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70.輸入船と人工衛生の激突

前回のあらすじ:特撮ファンでありながら実は「今日もわれ大空にあり」を見ていない。何十年特撮ファンやってんだと自戒。ブラックフライデーで安かったのでついポチ。

「おー手手を洗ってきれいきれい~、石鹸ゴシゴシ洗いましょ!」

「怖こわウイルスやっつけてー」

「チクっ!2ぃ3、はいお終い!」

 子供達の可愛い歌声が、帝国南部の港町に広がる。


 大陸の大部分が凶作に苦しんでいた時も、温暖な気候のためか穀物に不自由しなかった帝国南部。

 それでも安価で新しい味覚の芋料理、それと共に流れ込んで来た明るい手洗いうがいソングは好評だった。

 コミカルで繰り返し繰り返しの旋律が子供にも受け、家庭内でも手洗いうがいが何となく行われる様になった。庶民の暮らしの水廻りが良くなっていたためでもあった。

 鉄道の利益で各国が衛生に割く予算が出来、上水道、下水道、ポンプも普及して来たお蔭で、庶民は辛い水汲みから解放されつつあった。


 過去こうした新しい動きを厳しく批判していた教会も、「疫病を防ぎ、赤子を死から救う効果があると総本山が認定しました。各家庭でも、清潔を心掛けましょう」と言った。言わされた。言わざるを得なかった。


「芋は悪魔の作物!聖別された手を洗うのは蛮行!」と絶叫していたクーデター派を支援していた貴族領では…餓死も乳児死亡率も改善してきた他の領地と異なり、旧態依然のまま閉塞感が漂っていた。中には逃げ出す領民も居た。ついには枢機卿からの勅令で態度を改めざるを得なくなっていったのだ。


******


 そこに「怖こわウィルスやっつけてー」と、疫病予防の歌がやって来た。

 そして髑髏船漂着の噂も流れた。いや、噂ではなく、新聞が伝えた正確な情報だった。

 そこには、天然痘に感染した死体の絵が写実的に描かれていた。色刷りが生々しかったが、各地の大聖堂に残された過去の疫病の絵と似ていたそれは、市民に戦慄を与えた。


 医療改革はそれだけに留まる事は無かった。

 首都から派遣された医師による診療は疫病だけでなく、外傷、骨折、皮膚病、栄養失調、アレルギー、生活習慣病等の相談にも応えられる様に指導されていたため、様々な指導が行われた。教本も大量に印刷され配られた。そしてそれは確実に人々の苦痛を消し去って行った。

 但し当然ながら人数に限りがあるため、毎週の礼拝で抽選が行われ、診療は行列を成した。

 何よりも庶民がこの診療に応じたのは、「無料」そして「試食付き」だったからだ。試食は各地の孤児院が、芋の揚げ物、フライドポテトやポテトチップスを料理し配った。誰もがこの香りにつられ、診察を受け、予防接種を受け、御馳走にありついた。

 この診療の原資も、鉄道の利益だ。その分煽りを食った長距離輸送業は、地域に特化した短距離輸送に鞍替えしていった。


 時折帝国やフロンタ各地に、突如「聖女」が出現した!

 という噂が流れた。何でも聖歌隊を引き連れた「聖女オーテンバー女王」が診療に現れ、接種に不安がる人達、特に子供に親身になってあやした、という噂が流れた。

 なお、ダキンドンからの回答は「知らない」の一点張りだった。


 この噂に、皇帝もフロンタ王も、村単位で「詳しく知らせろ!」と懸賞金を出した。流石に国に嘘を吐く訳に行かないので、懸賞金欲しさに近隣の村に来たという情報が寄せられ、正しい情報を提供してくれた村には診療団が派遣され、接種を加速させた。

 実は、既に諸国の元首とは話が付いていて、接種や防疫教育が遅れている地域への宣伝をオーティーが買って出たのだ。三カ国共同の「聖女を探せ!キャンペーン」みたいなものだ。遊び心があって大変結構。


 当のオーティーはと言えば。

 国境防衛は軍務に長けたリベラ卿はじめ北部貴族やブコー伯、動員計画はかつて無茶苦茶な魔の森横断振興計画を蹴って辞した有能なロジス侯爵と、最有力公爵のオレンジャー卿以下にブン投げ、行脚を続けていた。

 その向かうところが国内でも、他国でも。

「この内政が重要な時期に」と批判する者もいたが、それは逆に批判者の評判を落とした。

 彼らは、今大陸が何に向かって備えているのかが見えていなかったのだ。

「この戦いは疫病を抑える事が勝利の礎と心得、女王の不在を気にする事なかれ」とオレンジャー卿麾下の貴族達は内政に努めた。


「各地を行脚するのは止む無しとして、女王の旅に国軍を派遣するのは、むしろ同盟に悪い影響を与えるのではないか?」

「何を申すか!女王は教皇から認定された聖女!国軍が護衛するのが当然であろう!」

 何かと女王オーテンバーの足を引っ張ろうとする者もまだいる。

「心配無用。近衛騎士団と、騎士団肝煎りで鍛えられた、頼もしい者達が女王を護衛する」

「そんな余分な軍があれば国境警備に!」

「軍ではない。聖女を慕う、腕利きの平民が勝手に組織した、聖女護衛団だ」


 近衛騎士達の令嬢達は、孤児院の少年少女の中でも女王に恩義を感じ献身を訴える者を集め、騎士としての訓練を自発的に行っていた。

 その中から優秀な者には騎士見習いとして女王の護衛や王都警備の補助を依頼し、将来の軍人と期待しされ教練されていた。

 その英俊達が、オーティーの一見気まぐれに見える巡礼を護衛していたのだ。

 そして、彼らの一番手が、モネラ達が寝泊まりした孤児院で彼女に忠誠を誓った少年、ミデティリア帝国皇子と殴り合ったガキ大将、フラーレであった。


 聖女護衛団を率いるフラーレは、各地に赴く聖女を、聖女と共に防疫を広め食料不足を救う少女合唱団を護衛し、国内外へ向かった。途中、オーティはフラーレに「あなたは、護児国の子供達を見送ってくれた少年ですよね?」と声を掛けられ、あの日の大胆な告白を思い出し、真っ赤になってひれ伏した。

「貴方の想いが叶います様に、私は祈りますよ」とオーティは物憂げに微笑んだ。

「ありがとうございます!」フラーレは恥ずかしさと嬉しさで何か泣いてた。


 道中、この期に及んで既得権を意地でも守らんと企む司教が刺客を放ち、オーティ達の宿所を襲った。しかし勇敢なフラーレが身を挺して彼女達を守り、刺客を討ち取った。

「我が聖女モネラ様の教えを伝える子供達を、あの気に入らねぇ帝国のボンボンが首ったけな女王様を、俺が全部守ってやる!」

 時には怪我を負いつつ、一行の無事を護り、襲撃者の息の根を止め、首謀者を捕らえた。

 そんなフラーレ君にオーティは怒った。

「無茶をしないで!あなたに万一の事があったらどうするの?!」

「私は聖女王様を守ります!アイツの愛した貴方を守ります。モネラ様は…私の事は憶えていないかも知れません。しかしその教え子達は俺が…」


「バロンパンチ!」「ひでぶ!」オーティの鉄拳が飛んだ。

「思いも伝えていないのに憶えてるとか憶えてないとかこのバカチンがあ!」金〇っあんかな?

「ひー!聖女様が怒ったー!」周りドン引き。

「あなたも男ならちゃんとモネラ様に言いなさい!愛してるって!あの人だってむごむご」

「女王様そこまでです」後ろからテイソさんが口を塞いだ!ナイス!

「解りました!私はこの行幸が終わったら彼女に愛を伝えます!」

 真直ぐだなあ。

「え?…ええ。それでこそ、騎士です。しっかりと告白なさいね」あ、聖女王に戻った。器用だな。

「はっ!聖女王様にも、愛の告白が在らん事を!」

「えっ?ひゃああ!あ、あたしはいいんですのよおお!」また素に戻った。楽しいなあ。

 テイソさんが噴き出した。フラーレも笑った。子供達も笑い出した。

 オーティーの廻りに、笑顔の花がさいた。


******


 帝国と王国の南岸各地に、天然痘患者が多数侵入して来た。輸入品を積んだ船に乗ってやって来た彼らは、皆中東国の商人であった。彼らは感染の自覚症状が無いまま上陸して来た。

 しかし各国の港町に密かに通達された隔離命令に従って、彼らは行動を制限され、治療が施された。無症状の者にはワクチンも接種された。

 この隔離・防疫計画は、各国間で対イテキバン作戦として練り込まれ済だった。どこかで見ている敵に悟られない様に実行された。


 商人に紛れ侵入を企んだ敵の間諜は追跡され、味方の手の内の者達によって『天然痘発症地区』という名のヤラセ舞台へ誘導され、種痘塗れの病人を焼却する現場目撃し、馬を盗んで逃げた。


 全ては護児城と同じ、芝居である。すでに港湾部の市民には接種が行われていた。

 死体は、ボーコック国境から調達された難民の死体である。

 生きて侵入されていたら帝国とダキンドンを壊滅させる敵の尖兵となっていたのだ。せめて有効に使わせてもらおう。荼毘に付して貰っただけ感謝して欲しい。


******


 ミデティリア帝国とダキンドン王国の東国境線、第一防衛線の4つの街道の内、サミット城、一関城は完成した。残る二街道も一関城同様の街道制圧用の城塞が完成しつつある。

 一関城で行われた様な演習が各地で行われた。ダン以下城の少年が攻城軍の攻勢を削ぐ。実はこれらの城に勝利するのは簡単だ。

 かつて故郷の地球、日本での関ヶ原の合戦で、東軍第二の主力軍を率いた、徳川家康の息子秀忠が信州上田城で真田親子の軍と対峙し、合戦に間に合わなかったという珍事があった。

 秀忠の使命は関ケ原の参戦であって上田城攻略ではない。迂回して無視すればよかったのだ。それが可能だったのかという疑問もあるにはあるが。

 実は今回築城した各城も、迂回しようがない狭隘地に築いているので、敵にとっては戦って貫くしかない状況にしてある。

 それに、あの殺意マシマシな敵が、冷静に考えて迂回するかと言えば、それは無い。正面から挑むだろう。

 敵の大戦略目的は、大陸全土の支配と、敵対勢力の皆殺し。敵を絶対殺すマンだ。宜しい、ならば戦闘だ。


 各街道のノキブル川岸には、川の氾濫から国土を守る堤防の外側に難民キャンプが築かれた。キャンプと言っても石垣と壁、城門や櫓で囲まれた砦の様であった。

 受け入れた難民達が万一暴動を起こしたり、内通者となって敵に明け渡された場合は、ノキブル川の水を引き入れ溺死させる仕掛けを備えている。

 城そのものが罠、という拠点が各街道毎に2ケ所、計8ケ所用意された。

 ボーコック人のメンタルを考えれば、十中八九内ゲバが起ったり敵に内通したりするだろう。そうなれば女子供を含む数十万人の水死体がノキブル川に流される事になるであろう。それが戦争ってもんだ。

 嫌なら生き残る術を考え行動したらいい。それが出来るならば、全力で保護したいのだが。


******


「チェースッ!しなくていいんですか?」オーティに進言したが

「全てを魔導士様に頼って、何の女王ですか!帝国だって自分でサミットの城を築いたのですよ!私にだってできるのよ!」フ〇カシングル8か?


 ダキンドンも、ミデティリアも、幹線から街道を東に進める支線を建設し、築城の資材を輸送して、私の力に寄らずに防衛拠点である城を築き上げている。

 設計や技術指導には私が手を貸したが、普請=測量、整地、石垣・堀構築は王宮魔導士が頑張った。

 水魔法も一時的な力業ではなく、半永久的に維持できる様、水利を考えて設計されている。山上では井戸とポンプが、山麓では川から水道や揚水機関が建設されている。

 戦後には周辺の村落にも水道が敷かれ、衛生向上に役立ってくれるだろう。鉄道も彼らに新しい暮らしを運んでくれるだろう。


 石材もノキブル川周辺だけでなく、帝国、はたまたフロンタから鉄道を通じて輸送され、魔法や鑿で加工され積み上げられる。石垣からの排水や圧力分散などの技を私は魔導士達に教え、彼らはそれらの知識を吸収していった。

 面白い事に、この世界に最初に出現した護児城の石垣が、江戸時代での完成系の布積みで、帝国の御座所が若干荒い穴太積み、そして最新の街道防衛の城が野面積みに逆行している。その辺はノウハウの蓄積で進化してくれるだろう。


 普請が終り、作事=門、櫓、御殿等「上物」の建設に入る。ご当地の木材加工技術も日本の匠に負けてはいない。鉄釘を使わない、はめ込みや木釘だけの建築もお手の物だ。むしろ規模によっては任せた方が良い場合すらある。居住区は全部お任せだ。

 但し天守建築という特殊な建築は別だ。負荷分散、耐震構造も考えて設計した。三層のものだ。

「護児城に負けない、五層の天守を!」という声も強かったが、「只でさえ標高が高い丘に上げるのなら三層で充分。逆に五層だと荒天の際破損し補修が大変だ」と反論し、納得頂いた。

 丘の斜面に数段腰郭を設け白壁を巡らせ、五層天守に見せかけたのは御愛嬌だ。

 日本でも古河城とか川越城、有名どころでは会津城なんかも腰壁で多層感を出してるし。


 かくて瞬く間に、帝国、王国のノキブル川岸に、四街道を制圧する四城が完成した。無論、この周辺にイテキバンの間者は入り込んでいない。帝国軍や王国軍が警備している…訳ではない。

「貴様!ボーコックから来たのか!」「ボーコックに味方する奴はロクでも無ぇ!出てけ!」と、街道を港から東進しようとする中東系、東洋系の人を、街道沿いの村人がブロックしてくれているのだ。

 それら敵の間諜は「大陸諸国はボーコックを敵視し、共同戦線は有り得ない」と判断して引き上げた。


******


 こうやって、イテキバンの本陣には、

「大陸西側同盟の要衝である護児国は疫病が蔓延し、死者が続発ています」

「フロンタ王国、ミデティリア帝国の港町にも疫病が蔓延し、死者が焼かれていますが、焼いてる者達も罹患しています」

「鉄道なる高速の乗り物で、疫病の感染は広がっています!」

「ミデティリア帝国、ダキンドン王国の東国境は村々がボーコック民を警戒し、川岸に見張りの砦を築いている模様です。彼らがボーコックを迎え入れる事は有り得ません」

 といった間違い満載の情報が集まりつつあった。


 イテキバンの本陣があるのは、ボーコックの有力貴族の屋敷、だった所。

 その貴族は既に逃げてどこかに雲隠れしていた。

 ボーコックはイテキバンを受け入れてしまっていた。

 愚かなボーコック王は、西側諸国に対する後ろ盾を、全く未知の存在であり、警戒すべきイテキバンに委ねてしまったのだ。


「この国を西側に対する使者と用いる事も、或いは感染症をバラ撒く武器にする事も出来ません。西側のこの国に対する嫌悪感は相当な物です」

「そうだろうな。私もコイツラは嫌いだ」

 臣下の報告を受け、上座から呟いたのは、かつて護児城に保護され…た振りをして、私達の子供を殺そうと企んだ、憎むべき少女。

 イテキバン帝国第23皇女、サスラー・チャン。皇子も含めてどんだけ子供いるんだよイテキバン皇帝。

 その数十人の皇子皇女が大軍を率いて東方の帝国を滅亡させ虐殺し、グランディア大陸を西進し各国を攻撃虐殺し、思うまま地図を書いて地図を塗り替えちゃってる。

 王の王を治めるそのまた上の、正にモンゴルっぽい国。ジン!ジン!ジンギスカン!だ。最大版図に広げたのは三代フビライだけど。

「この国に価値は無い」更に冷徹に彼女は呟いた。

 戦争前夜、のお話でした。異世界に天守が上がりまくっています。脱タイトル詐欺。


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