耳に逆らう 13
アイはイライラして部屋のぬいぐるみに八つ当たりをする。
叫んで、騒いで、怒鳴って、
殴って、蹴って、地団太を踏んで。
あまりの醜さから、立ち会っていたメイドですら部屋を出て行った。
アイは前世を全て覚えているわけではない。
絶対音感だったのだろう、声や音に関してはしっかりと覚えているし、思い出せる。
だが、何度思い出そうとしても、家どころか自分の容姿ですら思い出せなかった。
ただ、家は多分、裕福な方だったのだろう。
両親はアイに対し、可愛い、綺麗、と声を掛けてくれていたことは間違いないし、学校では人気者で友達が集まってきたことも良く覚えている。
だから、死んで生まれ変わった先が裕福ではなかったとしても、それは仕方ないことと割り切っていた。
ドラグ国王は清書の複製を、ウル王女経由ではなく、音楽教師を通して渡させた。
だが、楽譜を見ても何も思い出せない。
それどころか、楽譜を読むことすら出来なかった。
音楽は解るのに、歌えるのに楽譜は読めない。
ウル王女は、
「ゆっくりやればいいわ。きっとアイなら完成させられるでしょう」
「私、楽譜という存在を初めて知りました。これは有用なモノですね」
なんて暢気なことを言っている。
—— 何で誰も手伝ってくれないのよ!
一方、ウル王女は護衛の2人と共に音楽教師の元を訪れていた。
「先生、少しお尋ねしたいことがありまして」
「何でしょう?」
音楽教師は驚きつつも、恐らく楽譜のことだろうと、手にしていた楽譜に視線を落とす。
教師が持っている楽譜は、ガブリエルが首席奏者に、楽譜の読み方を教えるために用意したモノの複製らしい。
「結局、その楽譜というモノは、どういうモノなのでしょうか?」
「そうですね……例えば、」
音楽教師は ド の音を弾く。
「今弾いた鍵盤が、この音符ということのようです。そして、この斜め上、線の下に当たる音符が、」
音楽教師は レ の音を弾く。
「この鍵盤、ということのようです」
「つまり、楽譜というのは、音を文字に表したモノなのですね?」
「えぇ、それが的確な回答ですね。今の説明で理解するとは。流石はウル様です」
「では、先生。もしも、ピアノの鍵盤の音自体が、他のピアノと異なる音を奏でた場合、違う曲になってしまうのではないですか?」
「そうなりますね。ですが、ピアノに関しては調律師という仕事があります。その者がピアノの鍵盤の音、1つ1つを同じ音になるよう、調律しています」
「それは存じております」
ウル王女は一瞬だけ困惑した表情を浮かべる。
「ですが、その調律はこの世界での基準、ですよね?」
その質問の意図に気付いた音楽教師は目を丸くする。
「なるほど。流石は、ウル様ですね」
ウル王女に指摘された音楽教師は、すぐさま師匠である音楽家に連絡をとった。
音楽家も驚きつつ、報告書としてドラグ国王へ提出した。
「……なるほど。たしかに違和感はあった、かもしれない」
テラでの音階と、こちらでの音階、それ自体が異なる。
だから同じ曲にはならない。
ドラグ国王からの使者の説明にガブリエルは納得したものの、だからといって今のピアノの音との違いはハッキリとは解っていない。
「それこそ、自分ではなく、あの時の少女の出番じゃないかな?」
音楽教師から説明されたアイは、ただただ、意味が解らなくて愕然とした。
次から幼女側へ話が戻ります。




