鼻を明かす 08
あの後、連合国に呼び出されたエドワードとマリア(とマイカ)と分かれた。
リーンの屋敷の一部屋を与えられたケイは、旅の準備をリーンとイザークに任せ、自身はバルコニーから街や燃え続ける教会を呆然と見つめていた。
―― 夢の為とはいえ、随分と遠くに来てしまった。
それがケイの心中だった。
ケイはリーンが少し苦手だった。
嫌いではないが、好きにはなれない。
恐らくは、根本的な考え方が違うのだと思う。
不意に部屋のドアをノックする音が響いた。
「どうぞ」
許可すれば、マリアが置いていったミリアというメイドが紅茶を運んできてくれた。
猫系の獣人族の子、ということは見てすぐに解っている。
部屋に紅茶の香りが漂う。
釣られるようにして席に着けば、ミリアは手慣れた手つきでソーサーとカップをテーブルに置き、注ぎ入れてくれる。
カップに口をつければ、ミリアは静かに感想を待つ体勢になる。
だから素直に答えた。
「懐かしい味だ。入れ方も上手いね、美味しいよ。ありがとう」
その味は、前世で耳が聞こえるようになってからの、行きつけだったカフェを思い起こさせた。
オーナーの娘は小学生だったものの、ケイが行く日曜日は必ず紅茶を入れてくれていた。
カフェには看板猫が居て、その猫を連れてきて日当たりの良い窓際の席で一緒に微睡んだこともある。
「……まさか」
ミリアはニッコリと微笑んだ。
「貴方を見て、すぐに前世を思い出しました。
転生者ではなく、死してこの世に来た者は、恐らく貴方を見ることで前世を思い出すでしょう。
私は重罪を犯してはいないので、そこまで酷い発作にはなりませんでしたが」
「……リーンは、初の晩だけ発狂していたな。あれは、そういうことか」
ケイは思わず溜息をついた。
この大陸を旅してからというものの、目が合う人や袖振り合う人が、頭を壁に打ち付けたり、床を七転八倒したり、とにかく異常行動を急にし始める人が多かったので、ケイとしては魔王国の出身なので変な物質をまき散らしているのではないかと人と接しないように行動していた。
だが、まさか前世の罪を思い出してしまっていたとは。
「ここは地獄、なんですよね?」
「あぁ、地獄だよ」
「そうですよね」
ミリアは何の罪を犯したのだろうか。
聞いていいものか、悩んでいれば。
「私、親を壊してしまったんです。
どうしても海外に留学したくて、でも家にはお金が無くて。常連さんがお金を出してくれると言ったので、親に相談もせずに飛びついてしまったんです。
でも、その常連さんは悪い人だったみたいで、帰国したら店は売られてしまっていました。借金を抱えた父親は自殺して、母親は私を責めました。
前世を思い出せなかった私は、この世界でも全く同じ罪を犯しました。
多分、その罪に懺悔し、償うことで、この地獄から脱することが出来るのだと今なら思えます。
まぁ、私の場合は、もう遅いんですけどね」
そう言ってミリアはケイの前に跪く。
そして祈りを捧げる体勢になり、呟いた。
「それを思い出させて頂けただけでも感謝しております、地獄の神様。
来世では親を失わなくても済むよう気を付けますのでお見守りください」
来世のミリアは変われるかもしれない。
だが、自分には来世が訪れやしないだろう。
―― それだけのことをしたのだから。




