臍を嚙む 12
魔獣は首を垂れ、赤子の匂いをクンクンと嗅いだ。
流石に騎士をやっていたガウラでも、ここまで大きな魔獣の個体は見たことが無かった。
それだけに、下手に動けば食われる——と思って動けない。
だが、警戒はしているものの、敵意は全く感じられない。そこだけは唯一の救いだった。
赤子はしばらく魔獣を見つめていたが、やがてガウラの腕を2度、叩いた。
そして家を指す。
ガウラは一瞬だけ赤子を見るも、赤子はほぼ初めて、ガウラに対して微笑んだ。
この魔獣は大丈夫——そう言われたような気がした。
それでも、ガウラは騎士。何かが起きてからでは困る。
魔獣に背を向けないよう、そろり、そろりと後ずさりをする。
やがて魔獣がそこから動いていないことに気付き、背後を警戒しつつも、一気に家に走って戻った。
「ふぅ」
と一息つくも、赤子はまたもガウラの腕を2度叩く。
今度はなんだ、と赤子の指す先を見れば、大きなキャベツに大きめの穴が空いている。
あんな穴、空いていただろうか?
ガウラが近づけば、赤子はそのキャベツの穴を両手で塞いだ。
なるほど、まだキャベツの穴の中に何かが居るのか。
以前、清掃ギルド長のマリアが、万が一の時に使いなさい、と持ってきた魔法袋を思い出す。
魔法袋と言っても、種類は豊富で、質も値段もピンからキリまで存在する。
その魔法袋がどういう効果か。
ガウラは説明されたものの、あの時は使うことはないだろうと思っていて、正直あまり聞いてはいなかったので、覚えてもいなかった。
しかし、とりあえずそのキャベツを魔法袋に入れておいた。
赤子はまたも、ガウラの腕を2度、叩こうとしたらしい。
が、実は赤子、結構な力があって、毎回叩かれるのも、かなり痛かった。
そのため、叩かれると察したガウラはその手を握ると、赤子は驚いてガウラを見上げた。
「次は、なんだ?」
そう言いながらも赤子の柔らかい指をその形にしてやれば、赤子は察したのかアレ!と指す。
それは沢山の果物だった。
そして、ドアを指す。
「あの魔獣に、あの果物をあげろって?」
とはいえ、言葉は通じない。赤子は首を傾げた。
ガウラが空きの麻袋に果物を入れて魔獣の前に置くと、魔獣は最初こそ驚いていたものの、匂いを嗅いでから、お上品に食べ始めた。
そして気付いたのは、その魔獣に首輪がしてあったことと、この魔獣の尾とその付け根に鱗があったこと。
「お前、ただの魔獣じゃなくって、龍族か?」
「グルッ」
このドラグ王国には龍族が多い。
その龍族は、大半が人族と同じ大きさで生まれ、同じような速度で成長するが、稀に先祖返りして龍として生きる者も居るらしい。
そして、その龍は大概、こちらの言葉を理解しているし、他の龍族と同じように上品で、鱗が汚れることは好きではないらしい。
「グルッ、グルルッ」
「ん? あぁ、やるからいいよ」
龍は食べ終えたのか、麻袋を器用にも牙で丁寧に畳んでくれた。
クワッと欠伸をして、その場に丸くなる。
どうやらこの龍がここに居るおかげで魔獣たちが出て来られないらしい、とガウラが気付いたのは、その数日後だった。
臍を嚙む、全20話、書き終えましたので、投稿ペースを少し早めます。




