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とわのゆりかご  作者: 葉月雷音
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臍を嚙む 17

 この精霊が転生者という話しは以前にナナシから聞いたと思う。

 転生者は、だいたいが特殊なスキルを持っているか、以前の世界でのスキルが強化されてやってくるという。

 そして、この世界の人族には神々、又は大天使によって寿命が定められているという。


 この精霊の場合、この世界で寿命よりうんと若くして死んだ子供の記憶を集積するスキルがあり、それらが一定量たまると個性が生まれ、小さい脳で処理しきれなくなると分裂するらしい。


 他の個体からは老害だと言われていても、転生者の称号を持つのはリーダーの1体だけ。


 そのリーダー曰く、ここに居ない者を含めて精霊は54体いるが、もう何十日と幼い1体がどうしても見つからない、大きい方の人族にイタズラをしていたことを反省させるから返して欲しい、と言っているらしい。



「その幼い1体、もしかしたら孤児院で亡くなった子の記憶があるのかもね」

「だからオレの木刀を?」

「最初は皆のモノ、だったんでしょ? 途中で亡くなったら、どうしてソレを持っているんだ!ってならない?」


 孤児院で子供が死ぬ、なんてことは日常茶飯事だった。

 栄養失調はもちろんのこと、スラムでは人身売買のために人攫いに遭うこともあれば、外壁の穴から街に侵入した魔獣に食い殺されることもある。


「木刀に気付いたリーダーが、綺麗に修繕してから戻すよう言ってくれたらしい」

「確かに、違和感はあったが……」


「あと、本に挟んでいた葉っぱが無くなったことは?」

「……何度かあった気はします」


 でも、ガウラはあまり気にしなかった。

 というのも、葉っぱの代わりに花びら、その代わりに違う葉っぱ、その代わりに本より大きな葉っぱ、その代わりに……、という形で、挟んでいたモノが勝手に変わっていただけだから。

 なお、この世界の栞は貴族だけが所持していいモノとされているので、大概の一般国民は枯れかけの葉っぱを挟んでいる。


「一応、念のために聞くけど、君がその精霊を捕えている訳ではないよね?」

「いえ、そもそも、最初に土下座されるまで精霊なんて見たこともありませんでしたし」

「そうだよねぇ。どうしたものかな」


 アークジア王子は溜息をつきつつ、顔を上げたリーダーに身振り手振りで伝えてくれた。

 リーダーは顔色を悪くしたものの、他の個体とは違って怒ることはない。


「木刀に思い入れがありそうな故人に心当たりは?」


 心当たりはある——だが、


「——ない、ですね」


 ガウラは敢えて残念そうな素振りをした。




 アークジア王子と精霊たちが帰った後、ガウラは1人、寝袋に入りながら溜息をつく。



 ——きっと、マイカだ。


 気付いた時から、マイカはガウラの後ろを付いてきていた。

 正直、付いて来られるのは好きではない。だから何度か注意した。だが止めなかった。


 ガウラが木刀で素振りをした後は、必ず木刀で素振りをしようとする。

 だけど、ガウラの姿が見えなくなると慌てて付いてくる。

 狩りに行こうと誘われて準備すれば、マイカが付いてきてしまって護衛になってしまう。

 風呂に入ろうとして付いてきて、他の男子がマイカを引き留めてくれたこともある。


 はっきり言って、しつこかった。


 だが、一定の距離を保っていて、決してベタベタされる訳ではない。

 オレが落ち込んでいる時は、その距離を少しだけ詰めて近くに居てくれた。

 ケガをして動けなかった時は、何も言わずに読みかけの本を枕元に持ってきてくれた。



 マイカが精霊になっているとすれば、ここから飛び出してしまうのも解る気はする。


 ——やっと自由を手に入れたのだから。

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