臍を嚙む 09
ガウラは唖然として言葉にならない。
それを庇うように、鑑定士エドワードが口を開く。
「ああ見えて、ダグダはBランク冒険者で、パーティではタンクを担っていた。ダグダに抵抗した痕跡はないし、タンクにしては綺麗な体のままだった。つまり、ダグダの直接的な死因はガウラの所為ではない。それは解っている」
「でもあの時、その生まれたての赤子を殺したことが良くなかった。生まれたての赤子と母体は、まだ魔力で繋がっている。数時間経たないと魔力の繋がりが切れないから、片方が死んでしまうと、もう片方もショック死してしまう場合があってね?」
アークジア王子に告げられた衝撃的な真実にガウラは目を丸くした。
「あのパーティに鑑定士は居ないし、ダグダは独り身だから、まぁバレることは無いと思うけどね? そもそも、親族でも知人でもない出産に立ち会うなんて確率、相当低いだろうから、知らなかったとしても仕方ないとはボクも思う。だけど、真実を知った時、パーティはどう思うだろうね?」
冒険者のタンクは希少だ。何せ低レベルの間は、防御し続けて痛い思いをしながら殴り殺すよりも、数や威力など遥かに上回る攻撃で圧倒してしまった方が、ポーションや装備などの費用を浮かせることが出来るから。
だが、魔物が同レベルになってくるとギリギリの戦いになり、やがて大きな壁が立ち塞がる。
弱い魔物を圧倒し続けて低所得のままいくか、強い魔物に挑戦して高所得を狙うか。
高所得の場合は、冒険者の命を賭けることになる。そこでタンクやヒーラーの出番になるが、高レベルの魔物に耐えられるほどのタンクは、低レベルの内は邪魔者扱いされるので、タンクとして育つ前に冒険者を辞めていることが多い。
だから、ダグダの死亡はパーティにとって痛手だろう。場合によっては、パーティの解散に至ることもあると聞く。
とはいえ、ガウラがダグダの代わりにタンクをやれるか、と言えば否で。
あの時、そのことを知っていたら悍ましい姿の赤子を殺さずにいただろうか。
だが、あそこで殺していなかったら、あの赤子はダグダを食していた気がする。
しかし、それはオレが勘違いしただけで、本当はダグダの身体に触れたかっただけかもしれない。
あの時、ダグダは自らの死すらも既に受け入れていたのかもしれない。
どうして、もっと視野を広く持てなかったのだろう。
どうして、いつも大事な時に判断を間違うのだろう。
どうして、何も考えられなくなってしまうのだろう。
他人の言葉すらスルーしているガウラを放置して、アークジア王子とエドワード、そしてメイド2人は、心配そうにガウラを振り返りつつ、赤子の家を後にした。
シーンとする家に残されたのは、ガウラと赤子だけ。
「うー?」
赤子は心配そうにガウラを見つめたが、ガウラはリビングに座ったまま、メイドが出してくれた温かい紅茶がすっかり冷めてしまっても、それにも手を付けず、ただただ悩み続けるのだった。
ダグダは恐らく胎児の影響で魔物化しつつあった。更に生まれた赤子はオークの子。
だから、2人を殺しても罪には問えない。
ダグダのことも、パーティことも、知らなかったのだから仕方ない。
だけど、教えておかないと困るのはガウラなので、教えに行った。
林を抜けたあたりで、鑑定士エドワードはアークジア王子に問う。
「王子は、ガウラを市井に戻すおつもりですか?」
「いや、全然」
「では何故……?」
「んー。禁術の研究成果が先に出来れば、ガウラを男に戻して第二騎士団に返すつもりだよ? だけど、今後も第二騎士団はガウラを素直に受け入れるとは思えないのだよね、ボクは」
「ということは、自ら市井に戻り、冒険者になる可能性が高い、と?」
「ま、そういうこと。でも、今のところ禁術の解明にも至れていないし、ガウラが老体になってから、になる気がするからねぇ。それだと奴隷という身分が外れなくて可哀そうだから、妹のウルが大きくなって護衛が必要になった時、ガウラを送ってあげても良いかなって」
最初こそ悩んでいたアークジア王子だが、後半はさらりと答えつつも、なぜか失笑する。
「ガウラもウルも、ボクでは解らない、出産することが可能な“女”だからね。今回の知識、もし大人になったウルに何かが起きても、近くに王族が不在だったとしても、ガウラならば護衛として正しい判断を下せるだろう? ガウラが何を悩んでいるのか解らないけど、ボクは二度と同じことをするな、と注意しに行っただけだよ」




