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閑話 01
道中、ケイがリーンに打ち明けた身の上話。
前世のケイは耳が聞こえなかった。
だから、言葉を発しても言葉になっていなかった。
つまり、喋れなかった。意思が伝えられなかった。
自覚が芽生え始めた頃には、既に姉のトワは母に蹴られていた。
母は、一番上の姉・アイと自分には凄く優しかった。
今思い返せば、母は特別児童扶養手当を貰えていたから優しかったのだと思う。
そんな母が男を家に連れ込み始めてから、トワへの当たりは強くなっていった。
だけど、しばらくしたら、今度は母とその男が帰って来ない日が続くようになった。
そんなある日、帰って来たトワは別人だった。
綺麗になったとか、髪形が違うとか、そういう意味ではなく。
本当に別人が家にやってきた。
別人のトワは、家の惨状を見て、嫌な顔1つせずに部屋の掃除から始めた。
姉のアイは、トワが別人になっているなど気付かずに我儘を言っていたのだろう。
だが、その別人のトワは無表情のまま、アイを風呂に入れ、夕飯を作り、アイに食べさせている。
正直、意味が解らなかった。
だけど、別人のトワが作る料理はどれも美味しかった。
別人のトワは、その日以降、ずっと家に居るようになった。




