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とわのゆりかご  作者: 葉月雷音
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耳に逆らう 20

 —— かくして精霊祭の当日を迎える。


 街は生花や鉢植えなどで彩られ、今日だけは精霊も街で遊ぶことを許される。


 大概の精霊は魔力が植物に吸い寄せられるため、植物にイタズラを施す。

 だから、この街には自然の緑が多かった。


 そんな精霊の中に、魔力を持たない者が1匹だけ混じっていた。


 魔力を持たない精霊は、他の精霊のように魔力でイタズラを施せない。


 もっとも、その精霊は生真面目でイタズラが好きではなかった。

 だから精霊祭にも興味が持てず、ただ街を漂っている。


 その精霊は、自身がこの街に居る理由が知りたかった。

 それどころか、自分は何者なのか、それすらも思い出せなかった。

 何なら、精霊であることすら気付けていなかった。


「あら?」


 不意に、精霊は全身に痛みを感じた。

 同時に恐怖を感じるも、時は既に遅い。


 暗くなった視界が開けたと思えば、そこには大きな人間の顔があった。


「うふふ。つーかまーえた♪」


 精霊はゾッとし、知識の中にあった瞬間移動を使おうと試みた。

 だが、魔力の無い精霊では使えるはずもない。


「やっぱり、貴方もこっちに来ていたのね」


 その言葉を告げられた瞬間。

 走馬灯のように前世の出来事が脳内で再生された。


 幼女を絞め殺そうとして、大泣きされて。

 気付けば世界が大きくなっていて、死んだはずのマイカに平手打ちされた。


 前々世の少女は、前世の幼女だと思い込んでいた。

 だが、実際にはこの目の前の人間が、自分を捕えている人間こそが、前々世の少女だと悟る。




 ウル王女は捕まえた精霊をコルク瓶の中に容れた。


 魔力の無い精霊は姿を消すことすら出来ないらしい。

 だが、精霊祭の日に精霊を捕まえることは、街の住人は御法度だと考えていた。


 だから、ウル王女が精霊を持ち歩いていることを指摘する者も居た。


 しかし、

「私、ドラグ国王の娘のウルですの。文句がありまして?」

 こう言われてしまったら、住人は黙認することしか出来なかった。




 デート中の弟子の1人と偶然出会ったガブリエルは、その話しを耳にして憤怒したものの、ウル王女の元には行かずにアークの屋敷へと向かった。

 屋敷の門番に事情を説明し、伝言を託す。




「嗚呼、やっぱり間に合わなかった!」


 伝言を聞いたアークジア王子は急に叫びながら立ち上がった。

 かと思えば、観念して自身に対して失笑し、元の椅子にドカッと座る。


 それに驚いたのは、同室に居たマモルの魔獣だった。


「父さん、()()に挑むなんて無理だったんだよ!!」


 <父さん>と投げかけられた魔獣はただただ、目を丸くしている。


「父さんは、ここが天国で前世の業を懺悔し、業を出し切るまで輪廻し続けるこの世界を変えたいって言っていたけどさ?



 ボク、多分、ここが地獄だと思う!」



 途端にザザッと空間にノイズが走り、黒いフードの不気味な者がアークジア王子の背後に現れた。

 それが正答だとばかりに不気味な者が大鎌を振り上げる。


「転生者の父さんの能力で勇者の肉体を与えてもらったけど、その時からずっと違和感が ——」


 だが、それを言い終えることは出来なかった。



 真実を知ってしまったためか、不気味な者は()()魔獣を狙っていた。


 魔獣は全てを理解し、過去を酷く後悔し、息子に内心で懺悔しつつも。

 煌びやかな街を駆け抜け、暗めの外へと出る。




 そんな魔獣を見かけて嫌な予感がしたウル王女は、屋敷の門番を護衛の2人に任せて押し入った。

 ちゃっかりアイがウル王女の後に続く。


 ウル王女は屋敷を探すも兄・アークジア王子の姿が見当たらない。


「あっちじゃない?」


 屋敷の事務室から見える小屋を指すアイ。




 —— あの小屋は。


 ウル王女は前国王の業を思い出しつつ、小屋に向かって森を突き進む。




「勇者は、前世の強い願いを叶える代わりに、二度と輪廻転生が出来なくなる。

 私は、この地獄に来るだろう息子のために国の体制を整えたのだ。

 それなのに、息子は勇者として使い潰され、死んだ。


 そんなの、悔しすぎるだろ。


 だから、悪魔の誘いに乗ったのだ。


 悪魔に息子とこの身体を乗っ取らせ、この世界を壊す計画に」




 小屋の前には、外が祭であることすら知らなさそうなマモルとトワが居た。

 マモルは見知らぬ2人に警戒して杖をこちらに向けている。


 だが、ウル王女は小屋にもアークジア王子は不在と悟った。

 失敗し、この世界の守り人である死神に排除されたのだろう。


 数度しかあったことのない兄でも、少しだけ寂しかった。


 が、それだけで、その他の感情は湧かない。




 だが、こちらは事情が異なるようで。



「会いたかったわぁ、私のトワ」


 アイの不気味な声色にウル王女もマモルもゾッと背筋を凍らせた。


マモルの名が間違っていたので修正しました。

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