臍を噛む 10
その日から、ガウラは呆然とし始めた。
夜はなかなか寝つけず、赤子の朝食時にも起きられず。
昼くらいに起きては、赤子を外に連れ出してくれた。
だが、家のすぐ外に置かれ、散歩には行かない。
ガウラはただ、その近くで木刀を揮うだけ。
そんなガウラの態度が1週間も続いたことにキレたのは、屋敷の案内をしたメイドのミリアだった。
「起きなさい! この弱虫ヤロウ!!」
赤子の離乳食をあげた後、その足元の寝袋を剥ぎ取り、ガウラを寝袋から振るい落とす。
その力強さ、行動、罵声、全ての行為に驚いたガウラは目を白黒させていた。
なお、メイドにとって迷惑だったのは、何も朝の時間帯に起きてこないことではない。
赤子を座らせているベビーチェアのすぐ足元に寝袋を敷いていたことが最大の要因だった。
何せ、赤子はまだ離乳食、しかも上手く食べられる方ではあるが、まだまだ下に零してしまう。
当然だが、寝袋の上にも落ちる。
しかし、ガウラがその中で寝ているため、床の上すら掃除が出来ない。
つまりは、非常にガウラ自体が邪魔だった。
「ちょぉっと上司に怒られたくらいで、なに職務放棄しているのですか!」
「職務放棄って……」
「確かに? 赤子の護衛は出来ていますけど? 食材、半分も盗まれているんですけどねえ?!」
「……えっ」
メイドの言葉でガウラの目は一気に覚めた。
食材は、朝にメイドがまとめて3食分を持ってくる。夜に余れば、翌朝に持ってくる量を調整する。
そして、その3食分にはガウラの分も含まれていた。
昨日は肉があったので、メイドは離乳食にも少しだけ肉を混ぜたという。残った分は、メイドが軽く調理をしてくれた物をガウラは頂いていた。
それでも多少は残っていたので、メイドが干し肉にするために塩漬けし、干してくれていたはず。
その干し肉が、忽然と消えていた。
さらに果物も少ない、気がする。
「だが、侵入者は居ないぞ? 魔獣だってリビングに来た形跡はない。足跡も羽根も残さず、一体どうやって盗んでいったんだ?」
「あのねぇ、そのための貴方でしょ? しっかりしなさい!」
全くもって、その通り。
ガウラは何も言えなかった。
オムツの交換はしていたものの、それ以外はずっと赤子を放置していたからか、赤子はムスッとした表情でガウラを見つめた。
赤子でもいじけるのか、などと思いながらガウラは抱っこしようとしたが、赤子はそれに応じなかった。
だが、ガウラは嫌がる赤子を力付くで抱き上げる。
赤子は大層に機嫌を損ねていて、ガウラの指に思い切り噛みついた。
「いってぇ! こいつ、なんてことしやがる!」
だが、悪いのはガウラである。
たかが赤子の噛む力など、と侮るなかれ。拒絶の場合では、歯形が残るほどの力はある。
それでも、ガウラは赤子を落とさなかったし、戻しそうにもない。
赤子は諦めた表情で、しかし、ガウラのことは睨みつけていた。
「それにしても、本当に泣かないんだな、お前は」
ガウラは話しかけるも、赤子には言葉が通じていない。
「ごめんな、放っておいて」
優しく言っても通じないというのに。
それでも、ガウラの表情から察した赤子は、溜息1つで許してあげることにした。




