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「ごめんなさいっ!」
この場の空気に耐えきれなくなったのか、彼女は一心不乱に特別教室から飛び出して行った。
「おい、ちょ!」
俺としてはもう少し詳しい話が聞きたかったので、慌てて彼女を呼び止める。
しかし、彼女の逃げ足は早く、俺が教室の入り口から顔を出した時には、廊下の向こうに彼女の長いさらさらの黒髪が靡いて消えていくのが見えた。
「まじかよ……」
なすすべもなくその場に立ち尽くす俺。
新になんて報告しよう。いやその前に、彼女が「清四郎さん」と呟いたことを、新であろうが誰かに伝えてもいいのだろうかと疑問が渦巻く。ああ、深入りするんじゃなかった。新よ、俺はとんでもないことを知ってしまったようだ。お前に伝えるには荷が重い。どうか許してくれ——と脳内で遺書まで書き始めたところで、俺の頭はフリーズした。
とにかく、今は羽鳥蘭にこれ以上事情を聞くことはできない。
これ以上の調査は諦めるしかないのかも。
俺は新へのお詫びの品に、200円のアイスよりも高いものを考え始めていた。