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とわのゆりかご  作者: 葉月雷音
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耳に逆らう 01

新章開始ですが、更新のペースは週に1話up(日曜or月曜)に戻します。

新章も全て書き終えたら週に2話up(日曜&月曜)にしたいと思います。

 今年も王城近郊のコロシアムで5回目の騎士の大会の開催が近づいてきた頃。



 ガブリエルという青年は、1週間前から始まったばかりの新生活に浮かれながらも、早起きして希少な仕事道具の手入れを入念に行っていた。


 5年前、異世界名『テラ』から転生者としてやってきたフランス人のガブリエルは、日本国で作られたボーカロイドというジャンルの曲が好きで、テラに居た時は良く聞いていた。若かりし頃、自分で曲を作ろうと試みたが挫折したこともある。

 ドラグ王国に転生してからは言語の習得で苦戦したものの、今では日常会話なら出来るようになったので、特別都市ベルソデニテの中央区にある転生者の寮で一人暮らしを始めることになった。


 元々は獣医師を目指していた学生だったこともあり、冒険者ギルドに登録し、馬車の馬や魔獣使いの魔獣などの健康状態を確認し、時には切開して治療する仕事に就いた。


 本来であれば、獣医師の資格がない者が治療行為をしてはならない。

 だが、この国にはそのような規則はなく、むしろ病や怪我で死ぬことを素直に受け入れてしまうお国柄のようだった。


 目の前で苦しんでいる仔馬が居ても、誰も手助けするどころか、邪魔にならない場所に移した後は放置されてしまう。

 そんな光景が日常茶飯事だったので、見ていられなくなったガブリエルは言語の習得を頑張り、異世界の獣医師として知名度をあげつつあった。


 しかし、時には失敗して殺してしまうこともあったが、この国の人柄なのか、誰もがガブリエルに対して失敗ではなく天命だったのだと慰めてくれた。


 だから、ガブリエルは前向きにこの国で生きていく決意をした。




 今日もそんな日になるだろうと冒険者ギルドへ行くと、ガブリエルを待っていたらしい受付嬢に緊急の指名依頼を押し付けられた。


 可愛い受付嬢の顔を立てるため、ガブリエルは指定された屋敷へと出向く。


 屋敷で待っていたのはアークと名乗る青年で、保護したばかりの魔獣を診て欲しい、とのこと。



 急ぎ足で案内された小屋の中では、何故か互いに怯える人間と魔獣が部屋の端と端で牽制し合っている。


「これ、どういう状態?」

「解ったら苦労しないよ」


 ガブリエルの質問にアークは溜息をつく。


「魔獣は数日前に保護したばかり。で、あの人間は()()()()()()()()()の1人」



 引き籠り転生者が多すぎる事に困ったドラグ王国は、第一王子が魔獣を保護した時に、その魔獣と強制的に会わせ、世話させることにした。

 とはいえ、保護してきたばかりの魔獣は暴れることもあるし、人慣れしていないこともある。

 だから人の言葉をある程度、理解できそうな魔獣に限定することにした。


 もっとも、言葉すら覚えようとしない引き籠り転生者は、魔獣と出会わせただけで大半の者が卒倒してしまう。

 もちろん、中には驚いた魔獣に襲われる者も居ないわけではなかった。


 だが、魔獣の存在を知ることで命の危険を感じるのか、言語の習得に真面目に取り組んでくれるようになる者が増えた。



 アークの一言でガブリエルはすぐに制度の内容を思い出し、相手も同じ転生者なのだろうと察した。

 となると、青年のアークは偽名で、本来は第一王子様(プリンス)なのかもしれない。


 が、今は目の前の魔獣に集中すべき。



 しかし現状、この転生者と魔獣、どちらが悪いのかが全く解らない。


 人間の手には果物ナイフ。それで傷付けられたのか、魔獣の毛が一部、床に落ちていた。

 一方、魔獣の足には鋭い爪。それで人間の真っ黒の髪の毛がバッサリ切られて落ちている。


『にげちゃだめだ、にげちゃだめだ、にげちゃだめだ、……』


「ん?」


 ガブリエルは人間を向いた。そしてそれが日本語であることに気付く。

 だが、ガブリエルは日本語をあまり知らない。曲の中の歌詞として耳にしていただけだから。


 なので、もしや英語なら通じるかと、アメリカの友人を思い出しながら全身でその友人を演じてみる。


『ヘイ! アー、ユー、ジャパニーズ?』


 もっとも、知的で大人しそうな外国人が、急に満面の笑み、且つオーバージェスチャーでこちらに問いかけてきたものだから、ふくよかな少年は更に大混乱し、驚愕しすぎて手にしていた果物ナイフをポロッと滑り落としている。


『へっ?! ええええ、えいごっ?! えーっと、……い、いえーす?』


 答えた後で、少年ははたと気付く。


『オーケー! マイ、フレンチ! ソウ、イングリッシュ、アンド、ジャパニーズ、すこーしだけ、ね』


『に、に、にほんごだあ!!』


 こうしてフランス人のガブリエルは、日本人とはいえ初めて同郷の者と出会ったのだった。




 ちょうどその頃。

 聖女キワに依頼された冒険者ナナシは、やっとの思いでドラグ王国まで戻って来られていた。


 本当であれば、依頼されてすぐ、真っ直ぐに王国まで来たかったところだが、マルチヨン連合国は広範囲かつ点在して領土を持っていたため、連合国から追放を言い渡されていたナナシは、突っ切る訳にもいかなかったので遠回りせざるをえなかった。


 瞬間移動が出来る魔法陣は、聖国アルルドネイカとマルチヨン連合国の間でしか使えない。

 聖女キワも、それを理解した上で旅賃は多めにナナシに渡してはいた。


 だが、天候が悪くて川が氾濫したり、他の長期的な依頼を持ち込まれたり、魔物の大暴走(スタンピード)で村が襲撃されたり、その復興に力を貸したり、それで金欠になったり。


 まるで、ナナシがドラグ王国に行くことを遮るように事件が舞い込んだ。



「ただ、なぁ」



 ナナシは大きな門を見上げる。


 ドラグ王国には辿り着けても、特別都市ベルソデニテには入れない。

 且つ、赤子が居るのは第一王子アークジアの敷地内。その小屋の周囲には魔獣も居る。


 アークジア王子に依頼内容を話すわけにはいかないが、他の伝手である冒険者ギルドは、アークジア王子の指示が無い限り特別都市ベルソデニテの転生者しか相手に出来ないことになっている。


 だから旅中、ずっとそれらしい理由を考えていた。

 だが、どれも現実的ではないし、あのアークジアを騙せそうにもない。


「困ったなぁ」


 ナナシはただただ、門を見上げることしかできなかった。

投稿予約をした後で、公開するエピソードの順番を大幅に見直しました。

時間軸が行ったり来たりすると読み手が大変なので(経験談)

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