臍を嚙む 04
「あの子、魔力がないよ?」
最初に気付いたのは、召喚から半年ほど経ち、少しだけ勉強を頑張ったイザーク王子だった。
ウル王女がすくすくと成長し、初めて魔力を放出し始めた時に、不意にイザーク王子が発言したことから事態は動き出す。
通常、転生者であっても、この世界の食料を口にすれば魔力を宿すようになる。蓄えられる器に差異はあれども、食した直後くらいは勝手に体から魔力が放出されるように出来ている。
だが、あの赤子にはそれが皆無だった。
異常に気付いたエルマ女王は高位の魔術師や医療班などを呼んだが、誰もが頭を横に振り解決には至らなかった。
だが、様々な転生者の鑑定を行ってきたエドワード鑑定士は“最悪な事態”を口にする。
「神呪があるのかもしれないです」
神呪は、その文字通り、神の呪い。
転生者の中には、その神呪を持っている者が数名ほど居た。
だいたいは、強力な能力と引き換えに、強力な代償を支払う内容になっている。
「赤子は私よりも強力な鑑定スキルを持っています。もしかしたら、その代償で魔力を宿せないのかもしれません」
「その前提でいくと、」
そう言い出したのは、それから3ヶ月ほど経って、様子を見に来たアークジア王子だった。
「エルフ族は魔力を消費することで肉体を成長させるのだから、魔力を宿せないエルフ族だったら成長しないよねぇ?」
アークジア王子の見解通り、それから1年が過ぎても、赤子は成長する兆しが全くなかった。
幸か不幸か、病気しがちのウル王女よりも健康だったことから、赤子は王城からアークジアの屋敷に移送されることになった。
そして清掃ギルドの中堅メイドが交代でお世話をしていたが、その隙を見計らっているのか、赤子の離乳食用に準備した野菜が盗難に遭っているという。
しかし、メイドの大半は戦えない。
それに、たかが食料程度でメイドの命を奪われたら困る。
「それで、自分か」
マリアの説明から、この家に住込みで赤子の護衛を担うことが任務だと、ガウラはすぐに察した。
「えぇ、その通りです。赤子の食事の面倒は、今まで通り交代でメイドが見に来ます。申し訳ございませんが、オシメだけは今すぐ、出来るように指導させていただきます。何せ、離乳食が始まってからは量も頻度も多いため、元々のメイドだけでは手が足りておりませんでしたから。また、メイドでは護衛が難しかったため、赤子には窓から外を覗かせることしか出来ておりません。出来れば外の世界を見せて差し上げて下さい」
ガウラは首を傾げる。
「しかし、ここは塀の中でしょう?」
「そうお思いでしたら、野菜が盗難に遭っている理由をご説明できますでしょうか?」
「……出来ないですね」
「もう1つ申し上げますと、先ほどの林の中には魔獣や魔物が放し飼いされております」
「それらが犯人という可能性は?」
「十分にありえます。また、たまにこの家に勝手に上がり込む魔獣も居るそうです。元々、この家はアークジア王子が拾ってきた魔獣や魔物を治療するために利用していた場所ですから」
うーん。
ガウラは思わず唸る。
魔獣は、動物が瘴気で変質した生き物。魔物は、瘴気に満ちた魔界から生まれた物。
どちらも人間を襲ってくることに大差はない。
アークジア王子は他者に対して非道極まりない行動を起こしているにも関わらず、魔獣や魔物は助けている。そのことが腑に落ちなかった。
「何でそんな危険な奴らを、あの王子はペットにしているのです?」
「傷ついて親に捨てられた子を保護していたようです。なんでも、生態の研究のためだとか。滅多なことでは人前には姿を見せないようですが、この赤子は興味を惹かれる存在のようですね」
「それだと、王子が拾ってきた仲間だと思っているのでは?」
「えぇ、間違いなくそう思っているでしょう。そして王子自身も、赤子に対してそう感じているのだと思われます」
―― うわ、超めんどくせぇ。
ガウラは言いかけたが、マリアの表情から心情を察して溜息だけに留めておいた。




