74.裾野城物語
前回のあらすじ:その昔、日本で初めて特撮映画を新書で評論し紹介した本に書いてあった粗筋が、実際の作品と全然違ってて衝撃を憶えたものです。後年書いた人に聞いたら「あん時は誰も作品見て無くて結構適当書いたもんだ」そうでした…日本特撮の金字塔的作品なのに。
今回、死闘のためシビアです。
途中、ダキンドン軍の待ち伏せにより勢力を減らしつつ西進したイテキバン軍は、その先に城を見た。
遥か先、丘の上に聳える城。それはボーコックのもの、この大陸のものとは違う、彼らの故郷に近いものであった。
いや、護児城に著しく似ていた。
「やはり、あの男の仕業か!!」サスラーは苦々しく呟いた。
今までどんな奇襲にも表情を崩さず従ってきた近衛の少女達も、喘いでいた。
「呪いか…あの子供達を殺そうとした呪いなのか…」「最初からこうなる事を全て解っていたのか…」
一行は言い知れぬ恐怖に怯えていた。
サスラーが檄を飛ばす。
「決戦は近い!一時休息とする!付近を警戒せよ!」行軍は行く脚を止め、士官たちが集められた。
天幕も輜重隊と共に焼かれ、軍首脳は露天での会議となった。
「我等の行動は、全て護児国の魔導士国王に把握されていた」
士官たちは溜息を吐いた。だが取り乱す者はいなかった。皆、薄々感じていたのだ。
「あの者は理不尽な業で、我等の行く手を阻み続けた。最早人の業とは思えぬ…」
「皇女殿下!よもや降伏なさるおつもりでは?!」
「あの汚れた地に戻るおつもりか?」
「進軍のご指示を!」「我らの死を以て敵に後続の隙を作ろうぞ!」
この絶望的な状況に在っても、士官たちは殺すか死ぬかと指示を仰ぐ。
サスラーは僅かにほほ笑み、士官たちに答えた。
「案ずるな。我等には降伏も後退もあり得ぬ!あの魔導士を出し抜く術が残されておる」
場が静まった。
「それは我等の命だ!
幾ら人知を超えた魔導士とは言え、二本の脚で立つ生き物だ。
魔導士にも命がある。我等にも命がある。命と命を交換すれば、勝てる!」
…。
それ言ったらあかん奴やー!!足元崩れて撃ち損じるでー?!
「「「おおー!!」」」 何故か一同歓喜する。天国と地獄が流れてしまうがな!
「今より偵察隊を放ち、あの城の弱点を探る。
見た所、守兵は精々千。山麓に遊撃隊を配する危険性もある。
実りの季節も近い。あの城を奪えば、イテキバンは後10年戦える!」
「「「はっ!」」」
そういって半年もたなかった宇宙世紀の軍があったなあ。
******
イテキバンの斥候が犠牲を出しながら偵察から戻り、裾野城の縄張図を描き、士官たちが弱点を論じる。
私はそれを見て安堵した。城の北辺は傾斜を利用して一直線に見せているが、実は凹字型に屈折し、一関城同様十字砲火を浴びせる罠となっているのだ。
山麓、街道を包み込む様に構築された堀と城壁については、外部からは桝形の危険性は感知できていない様だ。木造の門と侮った敵は殺到するであろう。
「では、城の背面に廻り、敵の主郭を突く、この作戦で」
「駄目だ!」サスラーは案を拒否した。
「今まで私達は情報に踊らされた。これからは情報ではなく直感を信じていく。
敵の背面は罠だ。恐らくこの城は錯覚を利用して築かれている。突くべきは、ここだ」
サスラーは、北東の三重櫓、天守の次に大きい乾櫓を指した。
この郭は乾に向けほぼ一直線に突出していた。
西に対する防壁にはなっていた。
しかし丘の地形を利用して築いたため、北東への腑射が困難な程に、鋭角に突出していたのだ。岐阜城か!
「ここに軍を一直線、いや、紡錘系に配し、全ての火薬を投入して崩す。投げつけるのではない、石の隙間にはさんで、石台ごと崩すのだ。2万人が一挙に、横に広がらずに一直線に進んで、城の一角を占領。そこから狭い城内で敵を殺し尽くすのだ」
理に叶っている。この情報から考え得るべき最良の手段だ。
決死の覚悟を決めた敵兵が集結し、夜陰に乗じて獣道を踏破し城の北東に出た。途中、木立に遮られて見えなかった登り石垣を発見し、「最初の策で進めば、ここからも攻撃されていた…」と敵は安堵した。
未明。集結した敵軍は急速し、激しい山登りのため体力を整えた。すると…
軍勢の一角が吹き飛んだ。しかも、次々と。
乾櫓の出窓下から火薬が落とされたのだ。
「前進ー!山を登れ!ここに居ては危ない!!攻撃開始ー!!」敵軍2万が大挙して登って来る。
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「魔道具が反応しました!敵軍は城の北を東に廻っています」
北限街道の東を守る裾野城。ほぼ一関城と似た造りだ。
山頂の御殿、というには狭い座敷にレンドリー・キッシンジャー子爵-騎士から子爵に陞爵-とダンが報告を聞いた。例によって木造だが床敷、土足の造りだ。装飾は無い。
「どう思う?」レンドリー卿がダンに尋ねる。
「見事です。相当勘の鋭い敵です。あのブコー伯ですら城の北側を弱点と錯覚し敗北しました。
あの女、ここで絶対に殺してしまわなければ…」ダンの眼には憎悪の炎が満ちていた。
「ダン。憎しみに呑まれるなよ」我が子に接する様にレンドリー卿は言った。
この地は本来ならノキブル川流域の比較的豊かな貴族領であった。
しかしこの領主はボーコック貴族に買収され、何かとダキンドンの足を引っ張っていた。そのため貴族位を失い、リベラ卿の領地と併合されていた。
レンドリーはリベラの代官としてこの城を預かっていたのだ。
「アイツの代わりにずっと領都に籠っててなあ。久々にアイツをブン殴って出てきたら、中々結構な歓迎じゃないかあ!」
「ははっ!何か最初にお城でお会いした時と随分違いますね!」
「あん時ゃ君も小さかったからなあ。ってさっき会った時も言ったか!」
あれから10年近く。愛妻家のレンドリー卿もちょっと老けたか?時々愛する家族を連れて観光に来てたが、戦いの場に臨むのは最初に会って以来だ。
後、かなりぶっちゃけた性格になっていた。うん。ストレスよくない、ぶっちゃけるのもいい事だ。
「超弩弓で薙ぎ払いましょう」
「下を狙えるか?」
「遠くの敵を狙う様な仰角計算も要りません。目測でブっ放せばいいんです」
豪快だが、正解だ。
「よし。私は天守で指揮を取る。万一敵が取り着いたら無理せず二之丸へ後退するんだぞ」
裾野城乾櫓は二層三重。一階と二階が同規模の初期望楼型の櫓だ。そして一階の出窓の上は、壁に沿って廻廊が渡されているが中心部は吹き抜けだ。斜面を登って来る敵を狙える様に、最大の俯角で敵を撃てる。
山麓から俄かに物音響き、2万という大軍が迫る。
「まだ?まだですか?」ガードナー領の兵が叫ぶ。まだ敵は中腹だ。
敵は矢を射り、火薬を投げ込む。
「彼我の距離は?!」「640!」「よし、打ち方始め!」
衝撃が櫓内に広がる。
そして、紡錘型に延びた敵の中央を、激しい衝撃と共に、巨大な矢が消し飛ばした。
「左右に分隊ー!!」
敵は直ちに回避した。それでも乾櫓背後からの狙撃は難しい。櫓の二層目から連射クロスボウが放たれた。
後方の櫓からも超弩弓が放たれた。しかし初撃の様な縦一直線の効果はなく、長い隊列の一点を貫いただけであった。
敵兵は石垣にとりつく寸前であった。然し頭上から油を被せられた。そして爆弾が。
忽ち先頭集団が炎に包まれた。
「怯むなー!進めー!」炎に焼かれのたうつ味方を踏み越え、後続の軍が昇って来る。
「やっぱりこいつ等キ〇ガイだ!冷静に狙え!一人ずつ脳天を貫くんだ!
用-意!構えー!狙えー!いいな?撃てー!」
ダンが櫓の望楼から号令し、兵達の矢が先頭集団の兜を貫いた。
「次弾!用-意!構えー!狙えー!いいな?撃てー!」
この冷静さを促す号令で、限られた弓からの射撃の制度が上がり、敵先頭集団は屍の山と化していった。
「進めー!石壁を崩せー!」2万の殺意はひたすら続く。地獄の亡者が蜘蛛の糸に群がる如く、矢に撃ち抜かれ、爆弾に四散させられながら次々と登って来る」
「止めろ!もうやめろー!」「帰れー!」城兵が恐怖に駆られ始めた。
「敵は死んでも止めないぞ!殺せ!殺し尽くせ!情けを掛けるな!人と思うなー!」
怯んだ兵が再度矢を浴びせる。しかし、数人が乾櫓の石垣にとりついた。
「全員櫓から撤収ー!」ダンが叫んだ。
三階から、二階から兵が飛び降り、超弩弓が櫓の外へ引き下ろされた。全員が出て行くのをダンが見送った直後、彼の足元で轟音がした!
ダンは櫓を飛び出した。すると櫓は歪んで倒れ、城外北側へと崩れて行った。
敵軍の勝鬨が聞こえた。
「奴等!中々やるな!やっと手応えが出て来たぜ!」ダンは櫓を出た兵達に軽口を叩いた。
「擲弾兵は櫓の向こうへ投擲!盾兵構え!弓兵は盾兵の後ろへ!他は抜剣!」兵達は直ちに整列し指示に従う。
爆弾が投擲され、塁下で爆音と断末魔が響く。しかしその直後に、崩れた櫓台にイテキバン兵が昇って来た。
「撃て!」クロスボウが敵を貫く。しかし数が多すぎる。
後方の塁線を守っていた弓兵も集まった。
すると敵は翼を広げた様に散開し、城壁へと殺到した。
「この郭はこれまでか!」ダンが後退を覚悟したその時。
頭上に轟音が響き、城兵は、ダンは衝撃に飛ばされそうになる。
櫓台にとりついた敵兵が四散し、登ってくる後続の敵を押し流した。
天守から崩れた櫓台に超弩弓が放たれた。
三層の天守の窓が放たれ、各層交代で櫓台を狙い、取りついた敵兵を肉片に変えていった。巨大な矢は山麓の兵も切り裂き、攻城の手は怯んだ。
「城壁の守備隊は持ち場へ戻れ!敵を射ち殺せ!」
弓兵が後方に戻り、石垣に取り付きつつある敵兵を射抜いた。
また、更に後方、横矢掛で窓を敵に向けている櫓からも連射が浴びせられ。横に付広がった敵兵は激しく消耗し、屍となり斜面を転がり落ちて行った。
尚も超弩弓の隙を突いて櫓台を登った敵が現れた。城兵は連射を浴びせるが、敵は同胞の死体を持ち上げ盾として防いだ。
「外道が!」ダンは剣を敵に向けた。切り結んだ末、ダンの剣が敵の腹を貫いた。
「ぐぼ…」敵の声が聞こえた。女の声だ。
ハっとなったダンは敵の兜を取り払った。少女だった。あの時、城で数日を過ごした、美しい少女の一人だった。
「何でだ…お前、何がしたかったんだよ!そんなに俺達が憎いのかよ!」
少女は、咄嗟に剣をダンに向けた。右手を庇ったダンは左手を斬られた。
左右から城兵が少女の胸を、頭を突き、血しぶきを上げて少女は絶命した。
戦意を、いや殺意を失わぬまま血にまみれて死んだ少女の顔を見つめ、ダンは城の娘達を、ヤミーの笑顔を思い出していた。
「あの子達とお前の、何が違うんだよ…」
******
山腹のサスラーに報告が届く
「攻城の第一軍が総員死亡した模様です。第二軍に突撃命令を!」
サスラーが力無く命じた。
「西へ向かおう」
「何故ですか!目標の塔は倒し、城の一角は占領寸前です!」
「相当数の兵が敵城内に入ったが占拠の合図が無い!恐らく敵はこの一画を占拠される事も想定していたのだ!」
「何ですと…」
「この城も大きな罠であった。あの城の中も恐らくは迷路の様に構え、侵入した者を上や横から射抜く仕掛けがあるのであろう」
「では、どうすれば!」
「西へ向かう。近隣の村を焼き、民を殺し、糧を奪うのだ!殺せ!奪え!焼き尽くせ!」
サスラーの命により、敵は山麓へ引き上げて行った。城から超弩弓が放たれ、敗軍の兵を更に削いでいった。
******
2万の敵を僅か数千で退けた城兵は、誰一人欠けることなく本丸に集結した。
「ダンは?護児国のダン将軍はどうした!」
「異国の女の屍から離れようとしません。知人だったのでしょうか?」
「勝鬨はしばし待て」
レンドリー卿は乾櫓へ急いだ。
ダンは茫然と、脳天に穴の開いた血まみれの死体の横に座っていた。
ヤミーの料理は美味かったか?
ミッシの歌は綺麗だったか?
オーリーが縫った服は温かかったか?
ダンは心の中で、死んだ少女に問いかけていた。
「ダン!」レンドリーの声もダンには聞こえない。
ダンは張り倒された。「え?」正気を取り戻したダンの前に、レンドリー卿が建っていた。
「ボーっとしとったって、何にもならんのだぞ!」
追って来たガードナー領の副官が様子を伺った。
「新米の兵隊がよくかかる病気になっているんだ」
レンドリー卿はダンを休ませた。
「敵の残存兵力は西へ逃走した」
「東に敵影はありません。死体にまぎれた伏兵も全て刺殺しました」
「よし。敵前方には司令部から派遣された部隊が待ち構えている。我々は敵の退路を断ち、敗残軍を殲滅する。
ダン、行くぞ!勝鬨を上げるんだ!」
僅かの間で、10万の軍の壊滅が決定的となった。山上に、勝鬨が木霊した。
敵軍崩壊まであと少しです。
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