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とわのゆりかご  作者: 葉月雷音
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臍を噛む 14

 ガウラと赤子は森の中に居た。

 それも、恐らくは王子の敷地の中ではなく、遠い場所の。


 厄介だったのは、近くにオークの村があったこと。

 それも、村はいくつも点在している挙句に2人を囲うように配置されていた。

 そのため、身を隠すのに適したとはいえない、入口がやけに広めの、天然の岩室に身を潜める他なかった。



 異変に気付いたのは3日後、恐らく正午過ぎ。


 オークとは異なる、2本脚の何かがこちらに向かって来る。

 さらに奥の隙間に身体をねじ込み、集めておいた岩で隠しておく。


 気配を極限まで絶つも、岩室に入って来られてしまっては、もう逃げ場はない。


 真剣に手をかける。


「おー、いた、いた」


 それは言語だった。

 ヒョイッとこちらを覗き込んだのは、人族らしき目。


「アークに頼まれて探しに来たよ。もう大丈夫。こっちにおいで」


 空腹で眩暈がしていたガウラだったが、それでも警戒して、岩室のさらに奥の隙間から這い出てみる。

 そこには、ランプを手にした少年、ただ1人だけがそこに立っていた。




 少年に名は無い。だからナナシと呼ばせている。


 マルチヨン連合国という、人族が治める国があった。

 元々は分裂した5つの国だったらしいが、大天使のたった一言で連合国という形になったのだという。

 その言葉が何だったのか——それは一部の者しか知らない。


 ナナシはその国で生まれた孤児で、人族で唯一無二の勇者だった。




「それにしても、悲惨だったねー」

 アークジア王子に話し方は似ていたが、ナナシには優しさが籠っていた。


 ガウラの手を優しく引っ張って隙間から出てくるのを手伝ってくれたし、赤子の様子を見て真っ先に水筒の水を飲ませてくれた。

 そして今も、赤子には携帯離乳食を、ガウラには保存食の干し肉を魔法袋から出してくれている。


「君たちの家に居た人形(アレ)は、転生者の内の1人で精霊だったみたいだよ。アークが精霊王と呼ばれているのは精霊と会話が出来るから、なんだけど、あの精霊だけは会話が難しくてね。しかも、分裂して個性を持ってしまうくせに、数日と立たずに知識が消えてしまうから、ぶっちゃけ街中に居てもイタズラばかりで酷い目に遭う。だから、結界であの屋敷の周辺に閉じ込めた。小屋に住むことは許可したけど、イタズラはダメっていうルールだったんだけど」


「そういえば、最初に練習用の木刀が消えていました。戻ってきましたけど」

「まぁ、イタズラだよね」


「朝、目が覚めたら、精霊が2人、土下座していました。でも、何を話しているのか解らなくて。首を傾げていたら、急にもう1人がオレも土下座しろ、と魔法を使ってきたんです。イラッとしたので、無理矢理、その3人を魔法袋の中に放り込みました」

「ああー、なるほど、なるほど! それなら納得だよ!」


 ナナシは1人でお腹を抱えて笑った後、魔法で創られた白い鳥を岩室の外に向けて放っていた。




 白い鳥、もとい魔法の手紙を執務室で受け取ったアークジア王子は、その足でマリアと共に赤子の家へと向かった。


 ここ数日間、精霊たちは全く暴れていない。

 というのも、暴れていた精霊たちはどれもアークジア王子の知らない個体だった。

 それらは老害と思っていたリーダーが消えたと勘違いし、誰がリーダーを担うかで揉めていた。


 だが、精霊王の異名を持つアークジア王子が威圧したことと、リーダーが口酸っぱく言っていた内容——ここでイタズラしたら死神が来る——が事実であったことを知り、すっかり萎縮してしまっていた。


 なお、精霊には食事が要らない。

 勝手に持って行った干し肉や果物は人の頭上に落としてぐちゃぐちゃにして楽しんでいた。

 その報告を聞いていたマリアは、精霊たちが犯人と知るや否や、激怒したことで更に精霊たちが萎縮したことは言うまでもない。


 ——今日も怒られる。


 精霊たちは固唾を飲んで見守るが、アークジア王子は気にも留めずに端にあった魔法袋へと手を伸ばす。

 魔法袋を逆さにすれば、立派なキャベツと共に4人の精霊が転がり落ちてきた。


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