クリスマスSS アンオーソドックス キングオブ護児国
今回のあらすじ:本編セットに力が入ってました。
イテキバン戦争も終わって平和な時が流れた。南大陸のアブシン王国との国交も樹立してこれから大陸は平和な繁栄を享受するだろう。
だがその繁栄はまだまだ末端まで行き届いてはいない。そんな冬の日の話。
「もう何年こうしとるかの」と、木片金属片をゴチャゴチャと組み上げるアンビー。だかボヤキめいた言葉と裏腹に楽しそうだ。周りで部品を作るドワーフや城の若者も同じだ。
「今年からはだね。ホイもう一丁。聖女王様と組んでダキンドン内の孤児院を廻ってプレゼントを配り始めるんでだね、ホイもう一丁。今まで以上に数が要るんだ。おっと、ここバリ!子供の手を切っちゃうぞ!」「すみません!」若い工員が詫びる。私は組み上がった玩具の検品を手伝っている。
城では10の月(12月)30日つまり1年の終りの日、創世教でいう冬の礼拝が終わった後に子供達に玩具をプレゼントしている。礼拝の前には聖典に書かれた年の巡りと命の巡りについてのお芝居や合唱といった行事も行っている。
この世界にはクリスマスは無いが冬の祭はある。と言っても我が故郷のクリスマスも本来の意味より冬を過ごすためのヨーロッパの冬至の祭がキリスト教と合体した感はある。本来の聖誕は1年中諸説あり、12月25日というのは正にローマ帝国時代の冬至の日だ。クリスマスツリーもキリスト教ではなく北欧の伝統、生命の象徴だ。
なのでこの世界の冬の祭を何となくクリスマスっぽくして護児城ではイベント化したのだ。無論創世教信徒ではない私は礼拝自体にはノータッチだ。
これを見学したダキンドン国の女王であり創世教会認定の聖女、オーテンバーが感激した。
「是非私達の国にも広めたいですわー!」という訳でダキンドンからの研修生を招いて護児城の冬の礼拝の準備に参加して貰い、今年は例年の倍の玩具を作っていた。
「今日はこれ位にしよう。この分ならオーテンバー聖女王の依頼も確実にこなせる」
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城での冬の礼拝は今や三之丸駐在の司祭が恒例で行う様になった。演奏もテンポラ達が美しく歌い上げてくれる。城は任せた。初の試みとなるダキンドン領での冬の礼拝に私と玩具製造責任のアンビー、音楽指導のムジカとコマッツェ夫婦、教育指導のマギカ、子守り役のプリンが同伴して目的地の地方領へ向かった。オーティーも王国に寄贈した玩具と共に礼拝の数日前に貴族領に到着する予定で、王都の礼拝はテイソ卿が王女のメッセージを読み上げる予定だ。それでいいのか?聖女王の巡礼は毎度の事なのでいいんだろう。
私達は先行して現地の視察・評価のためパクス貴族領へ向かった。
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どうしてこうなった。
前日に到着する筈のオーティー、大陸縦線から西へ伸びる支線が吹雪のため運休だ。
おかしい、数日雲の動きを見た所年末年始は好天だった筈だ。
「聖女王様の手で行われる行幸礼拝が初回から見合わせとは、神の与えられた試練は大きい…」領の枢機卿が嘆く。
「わしらにとっちゃあオーティー様より子供らのガッカリする顔の方が心配じゃが。何か打つ手はないかの?」
「プランBだ!」コンチプランは21世紀のシステムにとって必須要件だぞ?!
「こんな事もあろうかと子供達へのプレゼントは空間魔法で確保してある。30人分大丈夫だ」
「しかし聖女王様自ら手渡しされる事こそ大事なのでは?」領主貴族が慌てる。
「子供達が大きくなった時、聖女王が間に合わなくてガッカリな思い出がいいのか、聖女王本人がいなくても代理人が約束を守ってくれた方がいいのか、どっちかな」「聖女王の偉業を鑑みれば」「子どもには?」「…後者です」
「さすおや」何その略語?
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どうしてこうなった。
「領都の北辺境クリヤ村の孤児院で疫病発生です。封鎖すべきか…」
「私が行きます!」普段言動が異常で不安定な爆弾娘マギカが毅然と宣言した「御屋形様ひどいです~!」
「アンビー、ここを頼めるか?」
「いえ、アンビーちゃんは御屋形様と一緒がいいと思います。コマッツェさん、ここをお願いできますか?」
「え?君が行くの?外はいつ吹雪になるか解らない。俺も行くよ」
「いえ、ここの礼拝は成功させなければ駄目よ、オーテンバー聖女王の未来がかかっています。私が行きます」
「ムジカ。君はコマッツェと二人で一つだ。ここで礼拝を成功させて欲しい」
「いえ、私達が二人なのは、二か所で一所懸命頑張れるためです!」80!
「ムジカ!一人より二人がいいさ!俺は君と行くぞ!」冬なのに暑いなあ。
「私も領内の孤児院に責任があります」と若い司祭が立ち上がった。私達はクリヤ村へ向かった。
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そこは貧しい村だった。オーティーの命で設けられた孤児院もまた貧しかった。司祭が巡回する聖堂と隣接する宿坊には暖房があったが孤児院には無かった。
10人近い子供達が文字通り身を寄せ合っていたが、疫病は…なかった。ただ、一人の少女が身籠り、出産を控えていた。医師の救いを求め、村民が方便を使ったのだ。この酷寒で不衛生な中、新生児の命が危ない。
マギカは早速お産の準備を始め、熱魔法で暖を取り湯を沸かした。
外が吹雪になった。子供達はお産の緊張と吹雪の音で不安になり、泣き始めた。
少女を妊娠させた少年は、何もできずにいた。指導者は何やってたんだ!って、ここは常駐の神職などいないか。親に捨てられ身を寄せ合って来た成人前の男女がこうなっても誰も文句は言えない。
「あんたはお父さんになるのよ!」文句言ってる奴居たー!マギカが準備を整えると、父となる少年に妻の解放や父の心得について説教かましてた。いいぞマギカもっとやれ!
「なあ御屋形様。みんな怖がっとんじゃろ?」
「ああ。やるか?」「まだおもちゃ持っとん?」「ないよ」「どうすんじゃあ?」
「ムジカ。コマッツェ。冬休み特別上映会やるぞ」
「御屋形様、宇宙の講義ですか?」「そう。プランCだ!」
いい加減この世の神はどんだけ私に面倒をかけるんだ?
私が他人に施していい気になっているのが気に食わないのか?だからか?
だが目の前には困った子供達が人質の様に突き出されいる。応じるしかない。
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「みなさーん!聖堂に集まって下さーい!年越しの礼拝を始めますよー!」
コマッツェの呼び声に続いてムジカはオルガンで聖典の音楽を奏でた。こんな寒村だ。オルガンはあるものの、普段の礼拝でも弾かれた事が無いオルガンが美しい音楽を響かせた。私は空気摩擦魔法で堂内の温度を上げた。子供達の顔が不安から徐々に安心したものに変わって行った。
そして冬の礼拝が始まった。
「天には栄え、地に命満つ、今ぞ巡りぬ緑の時」新年の喜びを朗らかに歌い上げるムジカの演奏に、子供達は声を上げて歌った。外の風吹に負けない元気だ。
歌が入った分長かった礼拝だが、普段聞く事の無い音楽に子供達は心奪われていた。
私は司祭と入れ替わり、
「これで冬の礼拝は終わります。今日は皆さんのために、小さい不思議な旅をお見せします」と挨拶した。
ムジカは演奏を始めた。優しく自然の豊かさを奏でた。故郷の日本でちょっと昔の博覧会で放送された音楽だ。
聖堂はゆっくり灯りを消し、替わって天井に青い空、壁に緑の木々が映った。
「うわー!空だ!夜なのに空だよ!」
聖堂の真ん中ではコマッツェとアンビーが光る箱を相手にモソモソしていた。
中心に強い光源、その周囲で色のついた半透明の紙細工をモソモソ動かすアンビーとコマッツェ。
これは立体幻灯機ともいうべき魔道具だ。
影絵と色紙で天井に光を写し、ちょっとした映画的な何かを楽しめるものだ。
「私達の住む大地。緑豊かな、動物も人間も、亜人も異種族も済む大地。そこに生きる命は、どこから来たのでしょうか」演奏しながらムジカが優しく語る。と、音楽がスタッカートの素早い曲に替わる。
緑の壁が空から見下ろした様に動いていき、そして視点は徐々に高空へ移る。樹々が小さくなり、川や町が見え、それも小さくなると、地平が丸くなってくる。
「うわー!」「空飛んでるの?」「飛んで無いよ!」「高ーい!」
私は鉄の棒を吊るした鉄琴を鉄の棒で弾き、キラキラした星の輝きを演出する。
アンビーが大地を模した緑の半透明紙をゆっくり丸め、コマッツェは青い半透明紙の上にゆっくり紺色の半透明紙を被せる。
「私達の大地は平らではありません。とても大きな玉なのです。それは遥か昔から、この星空に浮かぶ塵が、ゆっくり、ゆっくり。気の遠くなる様な、何万年、何百万年、何億年かけて集まり、固まり、ゆっくりゆっくり大きくなり…」紺色一色の中、白い光が一つ、二つ集まり、白く光るモヤとなっていく。それをアンビーが小さく固めると、光を放った。
「大きな岩となりました。そうして出来た岩と岩とが引き寄せ合って…」音楽は激しく、テンポの速い曲に替わる。そして白く光る岩と岩とがぶつかり、赤い炎が飛び散る!
そこに私は太鼓を強く叩く!
「キャーッ!」「すげえー!」女の子は怖がり、男の子は興奮する。
光る魔石の粉をストロー状の筒でフっと吹くと赤い光が広がり、岩と岩との激突に迫力を与えた。
ムジカの激しいオルガンに合わせ、太鼓でリズムを刻み、激しさを加える。あれだ、怪獣映画の曲だと思ったら実は博覧会用の音楽だったアレだ。
「無数の岩がぶつかり合い、ものすごい熱で溶けて混ざり合い、大きくなっていきます」
白い岩は赤い巨大な星となっていく。
この影絵芝居は護児城の子供の教材に作ったものだ。半透明の色紙で星や空や樹々を作り、光源の前で操作する紙芝居に加え、背景ごと場面転換させたり、光る魔石や煙、そして音楽と効果音を使った、手の込んだものにしたものだ。
聖堂の天井にはこの地球の誕生、海と空気の誕生の姿をキラキラ輝く特殊効果と美しい伊〇部昭の音楽で子供達の目の前に再現していった。
その都度効果音担当の私と、影絵操作のアンビーとコマッツェは七転八倒であった。
「雨だー!」「あれが海なの?」「飛び込んだー!」子供達は普段見る事のない情景に夢中になった。
「海の中から生まれた命は地面に伸びて行きました。ふわふわした生き物も、魚に、トカゲに、段々強く、大きくなりました」
音楽は祈る様な、荘厳な曲へと変わった。
トカゲが、鳥が、ネズミが歩いていく。猪が、馬が、猿が歩いていく。
「多くの動物が生まれ、棲み処や食べ物を求めて親から子へ、少しずつ生きやすい体に替わって生きました。そして」
肌色の人間、男と女が歩いてくる。
「私達人間が生まれました。闇夜に漂う塵から、人間が生まれました。
これは誰が作ったものなのでしょうか?これほどの仕組みを作れる人がいますでしょうか?
いるとしたら、それは神様なのです。
私達の生きている大地、私達の体は、長い年月、気の遠くなる様な時間をかけて生み出されました」
アンビーとコマッツェが箱の下で影絵人形を必死に操作している。男と女が向き合い、抱き合う。
そして女のお腹が膨らみ、新しい命が生まれる。
「私達の命は、私達一人だけのものではありません。長い時間の中で生み出された奇跡です。
私達はこの奇跡の命を、未来に向かって引き継いでいかなければなりません。
お父さんお母さんが、長い時間が、この大地がくれた命。神様の手で作り出された奇跡。
貴方が受けたお恵みを、貴方も与え続けなければなりません」
抱き合う親子の姿。それが急に小さくなる。コマッツェが影絵人形を光源から遠ざける、平らだった地面が丸く曲がって行き、空が周りから紺色に包まれ星が光る。アンビーが地面を表す緑の紙を丸く曲げ、コマッツェが青い空の紙の上に紺色の星空を被せ、宇宙を現す。
そして大地は丸い玉、地球の姿となり、宇宙の果てには二つの太陽が輝く。
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音楽が終り、聖堂の灯りが点いた。
子供達は茫然としていた。
「すごかったね…」「世の中ってこうして出来たの?」「この地面って、大きな玉だったの?」
しかし子供達の心には、何かが残った様だった。
「あー、上手くいったー」「お疲れ様じゃあ、御屋形様ぁ」というアンビーも汗びっしょりだ。
「これもうちょっと楽にしないといけませんね」同じく汗びっしょりなコマッツェ。
「今回は少人数ですもんね」と、息を切らせてムジカが言う。
「これは…聖典にないお話ですよ?」
「そうです、しかし大陸大学の動物学者、地質学者、占星術師も反論できなかった最新の学説です」
「大学…」司祭は黙った。
さあ、興奮半分、ウトウト半分な子供達を寝かせ付けよう。
外の風吹は収まった。
そして、子供達が寝静まった頃、元気な鳴き声が空に響いた。
新しい命が生まれた。
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翌日、コマッツェとムジカは子供達に新年の料理を振る舞った。
私は浴室、というより薄汚れた洗い場を空間魔法で洗浄し、風呂を沸かし、起きて来た子供達を洗った。
そしてアンビーが子供達に新しく暖かい服を着せた。子供達は大喜びだ。
服をプレゼント、というのも味気ない。生活必需品と、心に夢の火を灯す贈り物とは違うのだ。
そして司祭の新年の挨拶の後、皆で食事を頂いた。
マギカはゆっくり休んでもらっている。年越しの出産の世話、お疲れ様。
新たな命を授かった親子も休んでいる。
食事を終えた子供達が、そ~っと生まれたばかりの赤ちゃんをのぞき見する
「真っ赤だね」「小っちゃいねー」「くちゃくちゃだねー」「でも可愛いね」
「この赤ちゃんもこの大地から生まれたのかな?」
「君達もそうなんだよ」しゃがんで子供達の顔を見ると、皆半信半疑だった。
「お母さんにはちゃんとご飯を食べてもらって、お乳の出を良くしてあげるのですよ?」
私達は司祭に後を任せて領都に向かった。
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そこには聖女王オーテンバー様が昨夜の内に到着していた。吹雪が収まった後、除雪を強行して、何とか子供達が寝ている間に辿り着いたのだ。
そして、子供達と食卓を囲み、食事を済ませていた。子供達はプレゼントを手に、思い思いに遊び、オーティーにプレゼントを自慢していた。
「ごめんなさい、礼拝に間に合わなくて。プレゼントも間に合わなかったわ」
「来年に回せばいいよ。今年はなんとかなった。吹雪は完全に想定外だよ。それより…」
「じょおうさまー、これね、あたしのあかちゃんなのよ!」赤ちゃんのヌイグルミを大切そうに抱っこして小さい女の子がオーティーの裾を引っ張って来た。
「あらあら、可愛い赤ちゃんね!あなたにそっくりよ?」「えへへー」
「君も目的を達成したね。食事の準備したの君達夫婦だろう?」「御明察」奥からかっぽう着姿のロボシが出て来た。妙に似合うな。
「またまた借りが出来ましたよ護児国王様」
「親父みたいな事いうなって。そんなもの、この子達の笑顔の前では無意味だ」
私達も子供達の輪の中に入った。
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城に戻って、留守を守ってくれた妻達に感謝を述べ、オーティーからの返礼を皆に渡す。王都風のドレスや装飾品に、皆ウットリする。ステラも薄く笑顔を浮かべ、美しい生地を撫でていた。
そして土産の酒を傾けつつ、まるでサボタージュの様な冬の礼拝の顛末を話した。
「まあなんとかなったけ、ええかったんじゃあ」
「よくぞ成し遂げられました。そこまでして子供達に施すのが、御屋形様の神様の求められる物なのでしょうか?」
「いやいや、もっと熾烈なものなんだけどね」
「一体どんな教えなのか。何故その教えを語られぬのですか?」
「宗教は怖いんだ。この世界に存在していない人の教えが広まってしまったら、社会が狂って恐ろしい殺し合いにならんとも限らない。だから不完全な教えを伝える事は出来ないよ」
「しかしもう遅い!って感じもするけどね」「私、また何かやっちゃいましたか?」
「御屋形様のやってる事そのものが、世界を変えちまってるって事だよ!」
「みんながのんびり暮らせる方に変わっているならそれでいいよ。その宗教にもこういう言葉がある。
『天のいと高き所には栄光、地には善意の人に平和あれ』ってね」
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その日生まれた赤ちゃんは、別に救世主でもなく、普通の子供だった。
普通に育ち、努力し、司祭になった。
しかし普通と違ったのは、毎年冬の礼拝に、ダキンドンやミデティリアの多くの孤児院や教会学校を廻り、プレゼントを配り、芝居等で子供達を楽しませた。
そのお蔭で冬の礼拝は子供達にとって収穫祭を越える、1年で一番の楽しみとなった。
「何で司祭様はそんな子供を甘やかせるのですか?」
「甘やかせてはいません。鍛えているのですよ。私が鍛えられた様に」「は?」
「私は両親から教わりました。私が生まれた時、とても大きな恵みが私の両親がいた孤児院に注がれたそうです。その時、教わったそうです。
貴方が受けたお恵みを、貴方も与え続けなければなりません、と」
司祭は子供達にプレゼントを贈る時、「大人になった時、今度は送る人になりなさい」と教え諭しているのだった。
聖誕祭らしい短編を、と思いましたが…えらくチグハグなものになりました。折角書いたので晒します。その上毎度の事ながら説教臭い。
いつかクリスマスらしい物語を考える事ができればいいなあと思います。でもクリスマスは題材として非常に難易度が高いかと思います。




