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まず、朝学校に来た羽鳥蘭は、やはり教室の中をぐるぐると歩き回る。途中、教室の窓を開けて外を眺めているのか、5分ほどぼうっとしていることが多い。コの字型になっている校舎の二階がうちのクラスの教室だが、窓の向こうにはちょうど職員室が位置している。職員室の窓が開いていれば、先生の顔が見える。朝ならば目を凝らすと、先生がコーヒーを淹れて飲んでいるところまで視界に入ってくる。
羽鳥蘭は、職員室を見ているのか、はたまた単に外の風に当たりたいのか分からないが、ここ一週間ルーティンのように朝は窓の外を眺めていた。
さらに観察を続けると、興味深い結果が見えてきた。
普段は完璧少女の羽鳥蘭は、どの授業においてもここ数日ぼうっとしており、先生に当てられるとミスをする、ということを連発していた。だが、それが最も顕著だった授業がある。数学の授業だ。
「数学といえば、担任の授業だな」
「そうだ。早川の授業の時だけ、彼女の心拍数がたぶん、通常の二倍ほどに跳ね上がっている」
一週間の調査を終えた俺は、自動販売機で新に奢らせたコーラを片手に、ピロティに座り込んで彼に報告をしていた。ちなみに新はメロンソーダを飲んでいる。
「心拍数って、圭一、そんなことまで分かるの?」
「……いや。これはあくまで推論だ」
「なんだよそれ! 客観性に欠けるな」
コーラを奢らされた新は機嫌が悪いのか、ペッと唾でも吐き出しそうな勢いで顔を歪めた。