩騎士に頼んで元孤児院まで一緒に足を運んでもらっていた。
もっとも、ガウラはマイカにもその話しを過去にしている。
残された大きなテーブルには、古臭い花瓶に綺麗な花が生けられている。
それを見たマイカは全てを悟り、現実を知り、泣き崩れた。
マイカが孤児院に居た時にも、他の孤児院で類似のことは起きていた。病を克服して生還できた孤児に関しては、ここでも受け入れをしていた。その子の話しを聞くのが怖くて、マイカはいつも皆とは距離を置いていた。だから余計に覚えている。
一度でも仕事を得て孤児院を出た子供は、孤児院には子供としては戻れない。
ただし、世話役としてなら戻れる。
それを知っていたからマイカはここに来た。他人の世話は好きではないけど、孤児院の世話役であれば街の外に出られるから、世話役のリーダーに教えてもらい、魔物を狩って皆で食べようと思って。
しかし、それはもう叶わない。
途方に暮れたマイカは、その日はそこで一晩を過ごすことにした。
翌朝、マイカが鳥の鳴き声で目を覚ますと、城から持ってきたメイド用のバッグが無いことに気付いた。
慌てて周囲を探すも、見つからない。
建物の外に出ると、クスクスと笑い声だけが聞こえた。
「誰が私のバッグを持って行ったの?!」
一瞬だけ笑い声が止む。当然、驚いて誰も答えなかった。
孤児院があるのはスラムの中。職を失い、日々生きるのも食べるのも精一杯な者が集う場所、それがスラム。
今まで国の支援を受けて野菜などを貰っていた孤児院やその子供が狙われなかったのは、世話役が交代で建物の見張りをしていたから。あとは魔物を狩った時に不要な部位を賄賂代わりに渡していたから。
何せ、ここでは骨でも貴重な栄養源だから。
しかし、それを知らないマイカは建物に誰も居ないからと熟睡してしまった。実際には建物に数名の孤児たちが勝手に住み着いていたのだが、人の気配も読めないマイカは全く気付いていなかった。
潜んでいた孤児たちにとっては良いカモだったことだろう。
マイカは激怒して盗人が居そうな場所に魔法を放ったつもりだが、思ったよりも見当違いな方面に行ってしまって当たらない。まして、マイカは城の施設を利用した召喚術の訓練しかしてこなかったので魔法の腕は良いとは言えないし、当てようとしている相手はスラムで生き残る力を持った孤児。そもそもマグレでもない限り当たるはずもない。
結局、潜んでいた孤児たちは散り散りになり、建物を捨てて人気の多い場所まで逃げ切った。
頑張って追いかけていたマイカでも、流石にこんな場所では下手に魔法も使えない。疲れ果てて石段に腰を掛けた。
そして、ただ茫然と人の流れを見つめ続けた。




