鼻を明かす 07
商業ギルド長・エドワードは燃え盛る教会を見つめることしか出来なかった。
凄腕の鑑定士は病原体の正体を見破れても、元々が強力な呪詛だけに対処法が無い。
この世界に存在していた聖水や希少な回復薬ですら遅らせる程度で完治は不可。
マルチヨン連合国は、異形の魔物と化した者から他者にうつるようであれば、建物に閉じ込めて聖火瓶を投げるよう清掃ギルドに依頼していた。
聖火瓶は聖女が作った火を瓶に閉じ込めたモノで、ある者が絶やさずに管理し続けているらしい。
その聖火は異形の魔物を唯一、燃やし続けることが出来、更にその場に拘束することが出来た。
だが、拘束するだけで殺すことは出来ない。
「あ、あぁ、……」
エドワードの背後で声がした。
振り返れば、クランメンバーに守られていたイザーク王子が泣き崩れている。
元第一騎士団長は、今は亡きガードハンド・フォクスが予知した内容が自分に向けた言葉ではないことを悟っていた。
そしてガードハンド・フォクスもまた、それを承知の上で元第一騎士団長とエドワードに予知した内容を伝えていた。
そして今、閻魔のペンダントを下げた少年が現れた。
もう少し早ければ、元第一騎士団長は連合国の勇者から託された言葉を直接、伝えられたというのに。
「運命とは皮肉なものですね」
思わず教会に向いてエドワードは呟いていた。
聖火瓶は量産が難しく、また性質上、取り扱いも非常に難しい。
その代わりに日持ちはするので、商業ギルドで保管と管理を行っている。
連合国が判断を清掃ギルドに指定したのは、人の生死に敏感な者が多かったため。
こと清掃ギルド長・マリアは血も涙もない判断を下せるとして重鎮から信頼されていた。
何よりもこの2人には呪詛が効きにくいようで、例え各々のギルドメンバーが異形の魔物と化しても本人たちだけは生き残っていた。
事情を聞いたリーンは首を傾げる。
「連合国の勇者は転生者だった? じゃぁ後から付与された、ということか……?」
「そういうことになります。私も本人も驚きましたから」
「でも大天使は現れていない?」
「えぇ。それに結界が出来た後に付与された気はします。
とはいえ、ガードハンドへの鑑定は何十年と行っていませんでしたから、実際の時期に関しては解らないのですが」
「それで、ケイ。貴方が魔王国の勇者ということで良いのね?」
教会に祈りを捧げていたマリアが合流し、エドワードから軽く聞いて事情を察したらしい。
ケイが頷き返せば、マリアはふぅ、と色っぽい溜息をついてからエプロンのポケットに手を入れる。
取り出されたのは、1匹の精霊だった。
ただ、イザークはそれを見て目を丸くする。
今までイザークが出会ってきた精霊は人の姿かたちをしていなかった。
だが、この精霊は女の子ということまで解るほど人間に近く、通常の精霊の2倍の大きさを保っていた。
「大精霊マイカ ―― 前聖女の下で呪詛の禁術を極めた大罪人よ」
良く見れば、大精霊マイカは首輪を付けていた。
首輪から伸びた長い鎖の先は、マリアの指輪に繋がっている。
当の本人は大欠伸をして伸びをしていた。
が、そこがマリアの手の上で、皆の注目を浴びている最中とあっては、その伸びの姿勢のまま固まってしまっている。
「前聖女から荷物が来て、その中の檻に入っていたのがマイカ。
私はマイカの言葉を聞き取れないけれど、その檻と一緒に手紙が入っていてね。
最後の転生者に会わせて欲しいのですって」
大精霊マイカはこちらの言葉が解るのか、マリアの一言に力強く頷いた。
ここでも、ずっと黙っていたケイが口を開ける。
「手伝ってくれるのか?」
たった一言なのに、マイカがケイを見て目を丸くした。
ケイは黙ってマイカを見つめる。
「あんなに兄のことを嫌っていたのに、本当に手伝ってくれるのか?」
マイカは少しだけ目を閉じた。
過去を思い出し、後悔する。
だから、今回は後悔したくない。
そんな強い意志を込めて大きく頷き返した。




