耳に逆らう 14
この章を書き終えたので、2話ずつ更新します。
<オーククイーン>
それはオスしか生まれないオークの中の特殊個体。
唯一無二のメスであり、その子供が無難に成長すれば全てが<オークキング>となる。
ナナシは平然と説明したが、他の全員、誰もがナナシを警戒して睨み詰めていた。
リーンは、ナナシが元勇者だと知っている。
だが、得体の知れない依頼主なので近づけなかった。
幼女はマモルにしがみ付いたまま離さない。
だから幼女を守る精霊も、近くを漂うことしか出来なかった。
なお、精霊がマモルを頼ったのは、小屋に住んでいた時から魔獣に対して優しいマモルであれば、精霊である自分も受け入れてもらえるのではないか、という僅かな期待があったから。
マモルと魔獣は、怖がる幼女をリーンから守ってはいる。
ただ、あまりに情報が多すぎて、マモルは未だに混乱気味ではある。
結局3人の仲間を失った残りの先住者2人は、突然のナナシの乱入に警戒し続けている。
「ただのオークに禁術を使ってもクイーンにはなっていなかったらしい。だけど、キングに禁術を使ったらクイーンになるのかもね」
先住者は、意味が解らない、とばかりにナナシに訊ねる。
「で、アンタはどうやってここまで来たんだべ?」
「キングって、図体、デカイんだよね。多分、5階建てのアパートくらい。その分、家も村も大きくなる。叩かれないよう、バレないようにしたけど、まるで自分が蚊になった気分だったよ」
リーンは、この人ならありえる、と感じながらもナナシに訊ねる。
「で、何でこの場所が解ったんだ?」
「キミに発信機を取り付けていたし、精霊は必ずここに逃げ込むと思ったから」
マモルは未だに混乱していたものの、話しの流れからリーンの上司なのだろうと感じ、ナナシに訊ねる。
「なぜ、この子を、狙う?」
ただ、未だにこちらの言葉は片言だった。
理解した内容も大まかに合ってはいるが、それでも推測が混じっている状態。
ナナシは少し悩んでから答える。
幼女がマモルに必死にしがみ付いている理由。
それは、マモルがもしかしたら幼女と深い関係があるのではないか、と。
『聖女の依頼で、最後の転生者である、その子の顔が見たいらしい』
『さいごの、てんせいしゃ……』
『見て、満足したら、たぶん居た場所に帰してくれると思う。護衛も付けてくれるだろう。
もっとも、転生者はこちらの言語を習得するまで街の外には出せない規則だからね。まして幼い子を長旅に連れ出すなんて、今のドラグ国王が許可を出せるはずがない。だから勇者のボクに依頼が回って来たんだよ』
マモルは悩んでしまった。
だが、しばらく経ってはたと気付く。
『って。え? 日本語?!』
そう、ナナシは日本語でマモルの質問に答えていた。
恐らく口元を見ていただろう幼女も首を傾げている。
ナナシはどこか納得し、全て正直に話すことにした。
『ハーフで海外が長かったし、こっちで前世の記憶が戻っても全く使う機会が無かったから、忘れかけているけどね』
『いえ、十分です! ありがたいです! めっちゃ嬉しいっす!!』
「一応、こっちの言葉でも説明しておくと、聖女の依頼で、その子を拉致して聖国アルルドネイカへ連れて行く予定」
拉致、という単語に先住者が怪訝な表情をする。
「だけど、聖女は見たら満足してその子を国に帰してくれると思う」
「何でぃ。聖女サマが見に行けばいいべ?」
「聖女は聖国アルルドネイカを出られない。そして聖女はもうすぐ死ぬと予言されている。病気らしい」
その発言後、マモルと同じ説明をナナシは行う。
先住者もリーンも、事情を知って悩んだ。
「聖女いわく、その子は勇者である可能性が高いらしい」
「最後の転生者であれば、そうなるか」
リーンも転生者に関する逸話はいくつか耳にしていた。
「だが、誰もこの子を鑑定できていない、と?」
「そうらしい。まぁ、ボクは聖女からしか話しを聞いていないから、ドラグ王国内ではどういう扱いになっているのか、詳しくは知らないんだけどね」
部分的にしか聞き取れなかったマモルは首を傾げた。
マモル以外の4人に見つめられた幼女も首を傾げる。
「そして聖女の直感が正しければ、その子は耳が聞こえていない可能性が高いらしい」
—— この子は、耳が聞こえない。
マモルは、その単語だけは理解できた。
だから思わず腕の中の幼女を見る。
マモルは、日本語だったことが嬉しくて、あの不思議な履歴書をこっそり拝借し、毎日のように愛読した。
アークジア王子の有能な執事が落としていっただろう、鑑定書を。
『なまえ:トワ・クメ(かり)、ねんれい:0さい(かり)、せいべつ:おんな、しょうごう:さいごのてんせいしゃ、ゆうしゃ××××(かり)』
そして、ナナシは彼女のことを<最後の転生者>と呼んだ。
『トワちゃん』
マモルは幼女に日本語で呼び掛けた。
口の動きを見ていた幼女は目を丸くする。
が、後にキャッキャッと満面の笑みを見せてくれた。
それに驚いたのは精霊とナナシだった。




