臍を嚙む 16
そんな溜息をアークジア王子がついた翌日。
やっとナナシが2人を保護して特別都市ベルソデニテにやってくる。
「遅い!」
アークジア王子のナナシに向けた一言目はそれだった。
ナナシはヘラヘラと笑いながら頭をペコペコと下げ、しかしどこか嬉しそうに腰の刀を擦っている。
そんな態度にアークジア王子はキレ、2人を側近の騎士に引き渡すなり、ナナシの真ん前から飛び蹴りをする。ナナシも敢えてそれを受け止めるも、少し後退した隙にさっさと門を閉めて追い出してしまう。
「えっ?! ちょ、ほうしゅー、報酬はぁっ?!」
「上」
舌打ちしたアークジア王子は、金貨の詰まった袋を門の上に投げ飛ばす。
しばらくして、
「た、足りない……!!」
悲鳴のようなナナシの声が門の外から聞こえてくる。
アークジア王子は当然、とばかりに理由を伝える。
「寄り道しすぎ。あと時間かけすぎ。精霊たちがガウラに直接謝りたいと言っていたのに忘れたら困るってことで時間停止の魔法袋に収納したから、精霊たちが魔法袋の魔力に還元されないよう維持するの、すっごく苦労したんだけど? ボクも外に出られないし、禁術の被害者は増えるし。減額は当然でしょ?」
「ぐ、ぐぅ……」
「わかったらさっさと帰れ。あー、そうそう、ボクに来た依頼も、動けないのはナナシのせいですって連合国側にも聖国にも連絡はしたからね?」
「げげっ!」
「だって事実だもの。じゃ、そういうことだから」
アークジア王子はそう言って門を離れた。
ここまで戻って来る間、ガウラはずっと、考えていた。
ナナシは強かった。
夜な夜な、複数の盗賊に襲われても1人でキズつかずに退治してしまうほどに。
挙句に、道中でBランクの魔獣の群れに襲われても平然と対応していた。
返り討ちにして、こんがりと美味しいステーキにしてしまうほど炎の魔法にも長けていた。
だが、それらは勇者の力などではなく、ただの努力だという。
『勇者の称号があっても、戦闘力が上がる訳でも、何かを受け継がれる訳でもないんだよ』
『強いて言えば、この世界での役目を任命されて、最低限のスキルを与えられるだけ』
『その最低限のスキルだけでは、役目は全うできないかな。だから強くなった』
そのステーキを食しながらの会話は、数日前のことなのに懐かしく感じられた。
アークジア王子に護衛されながら赤子の家まで辿り着く。
ガウラはホッとしたのと同時に、ここが今の自分の居場所なのだと強く痛感させられた。
ドアを開け、アークジア王子は机の上にある魔法袋に手をかける。
そしてそのままひっくり返して中身を振り、出した。
一気に精霊たちが飛び出してくる。
中には目を回して机に不時着する者、他の精霊に足場にされている者なども居たが、概ね“やっと解放された!”という雰囲気がそこにはあった。
そして、少し大きめの個体のリーダーが、キョトンとするガウラの前で土下座した。お淑やかそうなもう1人も、それに倣って土下座する。
すると、それを見た精霊たちが互いの目を見合わせ、仕方なさそうに土下座し始める。
リーダーが何かを言っているのは解った。が、言葉が解らない。
「ナナシから聞いたけど、ここに来てすぐに木刀、消えていたんだって?」
アークジア王子の質問にガウラは頷き返す。
「あ、はい。いつの間にか戻ってきたので、まぁいいかなって」
「なるほどね。その木刀って、誰かから譲ってもらったモノ?」
「あー、確か、孤児院に居た時に、シスターがくれたモノです。皆で使いなさいって」
「でも、今は君が持っている。それはなぜ?」
「オレが孤児院を出る時に、持って行って欲しいって皆に言われたんです。あの孤児院から騎士団に入れるのはきっとオレしか居ない、だから自分たちの代わりに持って行ってくれ、と」
「慕われていたのだねぇ」
「どう……ですかね? 自分では、よく解りません」
人柄は態度に出る。
アークジア王子はそう思いながらガウラを見つめた。
「今から言うことは、ボクの憶測でしかないから、間違っているかもしれない。だけど、おそらく精霊たちが土下座をしている理由でもある。聞いてくれるかい?」




