臍を嚙む 18
ナナシから刀について語られたガウラは、ずっと違和感を抱いていた。
遠い遠い昔、鍔のない合口拵を見たことがあった、気がする。
カッコイイ!と感じた自分はコッソリとソレを持って帰った、気がする。
翌日、父親にソレを気付かれて返して来いと怒鳴られた、気がする。
だけど、その場所で火事があって結果的に返せなかった、ような気がする。
この記憶は、何だ。
そもそも、景色が今とは全く異なる。
真っ黒で硬そうな、土とは異なる地面。
灰色の、人間よりも大きくて長い柱が等間隔で並ぶ町。
家はどれも屋敷や教会くらい大きいし、家の中には希少な鉄の塊があちらこちらに散らばっている。
それなのに、造形物はどれも綺麗で華やか。
それをゴミと呼んで部屋に捨てている人間たち。
それを片付ける、笑顔の少女。
少女は、笑顔を貼り付けていた。
それが自分の役目だと言って。
だけど、次第に少女は無表情になっていった。
こんなはずじゃなかった、自分の家に帰りたい、そう言って。
——なら、帰ればいいじゃん。
それで、少女は家出した。
しばらくして、少女の住んでいた家で火事があった。
隣の家だった自分の家も火事で全焼し、飲んだくれの父親だけが残った。
まさか、これが生前の記憶——?
聖国アルルドネイカの聖女キワは、大天使への御祈り中、真後ろのマルチヨン連合国専用の魔法陣が使用されたことを察知した。
御祈りを辞めて顔を上げつつ、振り向かずに声をかける。
「貴方の復讐は完了したようですね」
「知恵の輪も消えたよ。勇者じゃなくなったから、国からも追放された」
相手はあっさりと答える。
「だから、ここに来られるのは今日が最後だと思って」
「いいえ」
聖女キワは即答し、振り返る。
「冒険者として、聖女キワが貴方に依頼を出します。その任務中、貴方には誰にも邪魔されないよう通達を致します」
「……ほほう。それで君の願いは叶う、と?」
「えぇ。大天使様から最後の神託が下されましたから」
相手は悩んだ末に訊ねる。
「報酬は?」
「私と一緒に死んで下さい」
「刀も一緒で良い?」
「構いません」
「惚れた弱みだなぁ」
「今更でしょう?」
「ま、どうせ任期の終わった勇者には死神が迎えに来るから、仕方ないよね」
「えぇ。私の場合は願いが叶えば、すぐにでもお迎えが来ることでしょう」
何せ通常の何十倍も聖女として居座り続けた。
大天使には、願いが叶うまで勇者を担うこと、と最初に条件を突き付けられていた。
「ドラグ王国から、最後の転生者を拉致してきて下さい」




