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「でもあながち間違いってわけでもなさそうだぜ。彼女、数学の時だけ明らかにテンパってる。もはや、早川に恋でもしてんじゃないかって疑ってるくらいだ」
「は……恋?」
今度はびくっと肩を揺らし、口に運びかけていたメロンソーダを持つ手を止めた。なんだ、そんなに驚くことなのか。
「まあこれは完全に想像だけどな。それぐらい、ミスはするし忘れ物はするし、“うわの空”状態だ。あの完璧でクールな羽鳥からは程遠く感じるな」
「それは俺も感じてたよ……でも、恋なんて……」
だめだ。新は羽鳥蘭が早川に恋をしているという仮説を完全に信じ切っていて、これ以上何を言っても聞く耳を持ちそうにない。
「お前が羽鳥蘭のことを調べてほしいって言ってきたのって、もしかして……」
俺の目を見て「ああああああ」と訳の分からない雄叫びを上げる新。そうか。そういうことか。まあいいと思うぞ。ライバルは数えきれないほどいるだろうがな。
「とにかく今度は本人に聞いてみるよ」
「本人!? 圭一、なかなかやるなあっ」
「まあね」
実のところ、この妙ちくりんな探偵ごっこが楽しくなっていた。高校生活なんて、部活をしていない俺にとって、ただ惰性で過ぎていく青春の一ページにすぎない。
そんな灰色の高校生活も嫌いではなかったが、たまにはこういう、いわゆる“青春”的な活動をしてもよろしかろう、と心の神様が俺に囁いたのだ。