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65.血を吸う病は少女の所為

前回までのあらすじ:原〇禁が解散すりゃ商品化できるんだよなあ。


今まで読んで頂いて下さった皆様、一応最後まで素描を終えたので連載を再開します。

もしお待ち頂けたのであれば、素人作家として幸甚です。

 雪が弱まり、麦踏も楽になる戦の月(3月)、魔の森の東側で珍しい叫び声が聞こえた。

 普通は、絶望と無力感と悲痛な声がする。それは、無力な子供達が絶対的な恐怖と暴力の権化たる魔物を前にした、断末魔に近い叫びだった。

 しかし、今聞こえるのは、戦いの中で悪手を打ち、それを悔いる様な、ある程度の覚悟を決めた中の声であり、今まで魔の森で聞こえて来た悲鳴と比べて明らかに力のある声だ。

 かつてマヌケで優れたドワーフが森の北で角狼に遭遇して絶叫し、その数分後に逆転勝利して肉を焼いて食っていたみたいな状況に近い。


 来たか。


******


 私は悲鳴の下へ辿り、魔物を追い散らした。そこにいたのは、馬に乗った少女達10人。私と同じ黄色い肌と黒い髪の、だがしかし、私と違って美しい少女達だった。チッ。

「騎乗してこの山を越えたとは。旅人にしても普通ではないな」

「貴方こそ、あの魔物を一蹴するとは普通ではない」

「私はこの森で子供達と暮らすしがない魔導士だ」「名は」「忘れた」

 美しい少女は憮然とし、

「私はサスラー。未知の国を求めて旅する冒険家だ。彼女達は私と同行してくれる仲間たちだ。危ない所を助けて頂き、感謝する」


 怪我人の程度は軽く、瞬時に治療して城までの道を案内した。ノキブル川を渡り、青龍門を渡り、三之丸大手前の施設に案内した。


 城に近づくにつれ、彼女達は護児城の姿に驚き…はせず、「大きい城だな」とだけ話した。普通大きな城なら驚く筈だ。

 自慢の温泉を進めたが、固辞されてしまった。いや、私が混浴しようと強要したのでも何でもなく、風呂に入る習慣が無いそうだ。まあ、ニオイもあまりしないし、強く勧めるのは不自然だ。

 米食とパン食どちらかの希望を聞いたところ、普通にパン食だったが、小魚料理に関心を示していた。


「このパンは柔らかいな」「この魚は川魚か?」と、彼女等は城の少女の目…ではなく顔を真直ぐ見て話しかけた。ちょっと距離が近く、少女達は引いていた。

 逆に、少年達は食いついていた。唇が接しそうになる位に近づいて

「この弓があれば、20人位で魔物を追い払えるんだ!」「俺は王都の騎士なんて2人かかって来ても勝てるぜ!」「君達をずっと守ってあげるぞ!ここに住まないか?」「ここで暮らせば、のんびり働いて、色々な勉強が出来る。人間が何のために生きているか、ゆっくり考えられるんだ。ここで暫く休んでくれ」


 黒髪の美少女たちは、そんな下心丸出しの少年達の至近距離で

「まあ、強いのね?」「頼もしいですわ?」と、男心をくすぐる事を返してくる。

 男子達の、黒髪の少女達への想いが徐々に強くなる。しかし、それはメロメロというには少々悲壮感が漂っていた。


******


 夜。


 異国の少女達の寝泊まりする宿舎から、無言の影が飛び去る。それは彼女達がこの地に着いた初日から繰り返された。外堀も中堀も越え、二之丸御殿の中まで侵入する。

 侵入した異国の少女は、城内の少女と同じ服を着、子供達が寝る長局のあちこちで咳や深呼吸をする。そして宿舎へ帰って行った。


 少女達は二週間、恩返しと言って冬麦の刈り取りを手伝おうと申し出たが断った。子守りも申し出たがこれも「望まずしてこの城に来る事になったのだから」と断った。


 数日が過ぎ、異国の少女達は二之丸御殿で子供達の学ぶ姿を熱心に見、教科書、もとい幼児用の絵本や文字遊びの本を凝視していた。

 この娘達が驚く顔を、始めて見た様な気がする。

「この本はどこでも手に入るのか?」

「いや、こういう色や絵の付いた本はここでしか手に入らない。外の世界では非常に高価だ」と答えると少女達は考え込み、また本を眺めた。


 夕食後。子供達と距離を置く様三之丸で過ごしていた少女達は、子供達の発案で歌の発表会に案内された。

「春のお花はきれいだな」「畑が緑に植え渡り夏が来た」「赤や黄色の山の谷」等と四季の歌を歌う子供達。合唱や輪唱で少女達をもてなす。

 少女達は「素晴らしい!」と大声で讃えてくれた。それは、間違いなく心からの賛辞だった。

 子供達は笑顔で応えたが、今一つ嬉しそうではなかった。

 子供にだって見える物は見えるのだ。


******


 私はサスラーを天守に招いた。妻達は居ない。米の酒で持て成した。

「君は、どこへ行くんだ?」

「行ける限り、どこへでも。この地の果てまで。いや、地の果てがあれば、海を越えた新しい地を探す。それが冒険家だ」

「何を求めて?」

「私の使命を果たすためだ。何物も恐れず、ひたすら進み、使命を果たす。それだけだ」

「君の使命とは?」

「わが心の中にあるものだ。恩があるとはいえ他人に言うものではない」


 沈黙が訪れた。彼女は機械の様に、怯む事も心を許す事も無く答えた。


「子供達はどうだった?」

「恵まれすぎている。食事も、教育も、世話をする人達も。ここは…天界というものがあるのなら。いや、天界はこの地上には存在しない」

「同感だ。だから天界とまで行かなくとも、住みやすい場所を作る義務が私達にはあるんだ」

「この世にある以上、脆いものだ」

「そうだな。だから必死に守るんだ」

「守れるものなら…守りたい。しかし、必ずしもそうはいくまい」

 再び沈黙が訪れた。


 その後、道中の話を聞いたが、彼女は無難に大陸南方の港町の、既知の情報を語るだけだった。そしてその夜は別れた。


******


 そして。


 異国の少女達が来て10日後。宿舎の世話をしていた少女の顔や腕に、豆の様な疱瘡が付いている。彼女達は城の中心部へ帰って行き、替りの少女が世話に入った。それは、初日に異国の少女達が侵入した長局で寝ていた少女達だ。


 翌日。交代の世話役の少女も、手や顔に疱瘡を付けていた。


 更に翌日、異国の少女達は馬諸共消えていた。消えていた様に見えた、が。二之丸御殿の屋根裏に潜んでいた。

 その眼下には、顔や手、足に疱瘡を付け、寝かせられていた少女達や幼児がいた。

 無事な年上の少女達は必死に祈祷を捧げていた。男子達も小さい子の疱瘡を撫でていた。


 屋根裏の少女達は、満足そうな笑みを浮かべ、城を出た。もと来た道を辿り、魔の森の外輪山の東を越えて去った。

 その一部始終を私に見られているとは知らずに。


******


 その後、異国の少女達は魔の森の南を進んだ。

 各地の村では、多くの死体が積み上げられ、薪で燃やされていた。燃える死体の廻りにいる村人にも、疱瘡が付いていた。


 異国の少女達は複数の村を廻り、領主の城のある街の各地で煙が上がっているのを見て、一路東へ走り去った。


******


「もーいーよー」と私が言ったのは、異国の黒髪の美少女が、屋根裏を去った日だ。

 寝ていた子供達が、「付いていた」疱瘡を剥がしてゴミ箱に捨て、温泉へ向かった。

「ごめんね皆、お疲れ様。でも御屋形様、こんな芝居であいつら騙せたの?」とステラが聞く。

「間違いない。今頃辺境伯領で火葬を見学して満足してる頃だろう」

「あんのクソ女!あたしらの子を殺しに来るたぁえれぇ阿保共だて」アンビーがマジギレだ。

「アンビーちゃん、おこったの?」小さい子が心配してアンビーに抱き着く。

「ああ。あんたらに悪さする奴に怒ったんじゃ。あたしゃ許さんけの!」

「おこらないで、やさしいアンビーちゃんにもどって」抱き着いた子が泣きそうな顔で言う。

「おお、すまんな、すまんなあ。あんたは優しいええ子じゃよ?」と笑う。するとその子も「にっこりかわいいアンビーちゃん大好き」と笑顔になる。

「あの人達、お歌好きじゃなかったのかなあ」

 そうだ。あの少女達、いや、奴等は、常に自分達の息や飛沫を子供達に浴びせ、子供達を天然痘に感染させ、殺す事のみを狙っていた。


 奴等は、敵だ。

 明確な殺意を持って、この城の幸せを乱し、壊すのだ。私も明確な殺意を持ってあの娘達を抹殺する。


 さあ来い!出てこい!私が相手だ!


******


「状況を整理する」

 城の首脳会議…改め、王国閣議…も硬いな。『寄合』で行こう。寄合を招き、各部部長、部署によっては課長級も呼んで集まった。プリン達『無職』のミナトナも来てくれた。実態としては重職だけど。


「『敵』が来た。グランディア大陸東部、彼らがインジャ大陸と呼ぶ地の巨大帝国、イテキバンの尖兵だ。

 10日タダ飯食って逃げた女が帝国の第23皇女、サスラー・チャンだ。帝国には他に15人の皇子が居て、30人以上の皇子皇女が西に向かって軍団を率い、北と南からグランディアに向かっている」


「御屋形様…じゃなかった」「城内は御屋形様でいいよ」「じゃあ親父」「それは駄目だ」

 ダンと軽いアイスブレイク(緊張を解くための軽い会話)を交わし、質問を聞く。

「奴等、全部で何人位なんだ?グランディア同盟って言っても、ダキンドンと帝国の国境にはせいぜい5万人位しか出せないんじゃないか?」

「いい視点だ」

「兵站の問題もあるしな。御屋形様、城をアチコチに築いて、鉄道も敷くんだろ?」「え?バレてた?」「俺だったらそうするぜ!」いい笑顔しやがる、我が弟は!


「大体敵は100万」「「「100万!!!」」」

「途中の各国で支配した兵力や輜重、オマケにボーコックの難民という爆弾も入れてだ。奴等は凄いぞ、国がじわじわ引っ越してくる感じだ。しかも天然痘の免疫を付けた感染者だ」

「正直勝てるのか?」

「相手の出方が解ってんだ。10に1の負けも無いし、許されない。完全勝利あるのみだ!」

「「「オオー!」」」

「ちょっとまて、どうやって5万が100万に勝つんだ?」

「敵の実戦力は20万がいいとこだ、80万はボーコック難民だ。帝国とダキンドンを引っ掻き回すための偽装難民だ。まず難民を絶対に入国させない事だ。隔離して管理する」

「80万人って、この城の何倍なのよ!」

「この城はみんな豊かに暮らすための広さがある。そんなの偽装難民に与える必要は無い。

 数日生きる最低限の場所を与え、嫌ならご自宅へ帰って頂くだけだ」

「そのご自宅で生きられなくなったから逃げて来たんでしょ?」


「そんなの知らないよ!」今まで沈痛な面持ちで聞いていた姐さん組から、オイーダが叫んだ。

「自分の人生を自分で守れなくなっちまう、それはあり得る事さ。でもね、よそ様から頂いた場所や物にケチ付けて泣きわめく、そんな恩知らずな奴等は御屋形様が許したってあたしゃあ許さない、帰れ!って言ってやる!」

 私が言いたかった事を、同郷のオイーダが言ってしまった。

「他人の国に居座って、偉そうに被害者ぶってる奴なんて、例えこの世全部が平和になっても、自分の故郷が平和になってもねえ、我儘を聞いてくれる甘っちょろい場所から離れようとしないさ。

 いつまでも被害者ぶって我儘を繰り返すだけだよ!だったら極力早めに追い出した方がいい。全員おっ死んでくれたらなお有難いってもんだよ!はん!」

 強気に言い放ったオイーダだが、やっぱり泣いていた。彼女の肩を抱くと、オイーダは苦しそうに泣いた。


「死…80万人ですよ!?」

「1人でも100万人でも、この城やこの国に害を成す者は死ねばいい。この地の為に努力して、恨み言を言わない人とは一緒に暮らせばいいだけだよ。

 半分は20年は頑張ってくれるだろうけど、その半分は20年もすると頑張った見返りを求めて騒ぐ。100年後を考えたら…死んでもらった方がいいかも知れない」

「80万人の中には、この城の子と同じ、小さい子や赤ちゃんもいるのよ!」

「同じじゃない!違うんだ、奴等には帰る土地がある!それなのに逃げてばかりの奴に、何の未来があるんだ!」

 皆が私の反応に意外と感じた。


「自分の国、自分の土地がどんなに荒れ果てても、そこで頑張ろうとする人には未来がある。自分の土地を捨てて他人に甘えて他人を侮辱して生きようとする奴は死ぬべきなんだ!」

「俺も親父の」「オ・ヤ・カ・タ!」


「御屋形様の意見に賛成だ。あの女の子…サスラー?は、絶対妥協しちゃ駄目な奴だ。人を殺す事に全く迷いがない。甘えた考えしてると首を掻っ切られる。

 偽装難民達だってあんな強い覚悟は無いだろう、でも前に城に来て俺達に威張った糞野郎共と同じだ。威張り腐って、俺達の暮らしを乗っ取ろうとするだろう。

 サスラーは多分それを知って送り込んでくるんだ。

 親…形様。早く100万人をやっつける方法を同盟各国に伝えようぜ!」

「よし。まずその文書をダンが書け!」

「お…おう!」ちゃんと赤ペン先生してやるからな。因みに教材はバインダー式だ。嘘。


******


 護児城改め護児国からの使者だけでなく、ダキンドン東国境の各地から、帝国からも、幾多の報告が「統合防衛軍」司令部へ寄せられた。

 護児国で締結された国際条約、「イニロトナス条約」に基づいて設立された、5ケ国+総本山の統合司令部が、ボーコックに通じる街道の中でも最も太い街道、シルクロ街道の東端に建設された。設計させられたのは私だ。


「建設は我々がやる」と、強欲皇帝ミオミルニ31世が言い放った。

 どういう風の吹き回しかと言えば、護児城や御在所のノウハウを吸収したいそうな。

「この大陸の森林資源を考えたら、今まで通りの石材の城でいいんじゃね?」

 と反論したけど、やっぱり第一皇妃だけじゃなくて5人いる皇妃から城をねだられていたそうな。他人の事言えんけど凄いな。

 国を傾けない程度に私財で頑張れと、縄張に作事に勤しんだ。その結果。


 ノキブル川を国境としてシルクロ街道のすぐ西に、街道を見下ろす丘に、豪壮な城が完成した。五層の天守が聳え、階段状の石垣を街道に向けた、これまた秀吉の城、木幡山伏見城を参考にした城が、帝国とドワーフの匠の手によって完成した。

 凄い。御殿こそ帝国風だが、石垣に門に櫓、よくも護児城の設計を忠実に再現したものだ。柱や梁は、設計図で教えた通り、木の釘しか使わない、はめ込み式の細工でガッチリと組まれている。

 建材である木材は城からの輸出だけでなく、帝国領内で開拓を阻んでいた強固な木材を、魔導チェンソー…ドワーフのアイデアで実現した魔道具で切り拓き、製材されたものを使い構造的には石の塔よりも頑丈な櫓が組み上げられた。


 魔の森を中心に、北はドワーフの里を越え北東の人里まで伸び、南はミデティリアン帝国を経由し大陸南岸を西に向かいフロンタ王都まで結ぶ大陸幹線を大動脈とし、支線としてシルクロ街道線が建設された。これまた私の「チェースト」ではなく、帝国が人と金を割いて自らの力で築いたものだ。その鉄路が魔の森の木材を天守や櫓の心材に、帝国の木材をその他の建材にと運ばれた。


「敵は攻城兵器の概念が違う。割と護児城の方が作り易いし対峙しやすい」

「まああれだ。東の帝国に似た城があった方が敵もビビるっしょ?」

 みたいな軽いノリで、シルクロ街道を始めとする主要街道の各地に、護児城を真似た城の建設が計画された。いずれも敵から見て威圧する様な地に陣取り、敵の行進を妨げ、侵入を随所随所で分断し、各個撃破する設計とした。


 かくてこのヨーロッパ的な異世界で、現地民による初の日本風城郭、サミット城が完成した。


 本日は夕方スタートですが、明日以降どうするかは不安定です。ただ毎日更新は続け度思います。


 もし楽しんで頂けたら、下の星を増やして頂けるか、ブックマークして頂けるると大変嬉しく思います。

 また、感想を頂けると励みになりますので、

「ここの意味がわからん」

「このネタっぽいのがわからん」

「キャラ図早う!」

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