耳に逆らう 10
結局、ドラグ国王は全ての判断を部下に投げた。
部下と言っても、ウル王女の護衛を兼任している2人の父親だったので、それは上手いこと処理をした。
ウル王女とは距離を置かせたかったので、市井の集合住宅の一室をアイに貸すことにした。
ウル王女のお願いと監視の意味から、アイのためにメイドを1人配属させた。
登下校には学園が巡回馬車を出しているので、停留所までメイドを迎えに来させた。
外出時には必ずメイドを護衛として付けさせた。
こうして学園での生活が3ヶ月を過ぎる頃。
選択科目の1つ『音楽』にて。
宮廷舞踊の流行曲として教師がピアノで演奏をしていた。
この国での宮廷舞踊曲は純愛をイメージしているとされている。
「違う!」
ウル王女の隣に座っていたアイが、突如、教師に向かって声を荒げた。
誰もが驚き、一斉にアイを見る。教師ですら演奏の手を止めてしまった。
しっとりしていた教室はアイの独壇場と化す。
「この曲は、純愛を歌ったモノではないわ! 本来の曲は、悲恋の末に死に別れた懺悔の曲で……フラットとか、もっと沢山、使わないと……つまり、曲調が変なのよ! 先生、この曲の原曲で演奏してください!」
教師は驚きすぎて何も言えなかった。
というのも、今演奏していたモノが原曲だし、そもそも編曲という概念が無い。だからアイの言っている意味が理解できなかった。
だが、編曲という概念がなくとも、演奏者によってイメージが変わることはある。
ウル王女はそのことを念頭に置きつつ、アイに優しく語り掛ける。
「……ねぇ、アイ。私には、貴方のおっしゃっていることが解らないわ」
ウル王女の指摘にアイは逆に驚く。
「この曲は、私たち、初めて聴いたわ。ゆったりとしていて、殿方と踊る分には、ちょうど良くて優しい音だと感じたわ。どんな演奏者でも音は同じよ? きっと似たような演奏になるでしょう。とても懺悔の曲には思えないわ」
「この曲は、転生者の方が書いたと聞きましたよ。アイさん」
事情を悟った教師はアイにそう言った。
「貴方の魂は、その転生者の方と同じ世界からいらしたのかもしれないですね」
「ウル、私、この曲を作った人に会いたいわ!」
「うん、言うと思ったわ!」
放課後、アイはウル王女に直談判をしに来ていた。護衛の2人は溜息をつくだけ。
—— こんな些細なことが、まさか世界中を巻き込む事件になるとは、まだ誰も知らないでいた。




