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とわのゆりかご  作者: 葉月雷音
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鼻を明かす 03

 その街での初の夜。

 しかし、最後の夜になるかもしれない、とケイは薄々感じていた。


 路地裏で軽く眠っていたケイは、ある衛兵によって揺すぶられ、起こされる。


「君、こんなところで寝ていたら危険だよ」

「それは、魔物に襲撃されるから、でしょうか?」


 ケイは、ずっと寝ている間にも握っていた腰の刀を目で確認しながらも訊ね返した。

 衛兵は溜息をつきながらも答える。


「あぁ、君も戦える人だったのか。それでも、眠るなら教会をオススメするよ」


 そう言い残して衛兵は去って行った。


 たくさんの魔物の気配が街へと近づいている。


 3日間も街を観察していたケイは、魔王国側の門番が夜になると街側を警戒していた理由が、ドラグ王国側からの魔物の大暴走(スタンピード)だろうと薄々察していた。


 だが、今日あたりが衛兵たちの体力の限界だろう。


 それでも民のためか、はたまた、これ以上の逃げる街が無いことを知っていたのか。

 街から逃げ出す衛兵は誰も居なかった。




 翌朝、朝日と共に全容が明らかになると、城の軒の下、妙な出っ張りの上で横になっていたケイは静かに街を後にした。


 街が保たないな、と感じたのは、聖女の結界が街に無かったこと。

 その次に、聖女の気配どころか城から人間の気配が感じ取れなかったこと。

 最後に、街を纏めているのが衛兵たちだったこと。


 聖女は逃亡したのか、ドラグ王国に向かったのか、死んだのかは解らない。

 だが、国の中核が機能していなければ崩壊するだけだ。

 それが例え、魔物の所為ではなかったとしても。




 砂漠に戻っても、やはり街の外壁は確認できなかった。


 やっと発見できたとしても、既に廃墟と化していた。




 ケイが歩き続けて、もう何十日と経った頃。


「聖女はここに拠点を移していた、か」


 思わず唸りたくなるほどのオアシスと結界を携えた街に出会うことができていた。




 そこは、地域としては獣国だったらしい。

 だが、ドラグ王国の崩壊を知った後、獣国のリーダー達が挙ってココの湖を聖女に差し上げたとか。

 各国の砂漠化が進行し、聖女も数年前に移住を決意されたとか。


「たまに旅人が来て居ついちまう、ってことも多い街さ」


 そう勝手に教えてくれたのは、案内人を名乗る元冒険者の男。


「ならばなぜ、聖女は聖国アルルドネイカの住民を連れて来なかった?」

「連れてきたさ。首都から全員無事にこちらに来たって言っていた」

「なんだって? 俺は聖国アルルドネイカの首都の住民が魔物の大暴走(スタンピード)によって蹂躙されるのを城の上から確認してからここに辿り着いたんだけど?」


 案内人は目を丸くし、少し思案した後に、足早である場所へと向かう。


 古ぼけたアパートの階段を上り、2階の部屋へと通される。


「街中だと詳しく話しを聞けそうにもなかったんでね」

「やはり監視の目があった、か」


 街に入ってから、ケイは監視されていることに気付いていた。

 それも、ただの隠密ではない。その手のプロだろうとも察してはいた。


 ただ、この男も只者ではなかった。

 監視の目を掻い潜るために路地や、時には樹の洞まで通って、監視の目を欺いてからアパートに着いたのだから。


「すまないが、詳しく教えてくれないか」

「その前に、貴方は何者か?」


「私はリーンという。マルチヨン連合国の貴族の出身で、両親がヘマして幼い頃はドラグ王国の特別都市に住んでいた。聖国アルルドネイカへは、一度だけ前々の王女の依頼で行ったことがある。それからは獣国の亀族長の依頼で、この街で魔王国の勇者を探している」

「へえ?」

「君が、その勇者で間違いないか?」


 リーンは確信がある言い方だった。

 とはいえ、ケイにも閻魔との契約がある。簡単には答えられない。


「確かに魔王国から来たが、勇者ではないな」

「そのペンダントを持ちながら何を言う」


 閻魔のペンダント。

 これを知っているのは大天使から事情を聞いている他国の勇者だけだ。


 しかし、リーンは大天使との契約の証がない。


「だが、貴方は勇者ではない。その亀族長ならば話を聞こう」

「死んだよ」


 そのリーンの一言にケイが首を傾げる。


「亀族長は獣国の勇者として、聖国アルルドネイカの勇者に殺された」

「は……?」


 勇者は勇者を殺せなくはない。

 何せ、勇者は死神と同じ権限があり、魂を消滅させることが可能だから。


「大天使が不在の状況で馬鹿なことを」

「やはり、大天使は世界を見限ったのか」


 新しい勇者が生まれなかったから、選ばれなかったから、リーンでも気付いたのだろう。

 だが、もう遅い。


「勇者であれば、人間や魔獣が相手であれば死ぬことがなく、無敵だというのに。何が原因で勇者同士が命を奪い合っているのか?」


「それが、亀族長から私に託された依頼でね。


 今の聖国アルルドネイカの勇者、いや聖女は、この状況を楽しんでしまっている。


 ちなみに、大半の勇者は聖女によって殺された。

 今生き残っているとすれば、マルチヨン連合国の勇者しかいない。


 まぁ、聖女に呼ばれても来なかった軟弱者、という扱いらしいが」


「そもそも、獣国は自業自得では?」


 ケイの発言にリーンが目を細める。


「ドラグ王国の転生者が龍族と同じ体質だったから、幼い跡継ぎの代理として国王に召し上げられた。

 まず、この時点で誰もおかしいと思わなかったのか?


 獣国が主体となって各国に働きかけ、ドラグ王国の国王となった転生者を嗾けて世界の神を殺そうと計画を立てた。

 最後まで聖国アルルドネイカとマルチヨン連合国が反対していたにも関わらず


 結果、偽の魔王国は魔物の大暴走(スタンピード)を起こし、大陸の平和を壊した」


「亀族長は、ここは住人に対しての償いだと言っていた。こうした世界にしてしまった罪への」


「そうだろうね。だから聖女にここを渡した。

 ここはかつて大天使や精霊が集っていた湖だから枯渇する可能性は低いし、聖女の結界と合わされば生存できる地域になるだろう、と思ったのでしょう。


 だけど、聖女は勇者を殺めてしまった。


 聖女の結界術は自らの手で他者を殺めていないことが条件。

 つまり、今の聖女はもう結界術を使える勇者ではないから、この結界の維持もギリギリのはず」


「そんな……」


 絶望したリーンは黙った。

 が、すぐに決意した表情でケイを見る。


「ならば、君と共に私も旅に出よう」


 意味が解らなかったケイは思わず。


「え、何でそうなるの?」

「どうせ消える街なら、冒険者に戻ろうかと思って。別に怪我している訳でもないし。

 閻魔()のペンダントがある限り、ほとんどの魔物には襲われないだろうし、安全でしょ?」


 それに、とリーンは続ける。


「誰かが最後の転生者を泣かせた……はっきり言って、あの子が泣くなんて私には想像がつかない。あんなに優しい子を泣かせるなんて許せないよ」


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