臍を噛む 13
龍に気付いてから8日後の早朝。
不意にガウラが異変を察知して目を覚ますと、赤子が声を発していることに気付いた。
寝袋をバッと剥いだガウラは、一緒に寝ていた真剣を寝袋から引き抜きながらも、急いで赤子のベビーベッドに目を向ける。
「あー! あー!」
赤子の悲鳴のような声。何かがあったことは間違いない。
しかし、何故か真剣の鞘に寝袋が絡まって抜けそうにない。
寝相はそこまで悪くもないはずだが。
「ふんっ!」
面倒になったガウラは抜くのを諦め、寝袋を鞘に絡め、半ば引きずったまま赤子の元へ向かった。
ベビーベッドの縁に、3つの小さな人形が困った表情で座っていた。
ガウラが一気に近づいたことで、驚いたのだろう、1つはコロンッと背中から落下していってしまう。
が、もう2つの人形はガウラを見て動き出す。
なんと、ガウラに向かって土下座をしていた。
アークジア王子がマリアの速達を受け取り、慌てて赤子の家に来られたのは、その日の夕方だった。
なお、ミリアと清掃ギルド長のマリアも同伴している。
「な、なんてこと……」
マリアが絶句していたのは、食材が全て中途半端に食い荒らされていたためだ。
家の天井にイスがぶら下がっているのは、ミリアがジャンプして引っ張ったがビクともしない。
「まぁ、こうなるよねぇ」
平然としていたのはアークジア王子だけだった。
ここに居るのは精霊だった。
それも、ただの精霊ではない。
以前の転生者の中に精霊がいて、その精霊が分裂し、個性を持った存在が、彼らだった。
彼らは残念なことに意思疎通が非常に難しく、知能もそこまで良いとは言えず。
こちらの言語の指導ですら挫折するしかなかった、という背景がある。
アークジア王子は目の前に飛んできた1匹を素手で捕まえた。
「ねぇ、ここにいた大きい方の人間、どこに攫ったのかな?」
——誰が答えるものか!
「あっそ。じゃぁ、消えてくれる?」
言い終わる前に、アークジア王子は手で握り潰した。
それを見ていた者から次第に話しが広がっていく。
最終的には誰もが手を止め、羽を止め、アークジア王子を見つめていた。
「ここの中ではイラズラ禁止。そう約束したから住まわせてあげたんだよ?
——どうして約束、破ったのかな?」
アークジア王子がニコリと嗤う。
だが、この中では最も強いであろうマリアですらも、恐怖で背筋を凍らせていた。
「——まずは、どこに住人を送ったのか、教えてくれないかな?」




