鼻を明かす 06
教会の周囲には兵士や冒険者らしき人々が配置されていた。
異形の魔物となった冒険者を警戒しているのかと思いきや、単に一般人が出入りしないよう見張っているだけらしい。
「お前、まさか、リーンか?」
そんな中の1人がリーンに声をかけてきた。
冒険者風情のその人物を見、リーンは苦虫を嚙み潰したような顔をする。
「……何で王子のアンタがここに居んですか?」
「それはこっちのセリフだ!」
過去にリーンが忍び込んだ屋敷の庭で知り合った、ドラグ王国の第二王子・イザークが怪訝な表情で舌打ちする。
あの頃のイザーク王子は幼かった。
だから城のすぐ近くまで忍び込んでいたリーンを侵入者と思わず、純粋に会話を楽しんでしまっていた。
一方で、リーンもイザーク王子の無垢に心が癒されていた。
だが、危機を感じたリーンはある日を境に行かなくなり、交流は途絶えている。
それでも、互いにその頃の面影は残っていた。
複雑な感情のまま、イザーク王子は剣先をリーンに向けている。
「まさかとは思うが、お前がこの異変を起こしている訳じゃないだろうな?」
「私たちはつい数日前に来たばかりです」
「だったら尚更、今はリーダーに近付かない方がいい」
リーンは争うつもりで来た訳ではなかった。だから剣すら抜いていない。
「あれは一種の病気だ。うつる要素はまだ判明していないが、国外から来た旅人はうつりやすい」
「リーダーとの会話は難しいか?」
ずっと黙っていたケイがイザーク王子に訊ねる。
イザーク王子はただ頭を横に振った。
ケイは事情を知るべく、イザーク王子を先程の喫茶店に連れ出した。
と言っても、この国で流通している通貨を持っていないので、全てリーン持ちではあったが。
ただ、リーンも事情は把握しておきたかったのだろう。
イザーク王子も話すべきと思ったのか、互いに情報提供し合うことになった。
あの結界が特別都市・ベルソデニテに出来てすぐ、ドラグ王国の首都は魔物の大暴走で外壁が崩壊し、見るも無残な光景と化した。
毎日のように魔物の大暴走は起こり、ドラグ国王は子供、部下、貴族、更には国民にも国外退避するよう指示を出し、自身は妻のエルマ女王と共に城に残った。
イザーク王子は商業ギルドと清掃ギルドに護衛されて、このマルチヨン連合国までやってきた。
しばらくは旅人として扱われていたものの、マルチヨン連合国は独自の調査の末、ドラグ王国への帰国は困難と判断し、元ドラグ王国の住民を全て難民として受け入れることにした。
イザーク王子も王族としてではなく、一市民として教育を受けることになった。
だが、そのおかげでリーダーと出会えたという。
クランのリーダーは、出会った時から既にリーダーと呼ばれていた。
そして、ひっそりと前ドラグ国王を捜索していたようで、イザークにも聞き取り調査をした。
リーダー曰く、前ドラグ国王が事情を知っている、だが根本的な解決には至らない、解決には他者との協力が必要、と予知スキル持ちの者に言われたらしい。
予知スキル持ちの者は、しばらくリーダーと共に結界の調査に当たっていたが、異形の魔物となって死んでしまったらしい。
だからリーダーはクランを作り、協力者を増やしていた。
冒険者ギルドに登録したイザークは、クランメンバーと協力する内に所属することになる。
それでも、リーダーには伝えられなかったことがあった。
「ずっと、ウル(王女)が何かしたのではないか、という不安に苛まれてはいる。
あの日、ウルはアルルドネイカの聖女候補と一緒に特別都市・ベルソデニテの精霊祭に行ってアーク兄とお茶をする予定になっていた。私も行かないかと誘われたが、あの日は別件が入っていたので断った」
「そしてあの結界が生まれた?」
「そう。だからウルが精霊に何かしたのだろうと思っている。
だが、リーダーの探す前ドラグ国王は見つからず、見える精霊を捕えたとしても、解らない、又は覚えていないと言われてしまう」
「進展は無し、ね」
リーンの相づちにイザークは悲しそうな表情をして頷いた。
「これでリーダーまで死んだら、私は一体、どうしたら良いか……」
「その前に聞きたい。貴方が教会の外に居たのは、クランメンバーに言われて、か?」
ずっと黙っていたケイが訊ねた。
イザークはキョトンとした表情をして答える。
「え? あ、あぁ。
クランメンバーに、中に入るな、お前も元々は国外から来たんだから、と言われてな」
「そうか、」
ケイは窓の外、教会のある方面を見る。
「なら、お前はクランメンバーに守ってもらえていたのだな」
ケイの目にだけ、教会の中から黒い何かが溢れ出ているのが映っていた。
それが異形の魔物と化す病原体なのだろう。
そして、その教会の外には先程の清掃ギルド長と呼ばれていた甲冑姿の人物に似た者が、たった1人で立っていた。




