68.集結髑髏船
前回のあらすじ:ちゃんとしたマッキーの模型って多分出ないだろうなあ。イマイのプラモ、小っちゃいしなあ。
今年の命の礼拝も無事に済んだ初夏。
「王、また髑髏船です」
フロンタ王国の王宮に報告が上がった。グランディア大陸の南西に位置するフロンタ王国の海岸に、『髑髏船』と呼ばれる、乗員が全員死亡した船が漂着した。
「来たか。やはりあの男のいう事に嘘は無かった」
数年前なら地元民が乗船して中を確認していた。しかし、今は王都から派遣された、全身を白衣に包み、頭も顔も口も覆った学者が、接近した船から慎重に様子を見た。
甲板上の乗員は、全身に凹凸を生じて死んでいた。天然痘だ。
ワクチン接種済の医師が乗船し、船内を調査した。その結果、船底に積まれていた奴隷から感染したものと判明した。船は大陸東方の国の商船で、船員も奴隷も東国の者だった。
船は沖合の無人島に係留され、死者は火葬された。乗船した医師は2週間隔離され、無事が確認された。
発見の第一報が各国の元首へ、統合防衛軍の司令部であるサミット城へ飛んだ。サミット城は髑髏船への警戒と、漂着した場合はその地の封鎖を指示した。
そして。
帝国は帝都の南、港湾都市ポルタの沖。
髑髏船が集団でやって来た。船に船籍を伝える物は無く、天然痘による被害者の死体が満載されていた。恐らく大陸中東部の人達だ。
私は現地へ飛び、無念の内に死んだ方々を沖合の島に運び、焼却し、墓を建てた。
もしイテキバンとの戦いが終わった後に遺族が訪れる事があればと思い、墓に顔を刻んだ。
漂着船は全て沈められた。そのお蔭か未だ閉鎖された港は無く、海運への影響は出ていない。
一部始終は記録され、サミット城へ報告された。
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シン・スーパートレインが大陸を走り、各地の王はサミット城へ集結した。
「護児城より立派なのではないか」フロンタ王エンタが言う。
「それでいいんです、敵を威圧するための物ですから」
「どうだい?帝国の城は」キオミー、ドヤ顔。
「設計したのは私だぞ?」「築いたのは俺たちだ」
負けない奴だなあ。いっそここは棒読みで応えよう。
「ウレシイナーモット築イテー」
かつて故郷の地球、某国で世界SF映画史に革命を引き起こした宇宙活劇の監督も、「ニセモノ作品が増えれば俺も楽しめるジャン?」みたいな事を言っていたし、そんなアヤシイお城がどこまで増えるか見てみたいなあ。
本丸の桝形を潜ると、偽洋風…じゃないな、偽和風の宮殿が待ち構える。もう帝冠様式と言った方が良いな。
3階建ての左右対称的な宮殿の上に和風の入母屋屋根が正面を向いている建物が私達を迎える。あれだ、愛知県庁とか旧満州の関東軍総司令部みたいな奴だ。早速アヤシイお城が!
中は普通にゴシック建築だった。しかし装飾は狩野派の影響というか和洋折衷というか、パリの印象派みたいな不思議な作風だった。「当時のサロンの批評は散々なものであった」と小林薫が言いそうな感じだ。
そんなわが脳内のサロンの批評も他所に、お義父さんを含めた各国首脳が何度目かの会合に臨む。しかし今回は夫人の臨席も懇親会も無い、そして教皇はおらず代理の枢機卿が出席している。
戦時会議の始まりだ。
「イテキバン帝国による侵略が開始された」
フロンタ王が宣言した。
「我がミデティリア帝国も侵略を確認した。敵は何の声明も無く、疫病を我が領土に投げ込もうと企んだ。絶対に許さない。敵国の王の首を持ってのみ謝罪と認める」
キオミルニ31世も宣言した。
「我が護児国にも、天然痘を帯びた敵国民が侵入した。
感染したかの様に見せかけた芝居に満足して脱走したが、この明確な殺意を私は許さない。敵国の全身全霊の謝罪か、敵国の滅亡かのいずれかを問う」
「いっそ大陸の東を消しちゃえばぁ?」キオミーさんよ。
「最悪の場合そうするさ。先ずは、迫る無法の侵略軍を迎え撃とう」
「敵は始めに疫病を広め、多くの者が死んだのを確かめてから攻めて来る、であったか?」
「その通りです。既にお願いした通り、港には患者を装った人達を雇い、疫病と無関係な死体を火葬して貰っています。奴等の間諜はそれを蔓延したと看做すでしょう」
「並行して全土に感染防止の防疫命令か。間諜の撤退との合間が難しいな」
「ではワクチン未接種地域への接種を優先しましょう。注射器の生産は?」
「魔の森の鉄鉱石と珪砂のお蔭で順調じゃあ」ドワーフの王が答える。
「ミナトナの乳から有効成分を抽出し、培養する試みも順調です。牛痘ワクチンと合わせて必要量は確保できています」大陸大学の代表も答える。
「感謝します。では、接種の指示と、宣伝をお願いします」
「あの、お願いなのですが」とオーティ。
「接種は、やっぱり、怖いです。針を刺すのが」
瀉血は怖くないのに針を刺すのが怖いと申されるか!錆びたナイフで切られる方が嫌でしょうが!
「以前、お城の子供達が芋の食べ方や手洗いうがいを広めた様に、防疫の歌を広めて頂きたいのです。その中に、注射の下りを入れましょう」
まあ。そうだよね。何事も慣れって大事だよね。
「解りました。準備は出来ています。各都市へ広める計画もあります。各都市の孤児院の子達に手伝って貰って広めましょう」
会議は実務者協議に移り、注射器、ワクチンの輸送・接種計画、保管や衛生管理計画、そして費用分担といった詳細が詰められた。
無論、この事態は事前に想定され、基本プランを共有してあったため話は早かった。
「ついに来てしまったなあ」とエンタ王が漏らす。「正直、大法螺であって欲しかったのう」
「いやいや。あの会談から遅くとも昨年頃には、イテキバン侵攻の報せは受けていたでしょう。早めに知って早めに手を打てたからこその余裕ですよ。ね?」と軽くキオミーが返す。
「皆さんが警戒を怠らず、髑髏船による感染をきっちり防ぎ、知らせて頂いたから対応が早かったのです」
「それを言ったら魔導…護児国王様の第一報のお蔭です。惚れ惚れしますわ」やめてオーティ。
「貴女の王都でも衛生のために子供達が尽力しているそうで、頼もしいです」
「あー。そうでした、キオミルニー皇帝陛下、貴方様の御子息が王都の孤児院で大活躍されているとの事。大変に頼もしい限りです」
お、ロボシ君頑張ってるな!
「おお、親としてそういって頂けるのは嬉しいですな!今度我が息子と会って、『都市衛生』について話しては頂けませんか?」
「護児国王の提案された、街を疫病から守る構想ですか!素晴らしい。是非お話させて頂きたい!」オーティの好感度、会う前からUP!
キオミーがサムズアップを私に贈った。
ロボシ君はいい男だ。いい男過ぎる、ちょいと癪に障るよ、親譲りな点がね。あれは、カリスマだ。苦手な奴には嫌味に感じる部分だ。
あんな皇子が他に6人いるんだ。更に皇女まで。帝国、畏るべし。
事務方の詳細が詰められ、各国は約束事項を持ち帰った。
今までの会議場のバトルは終わった、本当の戦争が始まる。私達が一つになるまでは。モア・ザン・ミーツ・ジ・アイ!てーれーれーれー!
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「怖こわウイルスやっつけてー、はい!」「「「こーわこーわウーイルスーやーっつけてー」
「チクっ!2ぃ3、はいおしまい、はい!」
ムジカがテンポラをはじめとする少女、もとい今や立派に成長した儀典部音楽課のレディ達に防疫ソングを練習させている。勿論未成年の少女達も沢山声を合わせて歌っている。やっぱり音楽家は男女比が圧倒的に女性に傾いている。
「御屋形様ってやっぱり器用よね!でも注射は怖いね」ムジカが笑顔で教育の進展を報告する。
「そうだけど、君達がチクっ!て怖がるくらいで済む、って所を、この世界の皆に教えてあげて欲しい。コマッツェはもっと大変だろうね…」
各国の医療担当者に疫病の原理、防疫、ワクチンの概念を、世界最初の国際会議以来ずっとマギカ、モネラ、そしてコマッツェに頑張って貰い、図表を駆使して理解を促した。今のところ漸く半信半疑、といったレベル位には持って来られた。
特に創世教会の反発は強かった。教皇の勅命にも従わない頑なな者が多かった。そういった奴は大抵医療を独占していた奴なので、「処刑」を前提に続々逮捕され、改心した者は他の地に飛ばされた。
抵抗勢力は解っているのだ。「知の独占」という武器の力を。それを他者に譲り渡す事で自身の権威が崩壊する事を。そして新聞や鉄道という武器がそれを脅かしている事を。
なので最後の悪足掻きを試みたのだ。教皇の勅令や各地司教区の理解がなければこれだけで内乱が起きていたかも知れない。
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防疫ソングより前に、聖女オーティと共に広げた「手洗いうがい」「フォークとナイフ」の歌の効果は凄まじかった。
「3歳以下の乳幼児の死亡数が5分の1に減り、貧困層で捨て子が増えている程です」
「成人男子の風邪による死者がほぼなくなり、兵員増員も増税も可能な状態です」
「どうしてそーゆー報告になるかなー」
キオミーさんは不愉快だ。
「帝国を構成する成人や、明日を担う子供が死ななくて済んだ事はいい。
だが捨て子の増加に手を打たず、増税に結び付けて考える。
民の幸せのために次の手を考えようとしないってのは、ちょっと各部門の担当者の頭を疑うぜ?」
報告者達はギョっとする。
「ま、こんな事は帝国始まって以来の事さ。対応策の予算を算出して。後人口増に伴う食糧危機の可能性とか、考えなきゃなんない事はいくらでもあるだろうよ。
それにな。子供達を見殺しにしたら、おっかない魔導国王が俺たちをブっ殺しに来るからさ」
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フロンタ王国でも同様だった。
「護児国王の進言による民生予算の増加は、護児国王に請求すべきでは?」
「よしお前それを護児城に行って言え。首だけになって帰って来ても我が国は引き取らんぞ」
「しかし!」
「我が国の子供達は我らが守り育てる義務がある!鉄道輸送から得た利益は極力育児政策へ回せ!最悪鉄道が止められるぞ!あいつはそういう事をする奴だ!」
「「「はっ!!!」」」
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「今年の税率は、4割まで下げましょう。各地で子供の死産も夭折も減っています」テイソさんの報告にオーティーが答える。
「その分農村では子育ての手間がかかるわね。学校に予算を割いて、小さい子供を預かれないかしら」
「その為の算段は出来ています。もう魔導…いえ護児国王様の思惑通りですね。私が人質に出されていればもっと効率的に…」「テイソ、その時は私が行きます」「それムリ」「行くってばー!」
仲良しコンビは今日も元気だ。
「失礼します、シャトー・ダキンドン教区カテドラル孤児院代表代理、ロボシです」
「え?ああ、入って」
ミデティリア帝国第七皇子と名乗らず、孤児院の代表と名乗ったロボシ君。かっけぇ。
「麗しい慈母の如きオーテンバー女王に御目通し願い得た事に感謝します」
ケッ!イケメン様は吐き出すお言葉すらイケメンかよ?ホレ、オーティがぽ~っとしてるぞ?
「は、はい。それで?」
「孤児国から各国の孤児院へ、ワクチン注射への抵抗を減らすため、宣伝に協力する様求める手紙が来ています。
ダキンドン王国の孤児院責任者と、音楽に優れた子供を集め、至急応じるべきかと進言致します」
「魔導士様が来るの!」「来ません」「え~」なんて解り易いんだオーティ。
「護児国王様は各地へ指導役の儀典部音楽課の技師を派遣します。
効率よくワクチンを接種させ、あの大予言の様な地獄を防ぐ事こそ急務と存じます」
オーティーとテイソ卿の脳裏に、国際会議で見た演劇の、救いの無い結末が過る。
「解りました、直ちに国内に通達します。日程の詰めはそれからで。会合には私も出席します」
「魔導士様は来ませんよ?」
「それでも出ます。これからがんばってくれる子供達に、頭を下げてお願いしたいのです」
「女王様は、やはり素敵です!お慕い申し上げます!」
チっ。イケメンはセリフもイケメン様だぜ。オーティ、顔が真っ赤だぞ?テイソ卿、すっごいニマニマしてる。
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ダキンドン王国による護児王国からの防疫体制受け入れはミデティリア帝国に、フロンタ王国、ドワーフの里に伝えられ、同様の体制が取られた。恐らく鉄道による移動の早さも相まって、ニケ月程度でワクチン接種は完了するであろう。
かつて大陸西部に疫病が侵入した際、ある時は厖大な死者を出し、免疫が生存者に広まって沈静化した事例もあった。
ある時は、より厖大な死者を出し、社会を破滅させた事態も起きた。
しかし今、この大陸は、歴史上初めて人工的に衛生環境を整えた。
疫病を撒く敵と衝突する作戦を開始した。
実際の疫病の歴史は、こんなホイホイ簡単に行くものではなく、宗教や迷信の壁が立ちはだかり、その所為で多くの犠牲が出ました。権威を味方につけていたとしても、迷信は打は出来ないでしょう。たとえそれが現代であっても。
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