66.結婚のすべて
前回のあらすじ:タロウは時々ゾっとする様な話が入るので好きです。
「この地域は戦場となる!村民には新しく開墾した土地を与える!速やかに移動せよ!」
ダキンドン国境のとある村で王家の使者が村長に命じた。
「お断りします」「え”?」
「お断りします!」使者の、王国からの命令に、背いたら死罪になる様な拒否を村長は宣言した。
「御下命は、ダキンドン防衛の為にご配慮頂いた、聖女オーテンバー様の慈悲溢るる有難きものと、頭を深く下げて感謝します」
「では…何故と、聞くのも無粋なんだが」使者は村長の決意を感じつつ問う。
「我が村を城と成し、我が民を兵となす様御命じ下さい!」
ボーコック国境の村々は怒っていた。ダキンドンや帝国がボーコックへの優遇政策を止めた後、困窮したボーコック民が侵入し盗み、犯し、まさに悪行三昧だった。
そのため、近辺の村々は強い敵意を持って、反撃の機会をうかがっていたのだ。
例え難民を装おうとも、例え女子供であっても、いつかは尻尾を表し、略奪を行う。その場を抑え、犯人を処刑する。その準備を整えていたのだ。
「村民の尽力に感謝する。しかし、お前達を守るのが国の仕事なんだぞ?」
「有難きお言葉!されど国民もまた国を守るべきではないでしょうか?
敵は我が糧を奪い、我が娘を犯そうとする外道!例え国が止めようとも我等は奴等を殺します!」
使者は頭を抱えつつ。
「そうだな。あの女王様にはきつい話になるが…
お前達の直面してるボーコック民の蛮行は無視できない。報告するよ。
だが、最終決定には従ってくれ」
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この様な村々との交渉がダキンドンとミデティリアの中枢に報告された。
そして、大陸暦1512年美の月。
・主要街道に要撃拠点を建設する
・要撃拠点には鉄道を敷設する
・難民を装った反乱分子と武装集団を隔離する施設をノキブル川沿岸に建設。反乱が起きた場合は施設ごと水没させ殲滅する
・ダキンドン王国、ミデティリア帝国、フロンタ王国、護児王国、ドワーフの里周辺は「防疫計画」を発動し、物資・人員の供給を開始する
・創世教会は「防疫計画」を支援し、妨害する枢機卿、司祭があれば速やかに抹殺する
という命令が発動された。
そこから凄まじい勢いで東の国境は築城ラッシュに包まれた。
ボーコック王国と、北のダキンドン王国、南のミデティリア帝国の国境は、魔の森イニロトナス山から流れるノキブル川。それを渡る街道はシルクロ街道を始め4街道。
内帝都マンナへ向かう街道は司令部サミット城が守る。
それら街道を守る拠点だけでなく、難民という敵対勢力の押し付けを受け止め、そいつらが蜂起した際には殲滅させる拠点が各街道東国境に8ケ所。
勿論、蜂起なんてしないで大人しく暮らしてくれたら帰国させ復興を支援する予定だ。
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グランディア大陸に戦争の危機が告知された。
勿論、我らが護児城にも。各地の築城に備え、材木が鉄道で送り出される。城の子供達も、築城のノウハウを実習するために私と一緒に帝国へ向かう。
「戦争になるんだ」
「沢山人が死ぬんだ」
「何言ってんだ、俺たちなんて御屋形様がいなかったらとっくに死んでんだ!」
「でも、もしレンドリー様とかお姫様が死んだら嫌よ!」
もう姫じゃないってば。あとリベラ卿の人気がイケメンレンドレー氏以下なんだ。
だよねぇ。
******
そんなある日、コマッツェから相談を持ち掛けられたので「覚悟亭」に行った。
亭主と女将の赤ちゃんも、もうトテトテと歩き回り、客の笑顔を誘う福の神になっている。
「結婚します」「遅え!」相談は1秒以内で終わった。
「あまり派手にしたくな…」「無理!全力でヤルッツェコマツェン!」「何それ」
その夜はコマッツェのムジカ愛を散々聞かされ、最後はしびれを切らした女将がコマッツェに脳天チョップ喰らわして終わった。
でも、何と言うか、楽しい夜だったよ、ありがとう、コマッツェ、そしてこの場にいない愛されムジカ。
「でもさ、気になるんだ、ダンの奴がさ」そっからが本番かよ。
友達っていいもんだ。コマッツェの友情に私は泣きそうになった。
******
で。
「ダン、お前どうすんだ?」翌日、私がダンを覚悟亭に呼んだ。何故か、隣にステラ。
「男同志の話なんだから」と同席を拒否したけど「あたしの弟よ!」と拒否された。
「で、どうなんだ?お前姉ちゃん泣かすのか?」
「な、泣きゃしないだろよ!」「泣きそうよニブチン!」
へっ、いつもの逆を喰らわせてやったぜ。
「私はね、ダンに励ましてもらったから、今幸せなのよ。あんたどうなのよ?ねえ!」
ステラもちょっと出来上がってる?
っと、ダンが深刻な顔をしている。
「俺は、この先が判らないんだ」
「どんな風に?」私は、突然真剣な顔になったダンに、なるべく優し気になる様に聞いた。
「俺はヤミーを幸せにしたい。でも俺があいつらと戦って死んだら、あいつは一人になっちまう」やっぱりそうだよな。だが。
「戦争を前にしたら、男は自分の心に素直になるしかないだろうなあ」とぼんやりと答えた。
「なんか投げやりじゃないか?」
「まあそんだけこういう問題って、考えてどうにかなるって事じゃない。結局は…
右か左か、戻るか行くか、覚悟の決め所。決断一つなんだ。
もう決まってるんだろ?」
ダンの顔が引き締まった。
「…ああ!」
「がんばれ!」冷やしたガラスのジョッキで乾杯する。
「俺は死にはしない!負けやしない!勝つために戦う!そしてヤミーに思いっきり美味しいものを食べてもらって、笑顔を守るんだ!」
「ダンー!」ステラも喜んで弟を抱きしめた。
自分の子供ではないが、ずっと一緒に暮らしてきた、しかも逞しく魔物から城を護るまでに成長したダンと酒を飲み、結婚を語る。こんな幸せな事は無い。
*******
数日後。出城での当番を終え、不自然にも三之丸駅で途中下車するダンとヤミー。
去り行く列車では、事情を全部知ってる皆が、成功を祈りつつ二人に背を向けていた。
「なあに?ダン」
「そろそろ誕生日も近いからさ、プレゼントを渡したくってさ」二人ももう成人を過ぎ二十歳も近い。
「うれしー!何くれるの?」
ダンは小さい箱を差し出す。中には、虹色に輝くミスリルの指輪。ダンも同じものを持っている。アンビーの指導の下、二条の輪が絡み合ったデザインのものを仕立てたのだ。中々に高度な技である。
「きれー!ダンとおそろいだー!」
しばし沈黙する二人。
「俺と結婚して欲しい!これは婚約指輪だ!」
「いいよー!」
一瞬唖然とするダン、ニコニコなヤミー。
「あー、何か、迷ったりとか考えたりとかしないのか?」
「だってずっと一緒だったんだもん。あたしはダンのおよめさんだよ?」
子供の頃から全く変わらないヤミーの笑顔に、思わずダンは彼女を抱きしめた。
「必ず…幸せにするからな!」
「あたしもういっぱいしあわせだよ?」
「もっと幸せにしてやる!」
揃いの指輪を填め、いつも通りのヤミーと少々照れたダンを、二之丸御殿は笑顔と歓声で迎えた。
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かの「グランディア国際会議」と名付けられた、護児城最大の祭典依頼、久々に、城は内向きの祭典でにぎわった。
城内最初の結婚式が、断続的な50組の式典だったせいか、何故か友人夫婦と一緒に挙式するのが幸せになれるジンクスみたくなっている。
今日は、コマッツェ・ムジカ、ダン・ヤミーの、城の牽引役二巨頭の結婚式だ。
南之院の壇上で指輪を交わし、署名し、キスを交わす夫婦。
四人を包む拍手と歓声。「おめでとう!」「やっとかよ!」「幸せになって!」
やっぱり私も泣いてしまう。普段クールな、時にクールを通り越して時代はパーシャルになっちゃうステラも今日は熱い涙を堪え切れていない。
テンポラ率いる楽団が、眼に涙を浮かべ結婚行進曲を奏で、聖典の祝福歌を合唱する。
時々、感極まって音程がずれる演奏と合唱。しかし魂の籠った演奏の前に誰もが違和感を感じない。
料理組も気合を入れて次々と振る舞う。これフロンタやミデティリアの王宮料理より絶対美味しいって。
「おいしーねー!」初めて会った日の翌朝と、何も変わらないヤミーの笑顔。
自分を祝う歌声と一緒に歌ってしまうムジカ。
周囲を見回し手がせわしなく動く天性の絵描きコマッツェ。
そして、私に向かって、ステラに向かって、硬い決意を込めた視線を送るダン。
夜の闇の中白い天守が、子供達、いや若者たちの未来を祝う様に、輝いて聳えていた。
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「ダンにいちゃん、とってもかっこよかったね」
二之丸長局。眠りにつく頃、布団の中で、ミッシが私とステラに言った。
「わたしもヤミーちゃんみたいな花嫁さんになりたいな」
「ミッシは誰のお嫁さんになるの?」悪戯っぽい笑顔でステラが聞いた。
「ん~、ダン兄ちゃん!つよくてかっこいいもん」やっぱりダンは人気だ。
「そうね。ダンだったら…え~?どうなの御屋形様?」
この地に来た時は1歳、栄養失調だったミッシももう12歳。しかし、体は小さい。そして。
「ダン程立派な男だったら、ヤミーの他に奥さんがいてもいいかもな。でも、それはダンが決める事だよ」
私は逃げた。
「あたしが大きくなって、ステラちゃんやプリンさんみたいにえっちになったら、ダンにいちゃんもお嫁さんにしてくれるかな?」えっちなったらって何だよ。
「ミッシ。大きくなったら、その時好きな人にお嫁さんにして、って言うんだ」
「何それ。私だったらダンをブン殴ってもミッシをお嫁さんにしろ!って言うわよ!」
「まあそう言いなさんな。二人とも、もう寝なさい」
そうして幸せな夜は終わった。
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