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とわのゆりかご  作者: 葉月雷音
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目をつむる 03

 この10日間、悩んでいたのはマイカだけではなかった。


 久々に休暇を頂いて市中に戻ってきたエドワードはフラリと酒場に入った。そこに呼びつけていたマリアを見つけ、向かいにドカリと座る。

 見た目は、どちらもフル装備の鎧の騎士にしか見えない。だが、マリアはその上にエプロンを着けていた。どちらも鎧を着ている訳ではなく、それを外皮とする異世界の種族だが、2人は修正するのも面倒だったので笑って誤魔化している。


 この酒場は、鎧を装着したまま入店できる、市中では数少ない中堅どころの店だった。

『その様子だと、今日も鑑定が出来なかったみたいね?』

 マリアはエドワードにしか通じない言語で話しかけた。



 エドワードが転生したのは11年前。マリアはその2年後に転生した。

 転生前、同じ世界、同じ国に居た者同士が偶然にも同じ国に転生した。そんな事例は聞いたことが無いと、今や親友の扱いをしてくれるドラグ国王も言っていた。


 もっとも、転生前のエドワードは王弟として、国王となった兄を支え続けた偉人だった。

 ところが兄弟ともに高齢となり、兄の息子が国王になると決定した翌年に世界規模で大飢饉が起きた。大飢饉は人災と伝えられていたために、責任をもって自ら死を選んだ。

 なお、マリアは大飢饉の罪を負うと決意したエドワードをわざとらしく血祭りにした善良の暗殺者(ヒーロー)だが、王族ほど長寿ではない一般国民だったので、しっかりと後始末をして5年後に寿命で死んでいる。


 転生者は、基本は死んでから召喚の儀で招かれる。そして神々(人によっては天使)の計らいで、本人が望む全盛期の年齢や容姿で蘇らせてくれる。そう神に教えてもらった。


 だが、最後の転生者は赤子だという。


 だから、エドワードから聞いた話しは些か信用できなかった。

 しかし、互いに自由となってからは冒険者として登録し、一時はパーティまで組んだ仲。エドワードは、言いたくないことは煙に巻いても決して嘘はつかないことを知っている。


『本当に、全く、なぁんにも解らないの?』

『……うーん』

『うーん、って』

『なんて言えば良いのか……』


 エドワードには超鑑定というスキルを持っている。転生前に持っていた鑑定が、転生時のボーナス付与で強化されたらしい。

 だからエドワードが鑑定スキルを使用すれば、たちまち色んなモノの情報が読み取れた。それは他人のステータスも同じ。名前、性別、健康状態などだけではなく、どんなスキルで、何番目の転生者で、今はどんな気分なのかも、視覚情報で文字や色、数値として得ることが出来る。

 そして、ステータスは升目になっているので、ここには名前が、ここには年齢が、ここには称号が書かれてある、と大体の位置は把握していた。

 赤子への鑑定でも、その升目は見えている。しかし、書かれている文字がヘビのようにグニャグニャで読み解けなかった。


 転生者が必ず覚えるモノの1つに翻訳の魔法があり、転生者がこの世界の言語を習得していけば、その転生者の転生前の言語を自動で翻訳してくれるようになる。つまり翻訳の魔法というのは、今までこの国に招かれた転生者の言語と照会して翻訳してくれる優れモノ。

 しかし、それを使用しても、赤子の文字らしき文字は翻訳できなかった。


 そして、エドワードにはそれを上手く説明する言葉が出てこなかった。

 半球に針が刺さったような文字、縦線に絡みつく丸の書きかけのような文字、かと思えば、直線と直角で四角をいっぱい並べたような文字まで、実に様々だったのだから。


『文字が書かれてあるのは解るが、1つも読めないんだ』

『翻訳できないってこと?』

『そう』

 簡単な話なのに、解らないの? 数回ほど瞬きしたマリアは答える。

『それって、今までに居なかった異世界からの、初の転生者ってことでしょう?』


 ――そんなことは解っている。


 思わずエドワードはイラッとした。エドワードは無表情を貫いたつもりだったが、マリアはその微細な表情の変化を見て満足したので、もっとも簡単な解決策を授ける。


『だったら、その文字を絵にしてみたら?』


『……うん?』

 最初にイラッとした影響でエドワードは言葉を聞き洩らした。が、マリアは再度、答える。


『だから、その読めない文字を、絵だと思って書き写してみたら?』

『それで、書き写した絵を誰に見せるんだ?』

『転生者に。ほら、私たちの転生前の国にも、敵国があったでしょう? 敵国の文字は独特だったじゃない?』


 エドワードは知らないが、マリアは敵国と文通していたことがある。敵国は独自の言語を使っていたので、マリアはほぼ独学で覚えた。

 もちろん、エドワードはマリアへの鑑定も行ったことがある。そこにあったのはエドワードと同じ母国の文字だった。しかし、マリアは未だに敵国の文字を、言語を覚えていた。


 マリアの一言でエドワードもそのことに気付いた。と同時に、マリアの言う鑑定した絵のことを鑑定図といい、母国では敵国の捕虜を鑑定した時に使用されていたことまで思い出してしまう。

 どうして思い出さなかったのだろう、という自負もあり、思わずげんなりとした表情でエドワードは溜息をついた。


『君は敵国と文通でもしていたのか?』

『さあ、どうでしょう?』


 今となっては過去のこと。

 それでも、掘り返されたくないマリアはウフフと微笑んで誤魔化しておいた。


お読みくださり、ありがとうございます。

続きは明日11/28に更新予定です。

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